街が消えていく 人口9割が自宅を追われるガザの現実

街が消えていく 人口9割が自宅を追われるガザの現実
跡形もなく吹き飛んでしまった住宅。

がれきの山と化した建物。

自分の町にある建物の、実に3分の2がこうした被害を受けるという状態を、あなたは想像できますか?

イスラエル軍による攻撃が続くガザ地区。
その惨状を、国連が公表してきたデータをもとに徹底分析しました。

(国際部記者 横山寛生 / 機動展開プロジェクト 齋藤めぐみ)

使ったデータとは?

今回使ったのは、国連の衛星センター(UNOSAT)が1~2か月ごとに公表してきたデータです。

高解像度の衛星画像からガザ地区の建物の被害を1棟ずつ調べ、「破壊」「大きく損壊」「中程度の損壊」「損壊した可能性」などと判定しています。

NHKでは各時点のデータをヒートマップに表し、建物の破壊が拡大していく様子を時系列に沿って可視化しました。

北部から始まった攻撃

2023年10月7日。

イスラエル軍の攻撃は、北部を中心とする空爆で始まりました。

連日、多くの犠牲者が出る中、建物の被害はガザ地区の各地に点々と広がり、北東部に集中的な攻撃が行われたことも明らかになりました。
10月下旬にイスラエル軍が地上侵攻に踏み切ると、北部では帯状に建物や農地が取り払われた場所が現れます。

イスラエル軍が過去、行ってきた地上作戦と同様、戦車とともに軍用のブルドーザーが投入され、ハマスの戦闘員が隠れられないよう破壊した建物のがれきを撤去、さら地にした跡とみられます。

病院まで標的に

戦闘開始から1か月で、ガザ地区の保健当局が発表する死者数は1万人を超えます。

このころ、イスラエル軍はガザ地区の最大都市ガザを包囲する形で展開していました。

そして、11月15日。

ハマスの拠点だと主張してきたガザ地区最大の「シファ病院」に部隊が突入したと発表。
さらに、11月17日にはイスラエルのガラント国防相が「ガザ市の西部全域を占領した」と宣言しました。

11月24日から人質解放のための一時的な戦闘休止に入りましたが、11月26日の画像からは、ガザ地区北部の西側を中心に大きな被害を受けていることがわかります。

「破壊」と判定された建物1万109棟のうち、北ガザ県とガザ県だけで85%を占めていました。

戦闘休止後 南部に激しい攻撃が

一時的な戦闘休止と人質の解放は1週間で終わり、12月1日、戦闘が再開しました。

イスラエル軍は北部から多くの人が避難していた南部のハンユニスに、ハマスの最高幹部だったシンワル指導者が潜伏しているとして地上部隊を投入し、ハマスとの間で激しい戦闘となりました。
一方、北部でも激しい空爆や地上での戦闘が続行されます。

12月下旬にはイスラエル軍が中部のブレイジ難民キャンプなどにも地上作戦を行い、急激に被害の範囲が拡大していきます。

1月上旬までの1か月の間に新たに「破壊」と判定された建物は、「大きく損壊」などから判定が引き上げられた建物も含め、9639棟。1日当たりでは被害が最も多くなった期間です。

激しい攻撃から逃れるため、北部や中部から避難してきた多くの人たちがさらにエジプトとの境界に位置する南部のラファへの避難を余儀なくされました。

インフラが整っていない場所にテントを張った暮らしは、衛生環境が劣悪で、感染症などの懸念が強まりました。

南部でも攻撃を受ける病院

イスラエル軍は南部ハンユニスにハマスの重要な拠点があるとして、空爆と地上部隊による激しい攻撃を続けます。
2月15日には「ナセル病院」でハマスの戦闘員が活動し、人質の遺体が残されている可能性があるなどと主張して、病院に突入しました。

被害は拡大し、ハンユニス県内の「破壊」は、1月7日時点の5942棟から、1万2015棟に倍増しました。

ラファへの地上作戦 終わらない破壊

4月7日。

イスラエルのガラント国防相は、南部ハンユニスに展開する部隊を撤収させたことを明らかにした上で、ラファ付近に地上作戦を行う構えを示しました。

多くの避難者が身を寄せるラファへの地上作戦には国際社会から批判も出ましたが、5月7日、地上作戦の開始を発表。

ラファには激しい攻撃が加えられ、支援物資の搬入が行われてきた検問所が閉鎖されました。
この頃、エジプトとの境界付近を中心に面的な建物被害が表れました。

前回からの2か月間で新たに「破壊」と判定された9604棟のうち、6435棟がラファ県内です。

ガザ地区南部では、建物被害が出ていない区域の方が狭く見えるほどで、そもそも、その多くは農地や郊外の砂地です。ラファからさらなる避難を余儀なくされた人々は、海沿いの地域などに集まり、テントで暮らしています。

国連の衛星センターは、ことし9月6日の時点でガザ地区にある建物の67%にあたる16万3778棟の建物が何らかの被害を受けたとしていて、人々が暮らしていた町並みの大部分が破壊されてしまったことがわかります。

「人々の生活をなくす方向としか解釈できない」

「精密な兵器を使うなど、住民の犠牲を減らす措置をとっている」としてきたイスラエル軍。

しかし、データからは、民間人の犠牲を顧みないイスラエル軍の攻撃の様子が明らかになっています。
被害のデータにガザ地区の469か所の学校と136箇所の病院の位置情報を重ねると、半径30メートル以内の建物に被害が出ている学校や病院は7割に上り、こうした場所も区別なく破壊されていることがわかりました。

ユニセフ=国連児童基金は、戦闘開始以来すべての学校が閉鎖され、62万5000人の子どもが登校できなくなっているとするなど、子どもへの影響も広がっています。
犠牲となった子どもはこれまでに1万6000人以上。

死者全体の3割を超えます。

学校や病院は周辺住民の避難所になっていることも多く、そうした場所が攻撃されたことが、女性や子どもなど、市民の犠牲が拡大した要因になったとみられます。
渡邉教授
「侵攻が始まったころ、イスラエルはある程度大義名分を立てて攻撃の正当性を主張する形をとっていました。
でも1年たつうちに全くそういう説明も意に介さず、ガザ地区にある建物やインフラ、農地を根こそぎ無くす方法でどんどん進めてきたということが、時系列を追ってみるとよくわかります。
ガザ地区に積み重ねていった人々の生活をなくす方向で進めているようにしか、解釈できません」
(10月7日ニュースウオッチ9で放送)
国際部記者
横山 寛生
2014年入局 札幌局や山口局などを経て2022年から現所属 
学生時代にロシア語を学ぶ
ニュースメディア部ディレクター
齋藤 めぐみ
「NMAPS」でデータ分析・可視化を担当
街が消えていく 人口9割が自宅を追われるガザの現実

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特集
街が消えていく 人口9割が自宅を追われるガザの現実

跡形もなく吹き飛んでしまった住宅。

がれきの山と化した建物。

自分の町にある建物の、実に3分の2がこうした被害を受けるという状態を、あなたは想像できますか?

イスラエル軍による攻撃が続くガザ地区。
その惨状を、国連が公表してきたデータをもとに徹底分析しました。

(国際部記者 横山寛生 / 機動展開プロジェクト 齋藤めぐみ)

使ったデータとは?

今回使ったのは、国連の衛星センター(UNOSAT)が1~2か月ごとに公表してきたデータです。

高解像度の衛星画像からガザ地区の建物の被害を1棟ずつ調べ、「破壊」「大きく損壊」「中程度の損壊」「損壊した可能性」などと判定しています。

NHKでは各時点のデータをヒートマップに表し、建物の破壊が拡大していく様子を時系列に沿って可視化しました。
使ったデータとは?

北部から始まった攻撃

赤色が濃いほど 被害程度の大きい建物が集中

  • 2023年10月15日
  • 2024年9月3日・6日
2023年10月7日。

イスラエル軍の攻撃は、北部を中心とする空爆で始まりました。

連日、多くの犠牲者が出る中、建物の被害はガザ地区の各地に点々と広がり、北東部に集中的な攻撃が行われたことも明らかになりました。
パレスチナ ガザ地区 2023年10月7日(NHKガザ事務所より撮影)
10月下旬にイスラエル軍が地上侵攻に踏み切ると、北部では帯状に建物や農地が取り払われた場所が現れます。

イスラエル軍が過去、行ってきた地上作戦と同様、戦車とともに軍用のブルドーザーが投入され、ハマスの戦闘員が隠れられないよう破壊した建物のがれきを撤去、さら地にした跡とみられます。

病院まで標的に

戦闘開始から1か月で、ガザ地区の保健当局が発表する死者数は1万人を超えます。

このころ、イスラエル軍はガザ地区の最大都市ガザを包囲する形で展開していました。

そして、11月15日。

ハマスの拠点だと主張してきたガザ地区最大の「シファ病院」に部隊が突入したと発表。
病院まで標的に
イスラエル軍突入前の「シファ病院」(2023年11月)
さらに、11月17日にはイスラエルのガラント国防相が「ガザ市の西部全域を占領した」と宣言しました。

11月24日から人質解放のための一時的な戦闘休止に入りましたが、11月26日の画像からは、ガザ地区北部の西側を中心に大きな被害を受けていることがわかります。

「破壊」と判定された建物1万109棟のうち、北ガザ県とガザ県だけで85%を占めていました。

戦闘休止後 南部に激しい攻撃が

一時的な戦闘休止と人質の解放は1週間で終わり、12月1日、戦闘が再開しました。

イスラエル軍は北部から多くの人が避難していた南部のハンユニスに、ハマスの最高幹部だったシンワル指導者が潜伏しているとして地上部隊を投入し、ハマスとの間で激しい戦闘となりました。
戦闘休止後 南部に激しい攻撃が
イスラエル軍の地上部隊(ハンユニスとされる 2023年12月)
一方、北部でも激しい空爆や地上での戦闘が続行されます。

12月下旬にはイスラエル軍が中部のブレイジ難民キャンプなどにも地上作戦を行い、急激に被害の範囲が拡大していきます。

1月上旬までの1か月の間に新たに「破壊」と判定された建物は、「大きく損壊」などから判定が引き上げられた建物も含め、9639棟。1日当たりでは被害が最も多くなった期間です。

激しい攻撃から逃れるため、北部や中部から避難してきた多くの人たちがさらにエジプトとの境界に位置する南部のラファへの避難を余儀なくされました。

インフラが整っていない場所にテントを張った暮らしは、衛生環境が劣悪で、感染症などの懸念が強まりました。
ガザ地区 ラファ(2024年3月)

南部でも攻撃を受ける病院

イスラエル軍は南部ハンユニスにハマスの重要な拠点があるとして、空爆と地上部隊による激しい攻撃を続けます。
南部でも攻撃を受ける病院
2月15日には「ナセル病院」でハマスの戦闘員が活動し、人質の遺体が残されている可能性があるなどと主張して、病院に突入しました。

被害は拡大し、ハンユニス県内の「破壊」は、1月7日時点の5942棟から、1万2015棟に倍増しました。
イスラエル軍が突入したナセル病院(2024年2月15日)

ラファへの地上作戦 終わらない破壊

4月7日。

イスラエルのガラント国防相は、南部ハンユニスに展開する部隊を撤収させたことを明らかにした上で、ラファ付近に地上作戦を行う構えを示しました。

多くの避難者が身を寄せるラファへの地上作戦には国際社会から批判も出ましたが、5月7日、地上作戦の開始を発表。

ラファには激しい攻撃が加えられ、支援物資の搬入が行われてきた検問所が閉鎖されました。
ラファへの地上作戦 終わらない破壊
この頃、エジプトとの境界付近を中心に面的な建物被害が表れました。

前回からの2か月間で新たに「破壊」と判定された9604棟のうち、6435棟がラファ県内です。

ガザ地区南部では、建物被害が出ていない区域の方が狭く見えるほどで、そもそも、その多くは農地や郊外の砂地です。ラファからさらなる避難を余儀なくされた人々は、海沿いの地域などに集まり、テントで暮らしています。

国連の衛星センターは、ことし9月6日の時点でガザ地区にある建物の67%にあたる16万3778棟の建物が何らかの被害を受けたとしていて、人々が暮らしていた町並みの大部分が破壊されてしまったことがわかります。

「人々の生活をなくす方向としか解釈できない」

「精密な兵器を使うなど、住民の犠牲を減らす措置をとっている」としてきたイスラエル軍。

しかし、データからは、民間人の犠牲を顧みないイスラエル軍の攻撃の様子が明らかになっています。
「人々の生活をなくす方向としか解釈できない」
被害のデータにガザ地区の469か所の学校と136箇所の病院の位置情報を重ねると、半径30メートル以内の建物に被害が出ている学校や病院は7割に上り、こうした場所も区別なく破壊されていることがわかりました。

ユニセフ=国連児童基金は、戦闘開始以来すべての学校が閉鎖され、62万5000人の子どもが登校できなくなっているとするなど、子どもへの影響も広がっています。
犠牲となった子どもはこれまでに1万6000人以上。

死者全体の3割を超えます。

学校や病院は周辺住民の避難所になっていることも多く、そうした場所が攻撃されたことが、女性や子どもなど、市民の犠牲が拡大した要因になったとみられます。
東京大学大学院情報学環 渡邉英徳教授
渡邉教授
「侵攻が始まったころ、イスラエルはある程度大義名分を立てて攻撃の正当性を主張する形をとっていました。
でも1年たつうちに全くそういう説明も意に介さず、ガザ地区にある建物やインフラ、農地を根こそぎ無くす方法でどんどん進めてきたということが、時系列を追ってみるとよくわかります。
ガザ地区に積み重ねていった人々の生活をなくす方向で進めているようにしか、解釈できません」
(10月7日ニュースウオッチ9で放送)
国際部記者
横山 寛生
2014年入局 札幌局や山口局などを経て2022年から現所属 
学生時代にロシア語を学ぶ
ニュースメディア部ディレクター
齋藤 めぐみ
「NMAPS」でデータ分析・可視化を担当

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