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203.非道王女は呼ぶ。


昨日に引き続き、朝から王居には大勢の騎士が配置されていた。


当然だろう、二日前のセドリックの話が本当であれば、彼は近々侵攻されるハナズオ連合王国から我が国に助けを呼びにきたことになる。

助けを求めに来たなどと、もしコペランディ王国や他の国に気付かれたら彼自身が暗殺や誘拐をされる可能性もある。…我が国と、ハナズオ連合王国との同盟を妨げる為に。


「…今日をいれてあと二日。ヴェスト叔父様、どうにか裏を取ってくれれば良いのだけれど。」


部屋の窓から外を眺めながら、小さく溜息をつく。

二日前から城内が忙しない為、セドリックだけでなく私もティアラも落ち着くまで今日一日は各自部屋から出ないようにと母上と父上から仰せつかっている。ステイルはヴェスト叔父様付きだから今も一緒に国外の情報整理をしてくれているだろう。正直、私も部屋に閉じこもるくらいなら母上や父上、ヴェスト叔父様のお手伝いをしたい。


「大丈夫っすよ。ステイルも居ますし、きっとすぐハナズオ連合王国のことも確証が取れると思います。」

私の背後に控えてくれているアーサーの言葉にカラム隊長が頷いた。今この部屋にいるのは専属侍女のロッテとマリー、近衛兵のジャック、そして近衛騎士のアーサーとカラム隊長だけだ。

ありがとうと二人に返し、もう一度カーテンの隙間から窓の外を眺める。本当は完全にカーテンも開けたいのだけど、カラム隊長が狙撃の心配があるのでとカーテンを開けるのはダメ出しされてしまった。


「プライド様、今日のこちらの御手紙はどう致しましょうか。」

ロッテの声で振り返ると、私宛の手紙を二束掴んで確認してくれる。先程使者から届いた手紙も含めてのここ数日分の束だ。お礼を言って手紙を受け取り、差出人をそれぞれ確認する。アクロイド、ビーグリー、ネペンテス、コルクホーン…大体が諸国の王子や貴族からの手紙だ。中には何処の国からの手紙かわからないものもあったが、今回は全て差出人は記されているだけマシだろう。時々差出国どころか、差出人名すらない手紙もある。内容に問題さえなければ、私の元に届けられるようにはなっているけど…一方的な愛の言葉ばっかりで何をしたいのかわからないから謎だ。

最初に手紙が届き始めた時はあまりの豪華な人ばかりでかなり戸惑ったけれど、最近は大分感覚が麻痺してきた。ステイルは読まずに捨てても良いと言っていたけれど、中には大事な異国の情報や話も入っているし、何より手書きの文を読まずに捨てるのは気が引けた。前世はメールやSNSが流行してたせいで、手書きのありがたみが抜けず無碍にできない。流石に返事を出すまではできないけど、せめてちゃんと目を通さないと。今やすっかり定期的に読むのが習慣になってしまった。恐らく私の最初で最後のモテ期でもあるし、ありがたく思わないと。


「…あの、プライド様。」

手紙の一枚目の封を開けた時、アーサーに声を掛けられてそのまま振り返る。なに?と尋ねると何やら言いにくそうに唇を引き絞りながら見返し、再び口を開いた。


「その、手紙とかで…良い、方とかは居ないんすか…?」

「え⁇」


突然のアーサーからの恋バナ発言に、間の抜けた声で返してしまう。アーサーも自分で言って恥ずかしかったのか、少し頬が赤い。カラム隊長も驚いたようにアーサーを見つめ、釣られるように頬が染まった。


「…いや、その、いつもプライド様宛にすげぇ量の手紙が来て、それをプライド様も読んでらっしゃるんで…、…どうかな、と。」

すみません、と最後に小さくと謝るとそのままアーサーは目を逸らしてしまった。完全に婚活を心配されてしまっている。そうね…と返しながら一度手紙に目を落とす。開けばいつも通りの甘い恋文だった。恐らくこれも後でステイルやジルベール宰相に選別されてしまうだろう。


「今のところは…未だ、かしら。」

自分でも曖昧な返答だと思う。アーサーが「そうですか…」と小さく相槌を返してくれる。私はそのまま「だって」と言葉を繋げ、アーサーとカラム隊長へ振り返る。

私が言葉を繋げたことに驚いたのか、二人とも少し目を丸くして私を見返してくれる。


「私の周りにいてくれる人達で、充分過ぎるほど幸せだから。」


…アーサーの恋バナに釣られてしまったか、自分でも少し恥ずかしい台詞を言ってしまった。

言ったあとに後悔して照れ笑いで誤魔化すと、…何故かアーサーとカラム隊長の顔が真っ赤になっていた。我ながら恥ずかしい台詞を言ってしまったことは自覚しているので、二人に釣られるように更に顔が熱くなる。一拍遅れて、アーサーが手の甲で口元を隠し、カラム隊長も口を片手で覆った。そのまま私から二人とも顔ごと目を逸らす。

どうしよう完全に頭の中お花畑王女だと思われた!どう見てもよくそんな恥ずかしい台詞言えるなって思われてる‼︎


「いっ…今のは聞かなかったことにして…下さい…。」

私も恥ずかしくなってしまい、手の中の手紙を口元に当てて二人から目を逸らす。駄目だ、恋文を書いた人に対して甘々な文とか、私もなかなか人のことが言えない。王子様キャラのレオンやセドリックなら未だしも只のラスボス女王の私にはハードルが高過ぎた。

はい…わかりました、と二人から返事が返ってきた時すら恥ずかしくて目も合わせられない。取り敢えず早く読んでしまおうと、二人に背中を向けて再び手紙拝読に逃げる。

…その時だった。


「いけません!お部屋にお戻り下さい‼︎」

「セドリック第二王子‼︎未だ外出はっ…!」


急激に何やら部屋の外が騒がしい。セドリックの名前も聞こえたし、何かあったのだろうか。

近衛兵のジャックが部屋の外の衛兵に確認してきてくれる。戻ってきたジャックは若干怪訝な顔をしていた。


「どうやら…セドリック第二王子が自室前で衛兵達に引き止められているようです。」

外出禁止中なのに⁈しかも、一番危険なのは一応セドリック第二王子だ。何故突然部屋を出たがったりするのだろう。変に自分勝手に動けば不興だって買いかねないのに。

話を聞いたカラム隊長が「まさか、プライド様の元に来ようとしているのでは…?」と小さく呟いた。アーサーがその言葉を聞いて顔色を変える。いやいやまさか、確かに昨日謝ってくれたのを突っ撥ねてしまったけれどだからって衛兵達の制止を振り切る訳がない。…と思いたい。

すると、ジャックが凄く言いにくそうに「それがっ…」と言葉を濁した。何だろう、と改めてジャックを全員で注視する。侍女のロッテが私を心配してか、そっと肩に手を置いてくれた。


「今すぐに自国へ帰る、と…そう仰っているようです…。」


「ええっ⁈」

ジャックの言葉に思わず声が上がる。

意味がわからない‼︎

まだ母上から同盟の了承は得ていない。その前に国へ帰るなんて同盟交渉自体を白紙に戻すようなものだ。せっかくここまで来て、何故突然そんな暴挙を⁈

急ぎセドリックの元へ行こうと部屋の扉へ走ったらジャックやカラム隊長、アーサーに引き止められた。そうだった、私も自室謹慎中だ。でも、そうしている間も部屋の外では未だに何やら騒ぎ声が響き、更には遠ざかっている。

仮にもサーシス王国の第二王子。衛兵も無理に押しやることもできないのだろう。ッああもうっ‼︎

たった二日の今日でこれか‼︎ステイル達にも言われたし、極力もう関わらないようにしようと決めたのに‼︎それに母上にちゃんとお願いする姿を見て少しは見直したのに‼︎ちゃんと謝ってくれたから許したいと思えたのに‼︎

もう私の中でのセドリックの立ち位置が自分でも訳のわからない位置に右往左往していく。とにかく!セドリックが部屋から飛び出して私は部屋から出れない!なら今はっ…





「セドリック・シルバ・ローウェルッッッ‼︎‼︎」





力の限り腹から喉へと声を張り上げる。我ながら甲高い声のせいで、最後はキンッと耳鳴りみたいな音が出た。突然の私の怒声にアーサーやカラム隊長は目を丸くし、マリーとロッテは思わずといった様子で耳を塞いだ。

叫び終わり、息を切らしながら外に耳を済ますとさっきの騒ぎ声が止まっていた。


「……セドリック第二王子を、…私の部屋に、…呼んで下さい。」

どうせ部屋を出てしまったのなら私の部屋に呼んでも問題はないだろう。ジャックにお願いすると、すぐに部屋の外にいる衛兵に伝令をしてくれた。


…本当にごめんなさい、みんな。


心の中で二日前私に怒ってくれたステイル達に謝る。でも、このままセドリックを放って置く訳にもいかない。これ以上彼の暴走で折角の同盟に影響を与えたくない。

振り向いてアーサーを見つめると、やっぱりどこか何か言いたげな表情をしていた。当然だ、二日前忠告してくれて今日さっそくセドリックに関わろうとしているのだもの。だから。

私はアーサーとカラム隊長の元へ駆け寄り、二人の手をそれぞれ握った。突然手を掴まれたことに二人が驚き、ビクッと腕を一度震わせた。


「カラム隊長、先日のことはエリック副隊長からも聞いていると思います。どうか、必要あれば遠慮なく私を止めて下さい。」

ステイルも認めている頭の優秀な彼なら、きっと私がまた何か甘い考えや間違ったことをしたら気が付いてくれる。そう思ってお願いすると、突然の依頼に緊張したのか少し頬を紅潮させながらも「畏まりました」と頷いてくれた。


「アーサー。」

次にもう片手で握り締めたアーサーへ目を向ける。私が握り締めた手を丸くして見つめていた蒼い目を、そのまま私に向けてくれる。何度も私をセドリックから守ってくれて、昨日はちゃんとステイルと一緒に私を咎めてくれた彼だから。




「傍に居て下さい。」




カッ、と彼の目がこれ以上なく見開かれる。ポカン、としたように口だけが小さく開かれ、それに反して私が握り締めた手を強くしっかりと握り返してくれた。「はい…」と返事が返ってきて、カラム隊長よりも更に顔が紅潮し、みるみるうちに赤くなった。やはり、まだセドリックへの警戒が抜けないのか。…それも私が色々あったせいなのだけれど。

カラム隊長とアーサーにお礼を伝えて手を離す。そうしている間にも、次第に複数の足音が私の部屋へと近づいてきた。


「…失礼する。」


ノックの後に返事で許せば、扉が開かれる。

セドリックが現れる。







その手に、一枚の書状を握り締めて。


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