「鳥の声」から始めましょう

ローリー・ピルグリム(アーティスト) 窓の外を見てみてください。どれくらい遠くまで見えるでしょうか。

ラウリン・ウェイヤース(作家/アーティスト) 霧がかかっていますね。

ローリー そうですね、いまはそう遠くまでは見えないかもしれません。

エゴン・ハンフシュテングル(料理家/アーティスト) 雨が降っています。

ラウリン あら、雨ですか。

ローリー 窓の外を見ながら、遠くにある音を想像してみてください。実際には聞こえなくても、想像力を使ってどれくらい遠くの音まで聞くことができるか、耳を澄ませてみましょう。聞こえてくるのは鳥の声かもしれませんし、雨の音かもしれません。あるいは、はるか遠くにある木々の葉っぱの音かもしれません。

ラウリン いいですね。

ローリー はい、音が聞こえてきたところで、今度はその音をこの部屋に持ち帰って来てください。

(オードリー・タンがスクリーンに登場)

ラウリン こちらの声は聞こえていますか?

オードリー ええ、しっかり聞こえています。

ローリー では、そろそろはじめましょうか。ちょうど私たちの視野が広がったところで、とても遠いところ、はるばる台湾から声が聞こえてきましたね。

ラウリン お会いできてとても嬉しいです。

オードリー こちらこそ、お目にかかれて嬉しく思います。音声も含めて問題がなければ、コーヒーを淹れて数分後に戻ってきますので、それからはじめましょうか。

ラウリン それがいいですね。

(オードリーが戻ってくる)

ローリー みなさんとテクノロジーについて考えるにあたって、短い音声を流そうと思いまして。本日の議題は直接民主主義についてです。この部屋もさっきからざわざわしているように、たくさんの声が存在しています。まさにそういうことなのかもしれません。今朝起きたとき、「デジタル技術について考えるときにどんな音を聞くのがいいだろうか」と考えていました。そして、人類が初めて録音した音はなんだろうと思ったのです。

私たちがテクノロジーを使う目的は何でしょうか。テクノロジーは私たちをどう助けてくれるのでしょうか。私たちの記憶を助けるためなのか、記録を残すためなのか、あるいは何かを継続したり接続したりするための道具としてなのか。私は、世界で初めて録音された音声を見つけました。当時8歳だったドイツの少年、ルートヴィヒ・コッホ[★01]★01が、鳥のさえずりを録音したものです。そう、彼は8歳のときに録音をしたのです。何らかの経緯があって録音装置を使うことができたのでしょう。1889年に録音された音です。わずか10秒の音ですが、私たちとテクノロジーの関係について考えるうえで示唆に富むものだと思いますし、なぜ私たちはテクノロジーを利用するのか、時空間をつなぐ架け橋としてテクノロジーをどのように活用しているのか、という点について考える良いきっかけになると思います。

みなさん、目を閉じていても開けたままでも構いません。史上初めて録音された鳥の声を、10秒間流したいと思います。

エゴン みんなで一緒に聞きましょう。

Ludwig Koch and the Music of Nature

ラウリン 今日のこの時間をはじめるのにぴったりの歌声ですね。

ソーシャル・テクノロジーとしての民主主義

オードリー 本当にそうですね。民主主義とテクノロジーを実践する人々がこのように出会うのは素晴らしいと思います。私にとって民主主義とは、ある種のテクノロジー、それもソーシャル・テクノロジーです。私たちが民主主義を実践すればするほど帯域幅が広がり、すなわち人と人との間で伝達できる情報量が増え、より良い状況になるでしょう。言うなればこの録音は、空間だけでなく時間を超えたコミュニケーションの可能性を思い出させてくれるものだと思います。異なるタイムゾーンにいる人々が適切な意思決定をするためには、時間を超えたコミュニケーションが不可欠です。そういった意味で、非常に象徴的な音です。素敵なオープニングをありがとうございます。

ラウリン 素晴らしいですね。本日のテーマは、デジタル直接民主主義とユニバーサル・ベーシック・インカムです。オードリー・タンさんは台湾のデジタル担当大臣〔2023年9月当時〕であり、ソーシャル・イノベーションを担当されています。私はこのソーシャル・イノベーションに取り組まれていることが最も重要だと考えていて、しかもオードリーさんは大変熱心です。本日の副題は「創造力こそが私たちの真の資本」です。これはドイツのアーティストであるヨーゼフ・ボイスのスローガンで、私は彼と18年間一緒に仕事をしました。彼は、国民投票による直接民主主義とユニバーサル・ベーシック・インカムを連動させたいと考えていました。そうすれば、世界中の人々が再び自らの創造力を取り戻すことができるはずだと。

ボイスが「創造力こそがわれわれの真の資本である」と言ったとき、資本とお金は全く関係がないと警告していました。「お金は法的手段にすぎない」と彼は説明しました。40年、50年前の発言です。オードリーさん、あなたは私たちにデジタル直接民主主義をもたらし、そのおかげで、あっという間に直接民主主義がとてもリアルに感じられるようになりました。デジタルだからこそでしょう。私たち市民は、未来の社会のためのアイデアを世に示すことができるようになりました。こういったことが今後どのように機能していくのか、何か展望はありますか?

オードリー 台湾華語の「數位」という言葉は、私が担当する省と私の役職を指しており、「デジタル」と「複数の」という意味があります。台湾ではこの二つは同じ言葉なのです。ですから、デジタル担当大臣とは複数性を担う大臣でもあります。「複数」とは一つ以上のものを指します。ハンナ・アーレントが『人間の条件』で見事に論じたように、人間の条件を理解するにあたっては、人々を単なる個人や個人の集合体としてではなく、「複数性」[★02]★02という概念を通じて捉えるべきです。複数性とは、多様な個人が共通の知識やアイデンティティを共有し、協力しあいながら連帯する状態を指します。お金という道具は大抵の場合、個人の経済状態を示す手段でしかありません。だから「プライベート(民間)セクター」と言われるわけですよね?

その一方で、私たちが考える民主主義、つまりデジタルで多元的な民主主義は、人々がその差異を超えて共に行動を起こすことを可能にしたいという考えから始まっています。Facebookが採用している「教師あり学習」といった人工知能(AI)の応用例を見ると、人々をますます分極化させる効果があることがわかります。人々の孤独感を最大限に引き出して、できるだけ依存させようとしているからです。人は孤独を深く感じるほど、タッチスクリーンに強く依存します。依存性の高いコンテンツに人々を閉じ込めることで孤立感を増幅させ、孤立主義的な考え方を助長しているのです。

他方では、Polis[★03]★03All Our Ideas[★04]★04Talk to the City[★05]★05といったシステムなど、正反対のアプローチを取るデジタル民主主義ツールも多くあります。これらもAIですが、権威主義的ではありません。支援的な性質のものです。人々が自然に集まることを促します。

最初はまったく異なるイデオロギーを持っていた人々が、デジタル空間での対話に参加することで共通の価値観を発見することができる。これが私の考えるデジタル民主主義の展望です。デジタル民主主義とは、協働可能な多様性、すなわち複数性に基づく民主主義です。

デジタル直接民主主義

ラウリン 素晴らしいですね。デジタル直接民主主義は、国民投票による直接民主主義よりもずっと民主的だと思いませんか? もちろん現在の状況では……すでに少しお話しいただきましたが、多くの人はデジタルの形式を理解するのが難しいのかもしれません。

オードリー そうですね。X.com(旧Twitter)で誰かが、たとえばイーロン・マスクが何かを投稿すると、「イーロンが言っていることは真実ではない」といった注意書きがつくことがあります。これは単に投稿内容を否定するものではありません。「コミュニティノート[★06]★06」と呼ばれるもので、市民議会や陪審員のような形でユーザーが互いのツイートを確認し、そのツイートに欠けていると思われる文脈を提案する仕組みです。この文脈共有、共通認識のための投稿は、正反対のイデオロギーを持つ人々両方から受け入れられて共感を得られる内容であれば、上位に浮かび上がるようにできています。

そして左派も右派も適切な文脈だと判断した場合、その情報は該当のツイートに添えられ、削除することができなくなります。つまり、その投稿をリポストしてもコミュニティノートは表示され続けるのです。もし、多元的なテクノロジーがどういうものかあまり想像ができないという人がいれば、実際に陪審員として登録してみることをおすすめします。あなたが住んでいる地域に陪審制度がある場合はそれに参加することもできますし、コミュニティノートのようにオンラインで参加することもできます。そうすると、突然ランダムに選ばれて小規模な集会への参加が求められ、私たちが今行っているような討議に立ち会うことになるかもしれません。そしてその結果は、誰もが閲覧できる「コモンズ(共有の財産)」として残るのです。

これはお互いの意見を聞くために時間をかけるという、熟議的な要素を持った直接民主主義の形態です。

デジタル対話における質問設計の重要性

ラウリン 市民がデジタル上で「Yes/No」で回答する質問を作成する際には、どのように質問を設計するかが非常に重要だと注意を呼びかけていましたね。その点について詳しく教えていただけますか?

オードリー もちろんです。2015年にPolisと呼ばれる多元的なテクノロジーを初めて導入した際、私たち台湾政府はシェアリング・エコノミー(共有経済)やギグ・エコノミーにどう対処するかについて議論しました。プロとして必要な運転免許を持たない人が、道端で見ず知らずの人を乗せて料金を請求することを可能にする、Uberという新しいアルゴリズムが登場していたのです。いまでも多くの国々で、労働法やタクシーの規制が状況の変化に追いついていないため、このイノベーションに対応するのに苦労しています。

しかし台湾では、Polisを使ってUberの運転手やタクシー運転手、サービスの利用者などと対話を始めました。「Uberを利用したことはありますか」「あなたはタクシー運転手ですか」といったシンプルな質問をしました。とても簡単な「Yes/No」で答えられる質問です。重要なのは、アンケートや議題設定を一般に開放し、誰でも簡単な質問を投稿できるようにしたことです。そうすると、「賠償責任保険は非常に重要だと思う」といった内容を投稿する人が出てきます。それに対して、最初はまったく異なる考え方を持っていた人たちでも、同じ投稿を支持するようになるのです。

もし私たちが「Uberは共有経済ではなく収奪的経済だと思うか」といった抽象的な質問から始めていたら、どうなっていたでしょうか。学術的にみれば見事な問いかもしれませんが、収奪的経済やギグ・エコノミーといった言葉を見た時に感じることは人それぞれなので、建設的な対話につながることはないでしょう。一方で、Uberの賠償責任保険の話や、既存のメーター料金を下回らない料金設定にすることなどについては、誰もが直接的で個人的な感情を持っているので、語り合うことができます。つまり、市民が自分たちの物語を語り、ナラティブが展開するように促すような質問が、優れた「Yes/No」質問なのです。個人的な経験と結びつけることができない、あまりにも抽象的な質問は、議論を始める際には最適ではないでしょう。

ラウリン なるほど。そうですね。

ミヒール・ゾンネフェルト(作家/ジャーナリスト) Uberは、台湾とここでは異なる方法で運営されているのでしょうか。

オードリー 台湾では現在、UberはQ Taxiというパートナー企業が運営しています。公式にタクシー業者として登録されていて、料金は既存のタクシー業者のメーター料金を下回ることはありません。そして同時に法律を改正し、タクシーは黄色い車体である必要がなくなりましたし、需要の変動に応じて料金を変動させるサージ・プライシングも導入できるようになりました。特に重要な点は、この法改正により、地方で高齢者への長期的な医療ケアを提供している人たち——その多くが移民労働者です——が、タクシーの協同組合を組織できるようになったことです。彼らはUberと同様に法律を活用し、アプリを通じた配車サービスを提供して臨時収入を得ることができます。観光客を乗せたり、高齢の家族を病院に連れて行く際に同じ村に住む他の高齢者も一緒に乗せたりして料金をまとめて請求するなど、さまざまな活動が可能になりました。以前は地域のタクシー協同組合も、Uberと同じ理由で違法とされていました。

こういった対話を進めるなかで、私たちはPolisを活用しました。Polisでは、単に異なる意見がいくつあるかという数を数えるのではなく、意見の複数性に焦点を当てています。つまり、いかに多角的な視点を含む意見なのかが重要なのです。たとえば、Uberが5000人を動員してまったく同じ意見を投稿したとしても、数の多さではなく提案された意見の多様性が重視されます。ですから連帯経済や協同組合、そして協同組合の形態に進化した労働組合などの意見は、人数は少ないものの、より幅広く多元的なアイデアを含んでいるため、特定のイデオロギーに捕らわれにくく、連立や橋渡しをすることができます。

超党派的に幅広い支持を受けたコミュニティノートが上位に浮かび上がる仕組みと同様に、PolisでもUberに関するそうした意見が上位に表示されました。そして、それらの意見が次の議題となり、利害関係者たちを交えた議論を経て、最終的には法制化に至りました。確かにUberもこの新法の恩恵を受けましたが、地域の協同組合や、協同組合の形態に変更した労働組合のほうが大きな恩恵を受けたと言えるでしょう。 ご質問への答えになっているといいのですが。

ミヒール ええ、よく理解できました。

クアドラティック・ボーティング(二次の投票)

ラウリン ユニバーサル・ベーシック・インカムを導入すれば、デジタル直接民主主義は、より簡単に、より公平に広がると思いますか?

オードリー:とてもいい質問ですね。台湾ではすでに、クアドラティック・ボーティング(二次の投票)[★07]★07とクアドラティック・ファンディング(二次の資金調達)を実施しており、最近になって「複数投票制」と「複数資金調達制」と名称を変更しました。ただし、これらはユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)とは似て非なる概念です。説明しますと、例えば総統主催のハッカソンを開催する際には、市民参加型予算の仕組みを取り入れ、気候変動対策やデジタルグリーン化などに関する優れたアイデアを公募します。

そして、100件程度のアイデアが集まると、参加を希望するすべての市民に99のトークンが配られます。これは、お金ではありません。購入や取引はできませんが、投票に参加したい人なら誰にでも平等に発行されるものです。あるプロジェクトに対して支持を示すには、1票を投じるのに1トークンが必要です。しかし、2票を投じる場合は合計で4トークン、3票では9トークン、4票では16トークンというように、投じる票数が増えるにつれて必要なトークン数が二次関数的に増加します。つまり、配布された99トークンでは、1つのプロジェクトに最大で9票(81トークンを使用)まで投票できますが、それでも18トークンが残ります。トークンはお金ではないものの、誰もそれを無駄にしたくはありませんよね。

そのため、別のプロジェクトを探してさらに投票します。16トークンを使って4票投じた後に、残った2トークンをさらに別のプロジェクトに使うかもしれません。しかし、大半の人はこの時点で、さまざまなプロジェクト間に相乗効果があることに気づきます。最初のプロジェクトに投じた9票を取り下げ、複数のプロジェクトに7票ずつ、3票ずつ、4票ずつといった具合に票を分散させるかもしれません。お金の問題は、その流れがあまりにも直線的なこと、誰かが独占しやすい点にあると思います。お金があれば、人々から幅広い支持を得ていないプロジェクトでも、政府のマッチング・グラント(調達した資金に応じて政府が一定比率で助成金を提供する仕組み)の大部分を占有できてしまいます。政府がマッチング・グラントを採用している場合、始めからお金さえあれば、マッチング・グラントのほとんどを容易に——「強奪」とは言いませんが——手に入れることができるのです。 しかし、クアドラティック・ボーティングやクアドラティック・ファンディングの仕組みでは、できるだけ多くの人に参加してもらう必要があります。自分の資金だけでは平方根の価値しかなく、決して多くはないからです。そうした結果、プロジェクト間が積極的に協力し合い、相乗効果を生み出したり連携したりするようになり、マッチング・グラントのようなゼロサムゲームが、クラウドソーシング型の協力関係へと変化するに至りました。 ですから私は、毎年あるいは毎月でも、クレジットやトークンなどを配布するアイデアはとても良いと思っています。ただしそれは、直線外挿的にこれまでのやり方を参照するのではなく、コミュニティの資金として工夫して管理されるべきです。そうでなければ、このシステムがUBIだとしても、お金の直接的な支配力がすぐに介入してしまうからです。

ブリジッタ・スヘープスマ(メンタル・ケアテイカー/Basic Income Think Tank理事) いいですね。興味深いです。

ラウリン 素晴らしいですね。

オズ・ヴェストロフ(Pakhuis De Zwijger(アムステルダム)ソーシャル・イノベーション&クリエーション部門臨時ディレクター) もう少し踏み込んでお話を聞けたらと思います。そのような複数の機能にある「創造と社会イノベーションのためのプラットフォーム」を持つトークンを作るには、どんな工夫が必要なのでしょうか? すでにそういった例はありますか?

オードリー ええ、すでに存在しています。「Gitcoin[★08]★08」で検索してみてください。Gitcoinでは毎月、または数ヶ月おきにクラウドファンディングが行われていますが、このクラウドファンディングでは、金額に対して影響力が直線的に大きくなるのではなく、その関係は二次関数的です。そのため、お互いに相乗効果があると見込めば、参加者はできる限り多くのプロジェクトを支援したくなる仕組みになっています。 つまりここには、一人の資本家がマッチング・グラントの決定権を握る力学はありません。ソースコードは公開されており、フリーソフトウェアとして提供されています。また台湾では、イーサリアムや仮想空間だけでなく、クラウドファンディングや、政府が支援するマッチング・グラントにも同じクアドラティック・ファンディングが採用されています。それにより一般からの支持率を把握し、政府がどれくらい資金提供すべきかを判断するのに役立っています。

詳細を知りたい方は、Gitcoinについてネットで調べてみてください。台湾政府の政策については、100.adi.gov.twをご覧ください。


オードリーとの対話【全4回】

#1 創造力こそが私たちの資本
#2 民主主義のコンピテンシー
#3 自分自身を「代表」すること
#4 ダイバース・デモクラシー、複数性の民主主義へ

解説 四方幸子【全4回】

★01 ルートヴィヒ・コッホ(Ludwig Koch, 1881—1974):録音家・ブロードキャスター。フィールドレコーディングの世界的パイオニア。ドイツのユダヤ人家庭に生まれ、子供の頃、初期の蓄音機で動物の声を録音。1889年録音のアカハラシキチョウ(Kittacincla malabarica)の歌は、鳥の歌の最初の録音として知られている。第二次大戦中に英国に移住し、英国放送協会(BBC)のブロードキャスターとして活躍した。 ★02 複数性(多数性)plurality:人間の多数性は、活動と言論がともに成り立つ基本的条件であるが、平等と差異という二重の性格をもっている。もし人間が互いに等しいものでなければ、お互い同士を理解できず、自分たちよりも以前にこの世界に生まれた人たちを理解できない。そのうえ未来のために計画したり、自分たちよりも後にやってくるはずの人たちの欲求を予見したりすることもできないだろう。しかし他方、もし各人が、現在、過去、未来の人びとと互いに異なっていなければ、自分たちを理解させようとして言論を用いたり、活動したりする必要はないだろう。(ハンナ・アレント『人間の条件』志水速雄訳、ちくま学芸文庫、p.286) ★03 Polis:高度な統計手法と機械学習によって、大勢の人々が自分の言葉で何を考えているかを収集、分析、理解するためのリアルタイム・システム。本文後出のオードリーの説明も参照。 ★04 All Our Ideas:定量的手法と定性的手法の長所を組み合わせることで、新しい形の社会的データ収集を開発しようとする研究プロジェクト。ウェブを活用し、調査の規模、スピード、定量性を保ちながら、回答者から、インタビュー、参与観察、フォーカスグループでのような新しい情報を引き出せるデータ収集ツールを作成する。 ★05 Talk to the City:詳細で質的なデータを分析することで、集団的な熟議と意思決定を改善するためのオープンソースのLLM(大規模言語モデル)インターフェイス。回答を集約し、類似した議論をクラスターに分類する。 ★06 誤解をまねく可能性のあるツイートに対して、投稿者以外のユーザが協力してポストの背景情報を提供するX(旧Twitter)の注釈機能。2021年1月にTwitterで「バードウォッチ」という名前で導入され、コロナ禍やウクライナ侵攻の誤報をめぐって普及した。多数決ではなく、異なる立場のユーザからの同意を集めたものほど上位に表示されるアルゴリズムに基づくとされる。 ★07 クアドラティック・ボーティング(二次の投票):原語はQuadratic Votingで、直訳すれば「二次関数的な投票方法」。参加者はあらかじめ与えられたポイントを自分が支持する選択肢に配分できる。ただし、一つの選択肢に多くのポイントを投じると、二次関数的にコストが上昇し、他の選択肢への投票機会が減る。このためポイントの配分には慎重な考慮が必要だが、少数の人々が強く望む選択肢が選ばれやすくなる投票方法であり、一人一票の投票制度では見えにくい、個々の選択肢への熱意を反映する手法と言える。 ★08 Gitcoin:新規プロジェクトやオープンソースの開発者に、仮想通貨を寄付できるプラットフォーム。ユーザーは仮想通貨を送金し、応援したいプロジェクトや開発者に金銭的な支援ができる。