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トトトッと無数の雨粒が屋根に当たる音が、頭上の少し先で鳴っている。
ここにいれば濡れることはないけれど、私の上に居座る埃がその音をより一層寂しくさせた。
雨の匂いをわずかに感じる。匂いを嗅ぐことなんてできないのに。
だって私はスーツケースだから。
羨ましさが仄かにやってくる。
雨に濡れることは嫌だったけれど、濡れて楽しそうなあの二人を見るのは、楽しかったのだと思い出した。
これは、少女と少年の話。
あの二人を一番側で見ていた、私が語る少女と少年の話。
「……いるのか」
「会ってそうそう、微妙な顔をするのはよくないよ」
「いや、だってまさかいるとは思わなかったからさ。今日はどう考えても結構な雨だろ?」
「でも、羽依里もきてるじゃない」
「まあお前が来てそうだとは思ってたし」
「ふふ、なら同じだよ。私も羽依里は来ると思ってたから」
「同じか?」
「同じだよ。それで、今日はどこへ行く?」
「行くところなんてもうない気がするな、こんな小さな島じゃ」
「それじゃあ雨の中散歩しようよ」
「お前はスーツケースに乗ってるだけじゃん」
「まあまあ、傘は持っててあげるよ。相合い傘だね」
「はいはい。それじゃいくぞ」
「ふふ、りょーかい。しゅっぱーつ!」
「雨だから滑りそうで怖い。万が一、坂で滑ってお前が一人で走っていくようなことがあれば……」
「あれば?」
「なんともないように、祈るよ」
「ええ!? 祈るだけ!? そこはこう、全力で走って止めに来てくれないと」
「走るのはそんなに得意じゃないし」
「でも羽依里、今は泳げもしないじゃない」
「……またナチュラルに傷を。まあいいや、それがお前だし。それにしても、こんな日まで冒険という名のおでかけをよくしようと思うな。お前をそこまで突き動かすものが不思議でならない」
「そうだねえ、したいから、という理由以外にいい理由は見つからないよ。冒険したいからしたいし」
「鴎らしいな」
「私は羽依里の方が不思議だよ? どうしてこんないつも私に付き合ってくれるのかなあって」
「鴎がそんなことを思ってるとは……」
「不思議くらいには思うよ。なにか理由があるの? んふふ、もしかして私に毎日会いたいからだね? ほらほら、言っちゃいなよ」
「そう、だな。間違いではない」
「お、おお!? 羽依里が素直に認めるなんて……明日は雨が降るね」
「今、降ってんだけどな」
「えへへ、それもそうだね。羽依里、よかったら聞かせてよ。ぶっちゃけやることないしさ」
「お前がそれを言うな。でもまあ、やることないのは本当だしいいけどさ。別に俺だって大した理由じゃないよ。何かやっておきたいからっていう理由だよ」
「というと?」
「辛い時に、自分に何かやれることがあるってのは、救われるんだよ。自分の水泳のことも、お前の足のこともな。見てるほうが、待ってるほうが辛い。だからまあ、俺は自分を救ってるんだよ。言ってしまえば自分のためだ、それ以上の理由はないよ。な? 大した理由じゃないだろ」
「そっか、救ってたんだね」
「まあ、間接的にいえばお前に救われてるかな。別に鴎との冒険じゃなくても他にやれることがあれば多分救われてたし。でも毎回お前に誘われるし、冒険に付き合ってる」
「てことは、羽依里は仕方なくだったんだね」
「最初は」
「ええっ! ひどい!」
「最初はだって、最初は。今は普通に楽しいよ、冒険。こんな雨の日はさすがに勘弁してほしいけどね。傘そんなに意味ないし、服濡れてるし」
「ごめんあそばせ。でも私も頑張って羽依里を濡れさせないようにしてたんだよ。だから私もびちょびちょだ。明日の服どうしようかなあ」
「明日も冒険するのか?」
「当然っ! もちろん羽依里もだよ」
「はいはい、付き合うよ……最後まで」
「んへへ、ありがとっ。じゃあ明日は……」
「明日は?」
「可愛い服、着てくるね!」
これは、少女と少年の話。
あの二人を一番側で見ていた、私が語る少女と少年の話。