“HIFUでやけど”裁判始まる 医師免許なしの施術 違法性が焦点

「HIFU(ハイフ)」と呼ばれる技術を使った美容の施術でやけどを負ったとして、20代の女性がエステサロンを経営する会社に賠償を求めた裁判が始まり、会社は訴えを退けるよう求めました。医師免許を持たない人によるHIFUの違法性を問う裁判は初めてとみられ、今後の審理が注目されます。

都内の20代の女性は3年前、東京・豊島区のエステ店で医師免許を持たない人から「HIFU」の施術を受け、左足にやけどを負ったとして経営する会社に慰謝料など400万円余りの賠償を求めています。

30日、この裁判が東京地方裁判所で始まり、会社側は訴えを退けるよう求めました。

裁判記録などによりますと会社側は施術代の一部返金や治療費の一部支払いにすでに応じているということで、会社はNHKの取材に対し「主張は訴訟手続きにおいて行ってまいります」としています。

HIFUは専用の機械で身体に超音波をあてて加熱する技術で、肌のたるみやしわの改善、やせるなどの効果があるなどとされています。

一方でやけどや顔のまひ、急性白内障などになったという相談も相次ぎ、厚生労働省はことし6月、都道府県に対し、施術には医師免許が必要で、違反行為には速やかに指導するよう通知を出しています。

原告側によりますと、医師免許を持たない人によるHIFUの違法性を問う裁判は初めてだということで、今後の審理が注目されます。

原告 “一生の傷 残るリスクある”

原告の女性はNHKの取材に対し「美容医療やエステが身近なものになっています。一生の傷が残ってしまうリスクもあることを社会に伝えたい」と話しています。

SNSなどで効果あるイメージ

女性は3年前、以前から通っていた東京・豊島区のエステ店からHIFUの施術を勧められ、契約しました。

当時はジムに通って体重を落とそうとしていましたが、コンプレックスだった太ももはなかなか効果が出ず、施術に期待しました。

当時について女性は「SNSなどでインフルエンサーの方たちが『ハイフ』ということばを使っていて、効果のある施術なんだというイメージを持っていました」と話していました。

施術のまえ、女性は我慢できる程度の痛みがあるという説明を聞いただけで、そのほかのリスクについては説明を受けなかったといいます。

やけどの痕 今もケロイド状態

女性は当初、効果を感じていましたが、9回目の施術の時にこれまで感じたことのない痛みがあり、左足の太ももの内側に点状のやけどや水ぶくれが20個ほど連なった状態でできました。

その後、2年2か月ほど通院して治療しましたが今も痕が残っています。

裁判記録によりますと女性が当時、運営会社に対応を求めたところ、会社側は施術代の一部返金や治療費の一部支払いに応じた一方「炎症ややけどのリスクの説明はしていた」と主張しました。

その後に訴えを起こした女性は「やけどをした直後は歩くときに服がこすれてすごい痛みを感じました。友人や家族と旅行で温泉に行くときも周りの人の目が気になり、精神的にきつかったです。今も皮膚が盛り上がるケロイドの状態になっていて服を気にしなければならないです」と話していました。

女性は「SNSなどでたくさん情報が流れてきて、美容やエステがすごく身近になりましたが、高いお金を払っても私のように体に一生の傷が残ってしまうリスクがあります。自分で正しい情報をえて、正しい判断をすることが大事だということを伝えたいです。また店舗には正しい施術や教育を徹底してほしいです」と話していました。

相談の7割はエステサロンでの施術

消費者庁によりますとHIFUによる健康被害の相談は9年前からおととしまでに135件あり、このうち7割にあたる96件がエステサロンでの施術でした。

相談の内容を見ると7割が顔の症状についてのもので
「口が動かずろれつが回らない。右側の口がまひ」
「唇が痛くなり3年たつが今でもしびれがのこっている」
「目にもやがかかったような違和感がある」など、やけどだけでなく神経などに関わる報告もありました。

HIFUの効果 注意点は?

HIFUにはどのようなメリット、リスクがあるのか。
施術に詳しい東海大学医学部の河野太郎教授に聞きました。

Q HIFUとは?

A「高密度焦点式超音波」の略で、この超音波を発生させる機械を使った施術のことです。

Q 具体的にはどのように行うのですか?

A 超音波を1点に集めた時に発生する振動熱を利用します。
機械を皮膚に接触させ、効果を得たい体の部分に超音波を照射し、その部分を焼きます。皮膚より深い部分に超音波を集めることもできます。

Q どういった美容効果がありますか?

A やせるほか、皮膚のしわやたるみを改善する効果があります。

Q どうして熱を照射することでそのような効果が得られるのですか?

A 脂肪が熱で溶け、その後、体に吸収されてやせる効果が期待できます。
しわやたるみについては、筋肉の上の筋膜や皮膚の表面の中に照射して緩んだ肌を縮めます。
牛肉などを焼くと縮みますが、それと同じ構造です。
HIFUは正しく使うと施術を受けても腫れや赤みがほとんど残らず、有効性が高いとされています。

Q リスクはないのでしょうか?

主にはやけどと神経の障害があります。
やけどは肌の表面から浅いところに超音波が集まってやけどする場合と、超音波が骨にあたり、跳ね返って肌の中で集まってやけどを起こす場合があります。

Q 神経の影響はどうですか?

A いわゆるしびれを伴う感覚障害や口が閉まらなくなったりする運動障害があります。
ほかに目の合併症も報告されています。

Q どうして起きるんでしょうか?

A 人の体にはさまざまな場所に神経が通っています。
HIFUは一定の深さに達すれば、血管、神経、肌、脂肪、どんなものでも焼いてしまいます。
誤って大事な神経を焼いてしまうと神経障害を引き起こします。
そのため施術を行う際には肌の表面だけでなく、神経、血管など肌の下の構造や機械の特性をしっかり把握した医師でないと難しいといえます。

Q 施術を受ける際の注意点は?

A 施術するクリニックが合併症のリスクや予防方法、起きた場合の対応などを説明しているかどうかチェックしてください。
疑問にしっかりと答えているどうかも判断材料になると思います。

Q ほかに注意点はありますか?

A 説明を受けた日に施術を受けるのではなく、1度帰って、よく考えてから予約を取り直すことを勧めたいです。

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