pixivは2024年5月28日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴
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ふと手をのばすと何も触れられなかった。
乾いて埃っぽい空気をつかんで、指の隙間から抜けていく。
ま、手なんてないのだけれど。
だって私はスーツケースだから。
感覚というものを覚えておくことは難しい。このスーツケースの中に入っていた物の手触りと、このスーツケースにかけられていた確かな重さは、果たして本当にそこにあったのかとさえ、忘れてしまったと今は思う。
それでも、なんとなく感じる懐かしい感触が、私をまだあの場所に連れて行ってくれる。
これは、少女と少年の話。
あの二人を一番側で見ていた、私が語る少女と少年の話。
「今日も今日とて冒険に出ている」
「どうしたの羽依里、急に語りだしちゃって」
「あー、いや……こうして潮風を浴びながらゆっくりスーツケースを押してるとさ、なんで俺こんなことしてんのかなってふと思って」
「青春ってやつだね」
「青春なのか? それは分からないけど」
「それで、なんで冒険してるの? 聞かせてよ」
「そんなすぐに答えないなんて出ないって。急に思っただけだし。もちろん嫌ってわけじゃないぞ。ただなんか、不思議に思えてさ。多分ほんとはもっとやるべき事というか、なにか分かんないけどそういうのがあるはずなのに」
「私もだね」
「鴎? 何を冗談言ってるんだよ、お前は冒険してないと……鴎じゃないだろ?」
「そんな止まったら死んじゃうマグロみたいな!」
「間違いではないじゃん」
「ううん、間違いだね。間違いすぎるよ。別に私だって、冒険は絶対じゃないもの」
「ふーん……意外だ」
「ほら、だって冒険なんかしてるより、するべきことはあるんだよ。知っての通りさ。だけどいつのまにか、生きるのに十分なものだけじゃ、生きられなくなってるの。本当は冒険があってもなくても、私のいきつく場所は変わらないよ。宝物があっても、なくても……」
「そうかな」
「そうだよ。たどり着く場所は一緒。でもどうせなら、その道とその道の景色と、その道を少しでも一緒に歩いてくれる人は選びたいじゃない?」
「……よくわかった気がする。俺がお前に着いていく理由」
「ほんと?」
「ほんとほんと。だって俺も冒険なんか別にしなくてもいいわけだし、なんか謎に連れてかれてるようなだけだし」
「そうやって聞くと、ちょっとイラっとくるね」
「まあでも、お前の言う生きるのに十分なものがあるだけじゃ、生きられないから、俺は多分……お前との冒険を捨てられないんだ」
「ふふ、ようやく分かってくれたね。生きるのって……難しいんだよ」
「まったく、その通りでございます」
「さ、やりたいことはどんどんやっていこうよ。いくよ、羽依里、やりたいことはない?」
「そうだな、今は……ちょっと休憩かな、腕がつかれた」
「む。それはだめだね」
「初っ端から否定された……」
「んふふっ」
これは、少女と少年の話。
あの二人を一番側で見ていた、私が語る少女と少年の話。