同性婚賛成の持論、封印した石破首相 相次ぐ違憲判決、動かない政治

二階堂友紀

 同性婚を認めない民法などの規定は憲法に違反するとして、東京都内に住む同性カップルら7人が国を訴えた訴訟で、東京高裁(谷口園恵裁判長)は30日、民法などの規定について、「法の下の平等」を保障した憲法14条などに反して「違憲」だと述べた。賠償請求は棄却した。

 東京高裁判決は一連の訴訟で、石破政権発足後、初の判決だった。高裁の違憲判断は2件目。衆院選で与党が過半数割れとなり、政治の先行きが見通せない中、政権はこの課題にどう向き合うのか。

 「あくまでも(憲法が掲げる)基本的人権の保障という観点から、権利を阻害されている国民が存在する以上は、最高裁の判決を待つまでもなく早急な法制化が必要ではないか」

 石破茂首相は同性婚について、自民党総裁選に先立ち8月に出版した著書「保守政治家 わが政策、わが天命」で、そうつづった。

 憲法24条1項の「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」との規定について、旧民法下で婚姻に戸主の同意が必要だった経緯を踏まえ、第三者の意思で婚姻が妨げられないとの趣旨で、「両性」は「当事者」と解するべきではないか、とも指摘。「これは好き嫌いや、政治的な右・左の立場によるべきものではない」と強調した。

 総裁選中の9月にも、TBSラジオで「世の中にLGBTという方々は相当数いる。同性婚を認められないことで不利益を受けているとすれば、救済する道を考えるべきだ」と発言した。

「総裁がこうだからこうという政党ではない」

 だが、首相就任後は同性婚賛成の持論を封印。10月8日の参院本会議では「国民一人一人の家族観とも密接に関わるもので、国民各層の意見や国会における議論の状況、同性婚に関する訴訟の状況も注視していく必要がある」と従来の政府答弁を踏襲した。

 石破氏は政権基盤が弱く、党内で賛否の分かれる政策を実現する手腕は未知数だ。衆院選で与党が過半数を割り、大きなテーマに取り組む政治的な体力も失った。

 27日のTBSラジオでは「(同性婚については)かんかんがくがく議論しないと答えは出ない。我が党は、総裁がこうだからこうという政党ではない」と難しさを吐露した。

 一方、海外では37カ国・地域で同性婚が可能になった。国連の女性差別撤廃委員会は29日、日本政府に同性婚の導入を初めて勧告した。

 地裁、高裁の判決で、違憲判断は4件、違憲状態は3件、合憲は1件のみ。公益社団法人「Marriage For All Japan―結婚の自由をすべての人に(マリフォー)」の松中権理事は「石破さんは同性婚賛成の立場をとる初の首相。政治が流動化する中でも、人権の問題はないがしろにされてはならない。ポリシーを貫いて、一日も早く婚姻の平等を実現してほしい」と話す。(二階堂友紀)

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この記事を書いた人
二階堂友紀
東京社会部
専門・関心分野
人権 LGBTQ 政治と社会
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    パトリック・ハーラン
    (お笑い芸人・タレント)
    2024年10月30日18時13分 投稿
    【視点】

    同性婚の支持率が高く、違憲だとする判決が多い。 では、そんな現状の中で行われた衆議院選挙で同性婚の合法化がほとんど論点にならなかったのはなぜなのか? 僕が考える答えは主に3つ: ・有権者の関心度。同僚と飲む時は配偶者は同席しない、人を家にあまり招かない、家族の写真を机に飾らない・・・欧米に比べてプライベートなことをお互いに明かさない日本では周りにカミングアウト済みの同性愛者が少ないと感じる。つまり、LGBTQの知り合いがいなく、その方々の苦痛を身近に感じない人が多いはず。結果、政治のイッシューとして重視する有権者が少ないのではないでしょうか。 ・ほかのイッシューの注目度の高さ。政治とカネ問題、石破新総裁への審判、減税や最低賃金引上げなど、国民が気になるイッシューが多すぎて、同性婚まで注意する余裕がなかったかもしれません。 ・野党の選挙戦略。同性婚を強く賛成する有権者はおそらく前からリベラルな野党を支持しているはず。野党各党は、自民党の支持率の低さを好機として、中道派や保守派の国民を狙い、自党の拡大を図った様子だった。同性婚の合法化を前面に推すとその方々が離れるため、強く訴えなかっただろう。 では、選挙で大きく飛躍した野党。国民に委ねられた権力をどう使うのか。LGBTQの皆さんが懇願する、ほとんどの国民も賛成する同性婚の合法化に本腰を入れてくれるのか、要注目だ。

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    仲岡しゅん
    (弁護士)
    2024年10月31日2時37分 投稿
    【視点】

    石破さん、むしろ衆院選で大敗した今だからこそ、同性婚の導入を進めてはどうでしょうか? きっと野党の協力も得られることでしょう。 数年後に最高裁でも違憲だと判断されて、仕方なくグズグズと動き出すよりも、今のうちにスパッと導入すれば、歴史に名を残す首相になるのでは? 世論調査でも、既に多くの人々が同性婚に賛成しています。 むしろ支持率が上がる要因かもしれません。 失うものはありません。 石破さん、今ですよ。

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