トライアングラー
『何をだ』
僕はデイジーに興味なんて全くなかったから、ぶっきらぼうに返答を返すと、白いレースのハンカチを取り出し、デイジーは大げさに涙を零して僕を見る。
『キャンディスという子と婚約なさったんですって…』
『あぁ、そうさ』
『酷いわニール、私とは遊びだったの』
『お互い楽しんだんだから良いだろう』
そう言って僕が踵を返すと、デイジーは僕がプレゼントした花のブローチを投げつけ僕に抱きつく。
『お願いよ、ニール』
僕はデイジーを引っぺがし車に乗って彼女を街に置き去りにした。
そして、婚約パーティの日、僕の妻キャンディを会場で待つが、待てども待てども来ない。
女の支度は遅いって言うが遅すぎる。イライラがピークに達した時、人込みをかき分けアイツがやって来たが、とんでもない事を言いやがった。
僕と結婚しないだと!しかもキャンディの養父が、あのアパートで暮らしていたヤツだと知った今、僕には何も出来ない。
悔しくて悔しくて僕は誰もいないテラスへ向かうと、
『ニール!』
『お兄様』
僕と結婚しないだと!しかもキャンディの養父が、あのアパートで暮らしていたヤツだと知った今、僕には何も出来ない。
悔しくて悔しくて僕は誰もいないテラスへ向かうと、
『ニール!』
『お兄様』
ママとイライザが僕を慰めてくれた。そこでイライザは、日本はおもてなしの国だから心の傷を癒すのに良いと聞き、僕は船で大阪に着いた。
『お兄様、あれが食い倒れ人形よ』
『あの丸いものは?』
『あれは、たこ焼きって言って中にタコが入ってるの』
『タコ!日本人は、そんな野蛮なものを食べるのか?』
今までにない珍しいものを見ながら歩いていたら、僕はイライザからはぐれてしまった。困ったな…。
その時、僕の目の前にエロスの女神が舞い降りた。なんて美しいんだ…キャンディなんて比べものにならないじゃないか!
僕は彼女に近づいた…。
涙?
『どうしたんだ』
ハッと僕を見るドキドキと胸の鼓動が煩い。
『あの…』
『僕はニール。君の名は…』
『まぁ…』
涙で声がくぐもって、そこしか聞こえなかった。
『まぁちゃんで良いか』
静かに彼女は頷く。彼女の涙は東洋の真珠に見えた。
『教えてよ、涙の訳を』
僕は彼女を近くのベンチに座らせ、隣に座る。
『お別れしたの…』
『えっ?』
『彼はジョニーって言って、ニールのように突然声をかけてきて…』
まぁちゃんの話を聞いたら、稽古の時にスザナという女は、落ちてきた照明から不良役者を庇って足を失い、
責任を取るため、キャンディを捨てたらしい。なのにキャンディは、まだあの不良役者を忘れずに僕を振ったんだ…。
でも良いさ、僕の女神と出会えたんだ。
でも良いさ、僕の女神と出会えたんだ。
そしてジョニーと別れた理由を再度聞くと、ある日スザナからおでん屋に呼び出されたそうだ、車椅子の彼女からジョニーとの馴れ初めを聞かされたそうだ
スザナは、不良役者がどこかへ旅立ち戻って来ず、ジョニーが献身的に世話をしていたが、スザナの我儘に疲れたと言っていた。
おでんを買いに行かせ、スザナに渡したら、「違う!もつ煮が食べたいの」と言われ、買い直しに行かせたり、
おでんを買いに行かせ、スザナに渡したら、「違う!もつ煮が食べたいの」と言われ、買い直しに行かせたり、
真冬にハーゲンダッツの限定アイスが食べたいと雪の中買いに行ったら、「違う!雪見だいふくの信玄餅が食べたかったの」など上げたらキリがないくらいだと。
心を癒すために大阪に来て、まぁちゃんに心を奪われたけれど、スザナがの嫉妬と嫌がらせが怖くて別れるしかなかったそうだ。
『僕はフリーだから、僕の胸に飛び込んでおいで』
僕は大きく両手を広げたが、汚いものを見るように僕を見る。
僕はその眼差しに、これまで感じたことのないゾクゾクする快感を知った。
『悪いけど、私はテリィもジョニーも忘れられないの』
『まぁちゃん』
彼女はスッと立ち上がり、
『ほな、また』
と手を振った…僕は美しい後ろ姿を彼女が見えなくなるまで見送った。
『ジョニーってどんな奴なんだ?あのバラのような唇を味わったのか…』
続く
イライザ視点
『イライザ、僕にエロスの女神が舞い降りたんだ』
大阪で迷子になったお兄様を探して見つけたら、突然変な事を呟く。キャンディに振られたショックが大きいせいかしら?距離を離せば忘れると思ったのに。
その夜、お兄様はホテルのベッドでずっと枕を抱きしめ、
『まぁちゃん…まぁちゃん…僕の…女神』
『まぁちゃん…好きだ…僕の別荘を全部あげるよ…』
こんな寝言をずっと呟いていて眠れなかった。
まぁちゃんって誰?