衆議院選挙 NHKの
議席予測はなぜ外れたのか

予測と結果にズレ

今回の衆議院選挙で、自民党は選挙前の議席を減らしたものの、事実上の「勝利」と言える議席を確保しました。
一方、野党第一党の立憲民主党は、選挙前の議席を下回る「敗北」。

NHKは衆・参両院の選挙をはじめ大型選挙では、毎回、投票日の投票が締め切られると同時に、各党が最終的にどのくらいの議席を獲得するかを予測して数字を放送しています。

NHKが午後8時の投票締め切りと同時に打ち出した各党の議席予測と、実際に獲得した結果は以下の通りです。

自民党・予測212議席~253議席、結果261議席(追加公認2人含む)。立憲民主党・予測99議席~141議席、結果96議席。公明党・予測27議席~35議席、結果32議席。共産党・予測8議席~14議席、結果10議席。日本維新の会・予測34議席~47議席、結果41議席。国民民主党・予測7議席~12議席、結果11議席。れいわ新選組・予測1議席~5議席、結果3議席。社民党・予測0議席~2議席、結果1議席。NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で・予測0議席、結果0議席。無所属・予測9議席~13議席、結果10議席。

しかし、今回、自民党と立憲民主党が獲得した議席は、私たちが予測したものとは異なる結果となりました。

自民党は「単独で過半数に届くかどうかはギリギリの情勢」と伝えましたが、261議席を獲得し、過半数の233議席を大きく上回る結果となりました。

一方、立憲民主党は「選挙前の109議席から議席を増やす勢い」と伝えましたが、実際は13議席減らしました。

選挙結果が議席予測の範囲内に収まらなかったことは、開票速報をご覧いただいた多くの方々の関心や信頼、期待に十分応えられなかったということであり、たいへん申し訳なく思っています。

なぜこうした予測と結果にズレが生じたのかを検証しました。

小選挙区の議席予測

比例代表は予測通りでしたので、ここでは全国289の小選挙区に絞って見てみます。

自民党・予測145議席~180議席、結果189議席(追加公認の2人含む)。立憲民主党・予測63議席~97議席、結果57議席。公明党・予測8議席~9議席、結果9議席。共産党・予測1議席、結果1議席。日本維新の会・予測14議席~19議席、結果16議席。国民民主党・予測5議席~6議席、結果6議席。れいわ新選組・予測0議席、結果0議席。社民党・予測1議席、結果1議席。NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で・予測0議席、結果0議席。無所属・予測9議席~13議席、結果10議席。

自民党は、最大でこの程度の議席を獲得する可能性があると予測した「上限」の180議席を上回り、立憲民主党は、最低でも獲得するであろうと予測した「下限」の63議席を下回ったわけです。

各党の議席予測とは

「議席予測」の数字はどうやって出しているのか説明したいと思います。

私たちは、最終的な選挙の結果がどうなるのだろうという視聴者の関心にいち早くこたえるために、各党が獲得するとみられる議席の幅を「予測」として打ち出しています。

その重要な材料となるのが、統計学的な手法を用いて行う投票日当日の出口調査です。投票日当日の出口調査だけでなく、それ以前に期日前投票をした人たちに行う出口調査(こちらは、統計学的な手法をとるのは難しく、投票日当日の出口調査とは完全に区別して扱っています)、各党への取材などを総合的に判断して、最終的な議席の幅を設定しています。

今回、衆院選の投票日10月31日には、全国4万6466か所の投票所のうち、4000か所余りで出口調査を行いました。
対象は、およそ53万4000人。そのうち、63.4%にあたる33万8000人余りから回答をいただきました。

小選挙区の当日出口調査を検証

289の小選挙区について、当日の出口調査を改めて見返しました。

自民党の公認候補は277人です。(追加公認された2人を除く)
出口調査では、当選圏内は171人、当選圏外は106人と出ていました。

ただ、これを丸ごと、うのみにするわけではありません。
出口調査の信頼性は高いものがありますが強弱がひっくり返ることは時折あります。

このため、先ほども記した、期日前投票をした人に行った出口調査などが必要になるわけですが、今回、その期日前投票の出口調査では、全国的に、序盤は与党が優勢でした。
しかし、中盤から野党が勢いを持ち、投票日が近づくに連れ、その傾向は強くなっていたように見えました。

こうした状況を念頭に、当選圏内にあった171人のうち、激しい接戦となっていた25人程度は敗れる可能性もあると判断しました。
一方で、当選圏外の106人の中でも、9人は勝ち抜く可能性があると見積もりました。

その結果、自民党は、下限を「145」議席、上限を「180」議席という予測を立てたのです。
立憲民主党など、ほかの党も同じようにして議席の幅を設定しました。

しかし、開票が進むに連れ、私たちの予測をこえて、自民党が接戦を制して抜け出した分、立憲民主党はその割を食う形で議席を落としていきました。

結局、当日の出口調査では、当選圏内にあったものの敗れる可能性もあると判断した自民党25人程度のうち、20人が当選。
しかも、当選圏外の106人の中からも、21人が当選しました。
この21人の中には、1位の候補に大きく引き離されていたものの、ひっくり返したケースもありました。

接戦勝ち抜いた候補は

接戦を勝ち抜いた自民党候補の選挙区はどういう状況だったのでしょうか。
立憲民主党の候補と1対1で争った、典型的な接戦区の一つを見てみます。

この立憲民主党の候補は連携する野党の一本化候補でした。
当日の出口調査では、自民党候補がわずかながらリードし、当選圏内に入っていました。
しかし、期日前投票の出口調査では、中盤以降、立憲民主党の候補が優位な情勢を保っていましたので、自民党候補は敗れる可能性もあるとみていました。
しかし、最後は、5000票以内の差で自民候補が競り勝つ結果となりました。

一方で、選挙戦中盤、自民党に関するこんな情報もありました。
投票日5日前に、ある県連で「緊急通知」なる文書が出されたというものです。
「多くの陣営で思う通りに組織固めが図られていない。全国的に見ても、対抗馬に追い上げられる大変厳しい状況となっている」として、県内の複数の選挙区を最重点選挙区と位置づけていました。
そして、陣営に「これまで培ってきた知識と経験を総動員し、何が有効で何が無駄なのかを大至急精査・検討する」よう指示するものでした。
このため、終盤情勢の見極めが重要になると警戒を強めたことも事実です。

事前分析に課題

小選挙区での自民党と立憲民主党の候補による接戦。
それを僅差で制した自民党陣営の終盤での追い込みとその見極め。

そうしたものを今回の議席の予測に反映できなかったことが、結果との間にズレが生じた要因となったのではないかと考えています。

期日前投票をする人が増えている中で、出口調査の精度を保つためにはどうするのが最善なのかも含めて、今回は事前の分析に課題が残ったと痛感しています。

今回の結果についていただいたご批判やご意見を真摯に受け止め、しっかりと検証して改善策を検討し、視聴者の皆さまに資することができるよう、応えていきたいと思います。

政治部デスク
中田 晋也
1994年入局。甲府局を経て政治部に。選挙デスクとして衆議院選挙を担当。