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番外 騎士は瀕死する。


「アーサー…。」


フリージア王国出国から、半日ほど進んだ頃。一区切りついた場所で先行部隊は馬を荷車から降ろし、馬も人間も誰もが地を踏みしめていた。

運転する先行部隊も当然だが、そうでなくても定期的に乗物を降りて休息をとらないと身体が固まる上、じっと動かずにいるのも疲労が溜まる。特に一番後続の荷車に乗っている騎士達は先行部隊の乗物が苦手な為、定期的に降りて休まないと吐くほど気分が悪くなる。その為、一番小ぶりの荷台に乗り込みあまり揺らさないように先行部隊も運転をしているがそれでもやはり辛いらしい。水を飲み、横になりながら各自英気を養っている。


「お疲れ様です。アラン隊長。……どうしたんすか?」


名前を呼ばれ、振り向いてみるとアラン隊長が早足で俺に歩み寄っていた。頭を下げて挨拶するけどアラン隊長からは何でか反応がない。それどころかアラン隊長にしては珍しくぐったりと顔を俯かせていた。まさか後続の騎士の人達みてぇに気分でも悪くなったのか。「飲みます?」と声を掛けながら、手の水をアラン隊長に手渡そうとした直後


ガッ‼︎と思い切り両肩を掴まれた。


あまりにもいきなりで、されるがままの状態で何度も瞬きをしてアラン隊長の言葉を待つ。

「…近衛騎士、今から交代な?もう半日経ったし、良いよな⁉︎なあ⁈」

思い切りグイグイと肩を掴まれ、「え?あ…はい」とわからないまま答えちまう。アラン隊長が自分から早く近衛騎士を代わって欲しいなんて言うのは初めてだ。早く近衛騎士の任に就きたいならまだしも、その逆なんて…


「でも…どうしたんすか?アラン隊長⁇」

俯いたまま俺の肩を揺するから、ガクンガクンと頭が一緒に揺れる。流石に心配になって、一度俺からもアラン隊長の肩を掴んで、俯いたその顔を覗き込む。…とアラン隊長の顔が


これ以上ねぇくらい真っ赤だった。


マジで熱でもあるんじゃねぇかと心配になって、俺の肩を鷲掴むアラン隊長の腕に触れるけど、変わらずアラン隊長の顔は赤い。そうしている間にもアラン隊長はぐるぐると目を回すように焦点が合っていないまま俺に独り言みてぇに言い放った。


「なんっかもう…あのプライド様のアレは反則だろっ…‼︎」


アレ、ってなんだ⁇

首を傾げながらふと、そういえば近衛騎士の任中のアラン隊長が何でここにいるのか気になった。「そういえばアラン隊長、今まだ近衛の任務中じゃ…」と聞いてみるけど、それについての返答は無い。まさかプライド様にまで何かあったのかと心配になってくる。

今朝は近衛騎士の任はカラム隊長とアラン隊長だったし、出国前のプライド様から騎士達への挨拶も、そして出国の時も俺はプライド様から遠く離れていたし、休息時間も今のところプライド達に会えていなかった。

王族やジルベール宰相は騎士達とは少し離れた場所で休みを取っているし、だからこそさっきまでは近衛騎士の任務中のアラン隊長とカラム隊長もプライド様と同じく全く休息時間中は見なかった。


「あっ、アラン隊長!」


聞き慣れた声に振り向く。同時にアラン隊長の肩が思い切り上下するのが視界に入った。そのまま元気なプライド様の声にほっとしながら、視界に正面からのプライド様の姿を確認して


全部理解した。


「お疲れ様アーサー。アラン隊長がどうやら体調が優れないみたいで…。」

「ぷっ…プライド、様っ…‼︎」


その姿を見た瞬間、アラン隊長と同じく自分の顔が火で炙ったみてぇにどんどん熱くなっていくのを感じる。

やべぇ、プライド様が騎士の格好をしてる!

しかもまた真紅の団服まで着てすげぇ格好良い。その上、いつもは綺麗に揺らしている髪を一本に括っていて、余計にプライド様の凛とした顔が際立っていた。

アラン隊長が俺にだけ聞こえる声量で「あんなん真近でずっととか無理だろっ…⁉︎」と俺に同意を求めた。


すげぇ、わかる。


俺やアラン隊長だけじゃない、突然のプライド様の登場に周囲の騎士達全員がざわついた。中にはアラン隊長みてぇに顔が赤くなっている騎士もいる。

プライド様の横に控えるカラム隊長だけが呆れるように溜息を吐きながら「アラン、近衛騎士が第一王女より先行してどうする」と声を掛けていた。

カラム隊長とか他の騎士は大丈夫みてぇだけど、俺には無理だ。プライド様の戦闘服なんて俺だって四年ぶりだし、アラン隊長や他の騎士は絶対初めてだ。しかも今回は鎧まで着用して、完全に騎士の姿だった。

まるで夢でも見てるんじゃねぇかってくらい凛々しいその姿に目が離せなくなる。その間もアラン隊長が体調不良だと勘違いしたプライド様が、俺が触っても耳まで赤いアラン隊長に、心配そうに背後から声をかける。


「アラン隊長、大丈夫ですか?もし気分とか悪いのならー…。」

「いえ!大、丈夫です‼︎はい!」


一気にアラン隊長の背が剣みてぇに真っ直ぐに伸びる。カラム隊長が「アラン、何故お前はそう極端なんだ」と呟いて額に手を当てる。確かに、二年前にプライド様がすげぇ露出の格好しても平然としてたアラン隊長までが何故こんなガチガチなのか俺にもわからない。でも、とにかく今のプライド様に緊張するのは痛いほどよくわかる。


「あ、その、プっプライド様…。」


やべぇ、何か言わねぇと。緊張のあまり顔を隠すこともできずにひたすら顔だけが燃えていく。俺の顔をみて、カラム隊長が仄かに笑んだ。それがまた更に恥ずかしくて本気でこのまま焼死するんじゃねぇかと思う。プライド様が軽く首を傾げた途端、括った髪が同じ方向に揺れた。それだけでも目が焼ける。


「〜っ…髪…き、…綺麗ですっ…!」


ッ髪だけじゃねぇだろ俺‼︎

何とか付け加えるみてぇに「その、格好もっ…」と言ったけど、本当についでみてぇな言い方になっちまった。でも、プライド様が全く気を悪くする様子もなく「ありがとう」と笑ってくれる。やばい、本気でハナズオに着く前に死ぬ。

俺が髪のことを言ったせいか、プライド様がふいに括った自分の髪の先を掴み、俺と見比べた。やっぱ何か失礼だったかとアラン隊長を振り切って逃げたくなった瞬間


「なんかー…この髪型ってアーサーとお揃いね。嬉しいわ!」


ボンッ‼︎と完全に顔が炎上する。

さっきのアラン隊長みてぇに俺まで目が回ってくる。倒れそうになったところで俺の両肩を掴んでいたアラン隊長に逆に支えられた。死ぬ、もう死ぬ、本気で死ぬ!


「姉君。こんなところに居られたのですか。」


また聞き覚えのある声がして、縋る思いで顔を向ける。ステイルだ。俺とアラン隊長、そしてプライド様を見比べて全部察したみてぇに面白そうに笑った。こういうとこが腹黒い。


「アーサー殿、そういえばそろそろ近衛騎士も交代の時間ですね。エリック副隊長と共に姉君とティアラを宜しくお願いします。」


ッそうだ‼︎さっきアラン隊長にこれから交代してくれって言われたんだった‼︎ずりぃこの人絶対俺もこうなるってわかった上で押し付けたろ⁈

思わず目の前のアラン隊長をみると、同時に大声で「そうなんですよ‼︎今交代の時間だって話してて‼︎俺、じゃあ一番隊戻ってエリック呼んできますね‼︎プライド様明日も宜しくお願い致します!ステイル様失礼致しますっ‼︎」って捲したてるみてぇに叫んで頭を下げると、全速力で一番隊の方に走っていった。一瞬速過ぎて瞬間移動でも使ったのかと思った。


「……まぁ、防衛戦までに見慣れておく為だと思えば良い。」

エリックには私からも宜しく頼んでおこう、とカラム隊長が俺の肩を叩きながらこっそり言ってくれる。はい…としか返事が出てこなかった。そのまま身体が硬直した俺の肩に腕を回してプライド様の後をついて行くように引っ張っていってくれる。心配そうに俺に振り返ってくれるプライド様を、ステイルが誤魔化して先導してくれた。だめだ、情けねぇのに身体が熱くて言うことをきかねぇ。


「そういえばステイル。ジルベール宰相や騎士団長達との話はどうだった?」

「ええ…話自体は今のところ、恙無く。」


そう答えるステイルから言葉に反してすげぇ不機嫌過ぎる覇気が零れてきた。またジルベール宰相になんか言われたのかアイツ。

そのまま振り向きざまにステイルがカラム隊長に「この後、是非ともカラム隊長も馬車で共に作戦会議に。」と笑いかけてきた。若干黒い笑みが残ってたけどカラム隊長に対してじゃねぇことだけはわかる。

ステイルの話曰く、騎士団長の父上は各先行部隊と打ち合わせに、ジルベール宰相は城との連絡の為に通信兵のところに行っているらしい。今朝の話で、確か昨晩また一人コペランディ王国の密偵が捕まったって父上が話してたし、フリージア王国も緊張状態で宰相は忙しいんだなと思う。


その後、アラン隊長に報告を受けたエリック副隊長と一緒に俺はプライド様とティアラと一緒に馬車に乗り込んだ。


プライド様がすげぇ近過ぎて、圧死しかけるのは馬車が動き出してわりとすぐだった。…その後もエリック副隊長に背中を叩かれて何とか呼吸を確保しながら馬車に揺られ続けた。


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