A short essay on the term "fiscal space" 「財政スペース」に関するちょっとした記事
財政スペースという単語が, 基礎所得保障(Basic Income Guarantee)を否定しない人たちによって, 否定的に騒がれているようだ.
1 MMT(現代貨幣理論)の一部だけを学んで, BI(基礎所得)に否定的にならない人がいるようです
例えば...
「政府が高く買う」という方法なら供給量に関する問題は起きない。
— 竜蔵@庶民を豊かにする経済論 (@ryuzou1200) October 8, 2021
高く買ってもらうことで余力のできた企業は投資に積極的になり、それがさらなる供給力の向上(財政スペース拡大)につながる。
財政スペース論者はこういう視点が欠けてるんですわ。
「財政スペース」急峻な財政支出の増大を恐れる人のために仮構された政治的経済学概念。主流派経済学モデル等でよく使われる。
— GiGi (@gigir) October 8, 2021
くらいの理解ですね。
PB黒字化と財政規律と財政スペースの違いが分からない
— コーエン@🐽豚バラマーク創始者 (@aag95910) October 8, 2021
それこそリッキー氏が財政スペースについて誤読があった的な事を言ってたから財政スペースちゃんは最早死んだと思ってたけど
— すぐやるお【反緊縮Reborn】 (@suguyaruo) October 8, 2021
案外残党がしぶといねw
財政スペース?何それ。
— 串焼き@5Gマイクロチップ搭載モデル (@dr_kusiyaki) October 8, 2021
財務官僚を埋めるための敷地のこと?
などなど...
2 財政スペースって何よ?
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/1467-8462.12400
このURLに, ビル・ミッチェルが書いた論文”Debt and Deficits-A Modern Monetary Theory Perspective”という論文がある. (もしもこのURLが機能していなければ, この論文タイトルをネットで直接検索してほしい)この論文において, ミッチェルが"fiscal space"について次のように述べている.
"MMT defines fiscal space in functional terms, in relation to the available real resources that can be brought back into productive use, rather than focusing on irrelevant questions of government insolvency."
まず, deepL翻訳をさせてみるとこうなる:
「MMTでは、政府の債務超過といった無関係な問題に焦点を当てるのではなく、生産的な利用が可能な利用可能な実質的資源に関連して、機能的な観点から財政スペースを定義する」
次に, わたしが翻訳したものを載せておく:
「MMTは, 財政スペースを, 生産的な使用に戻すことが可能である, 利用可能な実物資源との関連において, 機能的な意味で定義するのであって, 政府の支払い不能性に関する, 無意味な疑問に集中しているのではない」
MMTは, 主権政府(アメリカや日本のように, 変動相場制を採用していて, 自国通貨を発行している政府)には, 支出能力において「は」無限の権力がある, という話はしているが, だからと言って, 主権政府に実物資源(人間労働や土地など)のすべてを集める, 集約するという話をしているのではない. 主権政府を有する国家を想定したとして, 仮にその国家における全ての実物資源をfull employmentしたとしても(完全雇用したとしても), その国家における実物資源が, その国家の全ての人の生活を養うのに不十分であれば, その国家は, 実物資源制約によって, 社会の発展, 生活の発展というものを, その国家の力だけでは行い得ないのである.
また, 財政スペースは, その国家における各々の主体(政府や民間など)が到達することのできる, あるいは, 利用することのできる実物資源に制約されている. このことは, 主権政府を有する国家においても同様なのである. 経済学が好むロビンソン・クルーソーの無人島における話を用いれば, 無人島において, その人は貨幣という名のデータは好きなだけ発行できる(記録を行えば良いだけだから)が, そのデータだけでは生活が成り立たないし, 生きていくこともままならないのである.
3 そもそもspaceって?
fiscal spaceを「財政スペース」と訳す場合, わたしが気になるのは次のことである. すなわち, どうしてfiscalだけ訳して, spaceは訳さないの?ということだ.
spaceには, 宇宙, 空間, といった意味がある. https://ejje.weblio.jp/content/space によれば, spaceにはこれ以外にも, 次のような意味があるとのことらしい:
「空間、(地球気圏外の)宇宙、空所、あき場所、スペース、(新聞・雑誌などの)紙面、間、間隔、(特定の目的のための)場所、区域」
どの訳語をfiscal spaceにおけるspaceに当てはめるかは, 難しいですな★ただし, 少なくともこれくらいのことは調べた上で, 上に引用されたTwitterの呟きを行なっている人は, 物事を考えたらどうだろうか. 言葉に無頓着で勝手な概念だけを積み上げていくということは, 悪い側面がありますからね★
(ああ, ちなみに, 財政スペースの話とは, 直接的には関連しないのですが, 基礎所得保障を否定しない人たちの中で, なぜか「所得(income)」しか着目しない人がいるんですね. これってMMTからしたらなにを言っちゃってるのという話でして, もちろん所得に注目することそれ自体は悪くないのですが, 貨幣は負債の一形態である, もっと言えば貨幣はIOUである, というMMTの基本的な視座からいたしますと, 負債の分布を着目対象として, 重要視しなければならないんです)
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