皇位継承「男系男子」に限った二つの理由 識者「皇室制度、議論を」
国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)は29日、日本政府に対する勧告を含む最終見解を公表した。最終見解では、皇位継承における男女平等を保障するため、男系男子のみが皇位を継承すると定める皇室典範を改正するよう勧告している。
皇室制度に詳しい所功・京都産業大名誉教授は、「まず、天皇や皇族という特別な身分のあり方は、一般国民に認められている権利とは区別して考えるべきだ」と話す。
今回の勧告でも前置きとして「皇室典範の規定は女性差別撤廃委員会の権限の範囲外だ」とする日本の立場に「留意する」との言及がある。
所氏は、勧告の有無に関わらず、日本の皇室制度は、日本の歴史や現実を踏まえ、根本的に議論すべき問題が存在しているとみる。
そもそもなぜ、明治時代に制定された旧皇室典範は、それまで明文上の制約がなかった皇位継承資格者を男子に限定したのか。
所氏によると、実務上の理由から、男子による皇位継承を優先する慣例が長く続いてきたが、近世まで「男系」と「女系」をしいて区別するような論議は見当たらず、1885(明治18)年ごろまでは、宮内省(現・宮内庁)の関係者が作成した旧皇室典範の草案にも、女子による皇位継承を認める案が含まれていた。それを、初代内閣総理大臣を務めた伊藤博文や、政府高官の井上毅らが、あえて皇位継承者を「男系男子」に限定することにした。
これには二つの理由が考えられると所氏は言う。
一つは、1873(明治6)年の太政官(だじょうかん)布告で、皇族の男子は軍人として陸海軍に従事するよう明示されたことだ。高貴な地位にあるものは一般国民に率先して範を示さねばならないという考えが背景にある。軍人である皇族男子の上に立つ天皇は、軍の統帥権を有してもおり、それには「男性でなければならない」という結論になった。
もう一つは、旧皇室典範では、庶子にも皇位継承資格を認めていた。これにより安定的に男子を確保できる可能性が高いと考えられた。現に大正天皇は庶子だったが、美子(はるこ)皇后(昭憲皇太后)の実子(養子)とされた上で、皇太子となった。
所氏は「当時の一般社会でも、男性が上にたち、女性が従うという観念が広く浸透していたことも大きいだろう」とみる。そのなかで、「皇室制度のみが、その観念と異なるあり方となることは考えにくかった」。
ただ、第2次世界大戦後は、戦力不保持を定めた新憲法が定められ、皇族男子を軍人とする必要もなくなった。さらに新しく制定された皇室典範では、庶子に皇位継承資格を認めず、これにより側室も否定されたことになった。
「この段階で、たとえ男子を優先するとしても、女子にも継承資格を認める議論をすべきだったが時間的な制約からそれが十分になされなかった」と所氏は言う。
皇位継承者となる悠仁さまが誕生した2006年ごろから、安定的な皇位継承の議論はほとんど進んでいない。
21年にまとめられた政府有識者会議では①皇族女子が結婚後も残れるようにする②旧宮家の男系男子を養子として皇族にできるようにする、といった制度改正案が提示された。
所氏は、皇位継承資格を男系男子に限ることにした前提が二つとも変わっているのだから、「勧告の有無にかかわらず、どのようにすれば、皇族の男女を確保して安定的に皇室制度を引き継いでいけるか、真剣に議論することが必要だ」と話している。(中田絢子)
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- 【視点】
一部保守派が男系男子に固執してきたことで、皇位継承問題の議論が硬直化してきたところがあります。そうしたなかで、保守派の論客である所功氏からこのような意見が示されることは(ほかのメディアでもすでに述べられていたことではありますが)、重要な意義を持つといえるでしょう。ただ、男系男子論はかなり独り歩きしてしまっている感があり(「本当の保守派」かどうかを図るリトマス試験紙のように言われることもあります)、いまさら保守派のなかで撤回できるかどうかは不透明です。今後の動向が注目されます。
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- #女性差別撤廃委の勧告
- 【解説】
国連の女性差別撤廃委員会が勧告したから急に慌てだし、その勧告の通りに変えなければならないというのはおかしな話ですが、いずれにしてもこの問題の議論を日本社会は先送りにし続けてきたということです。2006年に悠仁さまが誕生して、それまで多少は出ていたこの種の話がピタリと止まったことをよく覚えています。「先送り体質」は根深いですね。 記事中でこの問題の保守論客である所功先生が述べているように、「男系男子継承」が近代になって新設されたルールであって、前提となっている条件がもはやちがうのだから、どこかで何かを変えなければならなくなるだろうと見込まれると。 ただ、その「変え方」が、 >21年にまとめられた政府有識者会議では①皇族女子が結婚後も残れるようにする②旧宮家の男系男子を養子として皇族にできるようにする、といった制度改正案 の通りでよいものかどうか。少なくとも戦後の天皇・皇室は国民とともにあり、国民に支えられて存在するものですから、「女性天皇」に賛同し期待する多くの声にどう応えるのか。それも「真剣な議論」の中には含まれるはずです。
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