鉄道の愛好家が「日本一」とたたえる貨物列車の整備場が広島にある。JR矢賀駅に程近いJR貨物の広島車両所だ。ジャーナリストの長田(おさだ)昭二さんも今春刊行の「貨物列車で行こう!」に魅力をつづる▲機関車と貨車の収容台数や働く人数などが国内最大級らしい。車両を分解し、部品を点検・修理して組み立て直す。「匠(たくみ)の技」への驚きに加えて、現場の和やかな雰囲気も特筆している。車両所は大きな家族なのだと▲そんなムードが業務への厳しさを薄めてしまったのか。広島を含む全国3カ所のJR貨物車両所で、車輪に軸をはめる際のデータ改ざんなどが発覚した。対象は630両を超える。文字通り足元を揺るがす問題である▲不正は遅くとも10年前から続くという。広島車両所にも連日、国土交通省の検査が入っている。おかしい―ともっと早く声を上げる社員はいなかったのか。周りが言いくるめていたのか。日本一の評判が今は痛々しい▲冒頭の本で当時のJR貨物社長は「安全はすべての基盤」と語っている。現実との食い違いは否めまい。人は乗せなくても、顧客の大切な荷物と信頼を運ぶ列車だ。安全対策をゼロから組み立て直すほどの覚悟が要る。