pixivは2024年5月28日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴
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ぎゅっと目をつぶって、パッと開く。
じわっと目の周りが熱くなって、ぼやっとする感覚の中ではここは現実かそれとも夢か分からなくなる。
ま、そんな目なんてないんだけど。
だって私はスーツケースだから。
現実を見るのと夢を見るのはどちらが難しいのだろうか、なんてことを思った。きっとそれは人それぞれで、そんなのは当たり前で……あの少年なら、あの少女なら、と考えてしまう。
人間は夢と現実を曖昧にしたがる。けれど、その二つの間にはとてつもなく大きく、途方もなくはっきりとしたものがあるのだ。私が、あの子たちと喋れないように――。
これは、少女と少年の話。
あの二人を一番側で見ていた、私が語る少女と少年の話。
「ねえ羽依里、宝物って本当にあるのかな」
「なんだよ急に」
「んふふ、急だったね、ごめんあそばせ」
「リーダーが弱気じゃ困るぞ」
「えへへ、そうだよね。うん……」
「急に不安になったか?」
「え……」
「分かるぞ、その気持ち。俺も水泳でよくあったよ。自信しかない時があった。自分のタイムも好調で仲間も絶好調。俺たち本当に全国とれるんじゃないかって自身に溢れてた。でもああいうのって急にくるんだよな。本番の少し前とかに……突然、今までの自分を否定するような何かが生まれてくるんだ。だからこれで本当に大丈夫なのかって、不安になる」
「羽依里にも、あるんだ」
「そっくりそのまま返すよ。鴎でさえ、そういう不安があることに驚いているから」
「私、そんな強くないけどなあ」
「ははっ、どうだか。鴎、よかったらその不安話してみてくれよ」
「……いいの?」
「ああ。多分その不安は、周りにいる誰かが否定してくれるんだと思う。俺もあの時、もし話せていたらってそれなりに後悔しているからな」
「あの時って?」
「水泳でミスったあの話だよ」
「あー、あれね」
「考えたら色んな原因はあると思うんだけど、たぶん不安を抱えていたのも一つ要因だったのかなって思うからさ。ああいうのって本番になると消えるんだよ。正確には隠れる、かな。だから不安を感じているうちに話しておくほうが、きっといい」
「羽依里、頼もしいね。初めて思ったよ」
「まじかよ」
「んふふ、冗談っ」
「はは、不安だ」
「ほんとだってば……それでね、宝物なんだけど、羽依里は本当にあると思う?」
「あったらいいなと思うし、本当にあるんじゃないかって気はしてる」
「私も、冒険の最後には宝物があるって信じてる……でも、心の中のどこかで、やっぱりそれはファンタジーなのかなって思うんだよ」
「ファンタジー、か」
鴎「うん、私は……見たい世界を、見たい景色を必死に見てるんだよ。仲間と大冒険の末に宝物にたどり着くそんなファンタジーに。だって――現実には、見たくない景色がすぐそこにあるから」
「見たくない現実か、たしかにそうだ」
「スーツケースと羽依里がいなくちゃ、この世界は歩けないから」
「それは、なかなか重要な役割だな、俺」
「頼りにしてるんだよっ。ほんとう、ほんとう」
だから――――
これは、少女と少年の話。
あの二人を一番側で見ていた、私が語る少女と少年の話。