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231.非道王女は肝に銘じる。


「…そうか。ヨアンが。」


サーシス王国。

ランス国王が、戻ってきた私達の報告を聞いてほっとひと息ついてくれた。少し最初よりも表情が和らいだランス国王に私は頷き、話を続ける。


「ええ、ヨアン国王はセドリック第二王子の説得のお陰でチャイネンシス王国と共に戦う覚悟を決めて下さりました。」

女王代理である私とヨアン国王は、チャイネンシス王国で正式にハナズオ連合王国としての同盟締結と合意の手続きを行えた。

本当はこの場にヨアン国王を連れてきたかったのだけれど、あの一回の演説だけでは国民全域には国の戦う意思が伝わりきらない。

国民同士の口ですぐ広まるだろうけれど、戦準備も含めてまだ城を離れることは難しそうだった。


「国境の壁については全撤廃は難しそうですが、私達が越えてきた壁の一部のみ急ぎ撤去と全衛兵には壁警備解除の命令が出されました。恐らくもう暫くすれば軍も問題なく行き来できるでしょう。」

私の説明に何度も頷きながら、ランス国王が「何から何までっ…感謝致します‼︎」と頭を下げて心からの感謝を示してくれた。…正直、私は何もしていないのだけれど。でも、私達を送ってくれた騎士達への賛辞と思い、有り難く受け取った。


「残す問題は、防衛戦に向けての各国の布陣と防衛形態ですが…。」

フリージア、サーシス、チャイネンシス。この三国でチャイネンシス王国を守らなければならない。小国とはいえ、一つの国だ。ある程度敵国が攻めてくる方向や戦力の予想はつくけれど、戦においてはこの配置こそが要となる。私の問いかけにランス国王は「それならば、我が国でもある程度は準備をしている。」と答えてくれた。でもそのまますぐに腕を組み、少し難しそうに唸ってしまう。


「だが、フリージア王国の援軍やチャイネンシス王国の協力も得られるというのならば各配置などは考え直す必要があるでしょう。」

「ええ。それで、なのですが…。」


大変重ね重ね恐れ多いのですが…、と思わず言葉を濁してしまう私にランス国王が首を捻った。…言わないと、続きを。でもここまでズカズカ踏み込んできちゃったのに、ここまでやると本当にゲームの傍若プライドみたいな行動で嫌なのだけれど。

そこまで考えてすぐ、背後に控えてくれている怖い気配を背中で感じ、とうとう観念した。


「……我が国の優秀な宰相と騎士団長、そして次期摂政のステイルから提案があります。是非、この場をお借りして〝三国〟で急遽作戦会議をしたいとのことなのですが…いかがでしょうか。」


私の紹介と同時に、ジルベール宰相、騎士団長、そしてステイルが前に出てくれる。

…約二名からもの凄く怖い覇気が放出される。

ランス国王もそれを感じたのか、尋常でない覇気に肩を上下させた後「〝三国〟…?」と聞き返してきた。そう、三国だ。ランス国王の疑問に答えるように「ここは、私が」とジルベール宰相が優雅に肩まで手を上げて笑ってくれた。


「申し遅れました。フリージア王国、宰相を任されております、ジルベール・バトラーと申します。」

お会い出来て光栄です、と挨拶しながらジルベール宰相が手の中の紙の束を軽々と握り直した。


「先程、チャイネンシス王国にてこちらに戻る前に我が国の通信兵一名と数人の騎士をヨアン国王の元、預かって頂きました。」

〝通信兵〟という聞き慣れない言葉に再びランス国王が疑問を顔に表した。ジルベール宰相がそれを理解した上で、背後の騎士の一人に合図を送った。

別の通信兵だ。彼は王座から近い柱に手を置くと、柱に向かい「こちらサーシス王国、〝視点〟の固定完了。直ちに通信を繋げよ。」と数回繰り返し唱え続けた。暫く待つと今度は王座の真ん前から『こちらチャイネンシス王国、映像を確認。ただ今通信中、返答を求む。』という声と同時に通信兵の映像が表出した。

流石にこれにはランス国王もかなり驚いたのか「なっ⁈」と大声を上げて目を白黒させていた。


「我が国の特殊能力者による連絡手段です。チャイネンシス王国の映像が今こちらに送られております。逆にあの柱から見える映像がチャイネンシス王国にも送られています。」

ジルベール宰相が、ランス国王の反応を気にする様子もなく簡単に説明をしてくれる。向こうでも騎士が同じような説明をしてくれている。…ヨアン国王に。


『良かった…。本当に、本当に元気そうだ…。』

「!ヨアン⁈」


聞き慣れた声にランス国王が、そして傍らに並んでいたセドリックも反応する。すると映像いっぱいに映っていた通信兵が退き、その背後から玉座に座ったヨアン国王の姿が映った。

こちらからの映像ではヨアン国王は斜め向こうを見ていた。きっとそちらに映像があるのだろう。


『ランス。…本当に、良かった。…君の元気な姿をまた見れて嬉しいよ。』

「ああ、要らぬ心配をかけてすまなかった。この通り今は何の心配もない。」

ヨアン国王の心から嬉しそうな声が映像から聞こえてくる。それに答えるランス国王も力強い笑みで答えていた。そのまま「むしろお前の方が顔色が悪いぞ、そんな姿で戦えるのか」とランス国王が叱責すると、ヨアン国王が可笑しそうな苦笑いでそれに返していた。

肩の力が抜けたように笑う二人の姿に、どれだけお互いが心を砕く存在なのかが凄く伝わってきた。

何も言わないセドリックのことが気になって目を向けてみると、ランス国王の傍らで柱に寄りかかりながら、一人その小さな笑みを広げていた。


「…では、ご歓談中申し訳ありませんが本題に入らせて頂いて宜しいでしょうか。」


タイミングを見計らったように、静かなトーンでジルベール宰相が伺った。画面の向こうのヨアン国王も、ランス国王とセドリック、そして王の近くに控えていた各国の摂政と宰相も誰もが返事と共にジルベール宰相へ意識を向けてくれた。

流れるようにジルベール宰相達が明日の作戦や配置を提案してくれる。ステイルと騎士団長からの異様な覇気に全く物怖じしないジルベール宰相を改めて尊敬する。

時折ヨアン国王から「それが目的の陣形ならば、ここの戦力を強化して」やランス国王から「ならば、本陣とするのにこの塔は…」と提言があったり、ステイルからも「僕ならばここを攻めます。念の為に城の警備に我が騎士団を数名だけ置かせて頂きたい」や「念の為、今夜中に両国の城内を全て案内して頂きたい」と進言があったり、緊急時の終戦の合図方法など様々な意見が錯綜した。騎士団長からもそれが騎士の配備として可能か有効か判断して貰い、私からも意見を出したり話を聞きながら、同時に頭の中でついさっきのことを思い出していた。


セドリック達と国境を再び越え、サーシス王国側へと戻ってすぐにステイルは手短にヨアン国王を説得できたことをジルベール宰相と騎士団長に報告した。…そして、後から騎士団長を私達のところに呼び、私が血の契約をしたことも報告してしまった。

前世でも経験したことの無い、〝学校でやらかして親を呼び出された生徒〟のヒヤヒヤ感を完璧に味わうことができた。

勿論私は必死に、民に信用してもらう為には仕方なかったことと、騎士団が勝てると思ったからこそだと弁明したけれどそれでも



すっっっっっごく…怒られた。



そりゃあもう、予想通りにすっっっごく。

私がヨアン国王の演説に乱入したと聞いた時は、まだ騎士団長も片手で頭を抱えるくらいだった。でもその後に私が守れなかったら火炙りドンと来い発言をしたと聞いた瞬間、ステイルと私を見比べ、目を限界まで見開いていた。更に血の誓いを交わしたと聞いた時には、とうとう騎士団長は両手で頭を抱えて「またっ…‼︎」と噛み締めるように声を漏らした。

そのままステイルから「どうぞ、遠慮なく仰って下さい。第一王子の僕が責任持って許可します。」と騎士団長に許可を出した途端、離れてこちらを窺っている騎士達やジルベール宰相に聞こえないように抑えた声で「何故、そうも御自分の命を簡単に秤にかけられるのですか⁈」「戦争は遊びではありません、絶対などあり得ないのです!」「これは女王陛下と王配殿下に報告できる域を越えています!」「我が軍にとってのこの防衛戦の意味合いが全く変わります‼︎」と連打且つ凄い剣幕で怒られてしまった。

思わず頭を下げて俯いたまま肩ごと小さくなってしまい、騎士団長のお説教が終わる頃には完全に亀のようになってしまった。

視界の隅でステイルはずっと同調するように頷くし、セドリックは気まずそうに自分の喉元を押さえながら眉間に皺を寄せていた。

…完全に化けの皮が剥がれて残念王女が丸出しになってしまった。近衛騎士の任で一緒にいたアーサーとカラム隊長も、騎士団長の凄い剣幕に背筋を伸ばしながら、私を止められなかったことを反省するように口を引き結んでいた。

そして、最後に私自身も重ね重ね謝った後「それでも、私はそれくらいの覚悟で望みたかったのです」と伝えると若干諦めにも似た溜息をつかれてしまった。


『元々、今回の防衛戦…我々は負けるつもりは微塵もありません。…ただし』


騎士団長が重々しく口を開いたと思えば、最後に今までとは比べ物にならない重厚感のある声と凄まじい覇気が爆風のように吹いた。あまりの凄まじさに私だけでなく、傍にいたティアラ、セドリックまでアーサー達と同じように背筋が一気に伸びていた。


『つまり、この防衛戦。ハナズオ連合王国の存続だけではなく…』


そこまで言うと、唯一平然としていたステイルへ騎士団長がゆっくり引くようして下がった。そのまま今度はステイルがにっこりと全く笑っていない目で笑いながら最後、宣言するように私へ言い放った。



『我が国フリージア王国の未来も掛かっているということになりますね。我が姉君、そして…次期女王プライド第一王女殿下』



事態の深刻性を心臓へ突き刺すように放つその言葉に、思わず私も口元をヒクつかせたまま「はい…」としか答えられなかった。

ステイルの言い回しがまたジルベール宰相に似てきたと同時に、以前よりも更に研ぎ澄まされた容赦の無さはヴェスト叔父様にも重なった。

騎士団長だけでもこんなに怖いのにジルベール宰相や騎士達にだけでも黙っておいて貰えて良かった。…騎士団長が「明日の配置直前に騎士達の士気を高める際、私からも彼らに報告させて頂きます」と言っていたけれど。

話が終わった後のジルベール宰相も、私達の顔色と様子を見てある程度察して「…私は、このまま聞かない方が宜しいでしょうか?」と苦笑気味に聞いてくれた。ステイルが「その方が良い」と即答で切り捨てていたけれど。

九番隊の人達にも箝口令を出し、セドリックにも口止めをして取り敢えず今はランス国王にも秘密にしてもらうことになった。

確かに、チャイネンシス王国とは同盟も結んでいなかったフリージア王国の王女が人様の儀式に乗り込んだなんて、バレたらドン引き案件だ。そう思うと今からジルベール宰相にバレた時も恐い。


…産まれて初めて、死ぬ気で私自身が生き残らなければと肝に銘じた瞬間だった。


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