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197.非道王女は連れる。



「母上、失礼致します。」


謁見の間。母上に許可を得て、そこに足を踏み入れる。丁度、ヴェスト叔父様や父上、そしてジルベール宰相と審議中だったのだろうか。全員が私達を迎えるべく所定の位置についていた。

「…どうしたのです?プライド。」

母上が小さく首を傾げながら私に問う。私の傍にステイルとティアラが寄り添い、近衛騎士のアーサーとエリック副隊長もそれに続く。そして



セドリックが、その背後に。



私はここでやっと背後を振り向き、ほっとする。ちゃんと来ていた。その表情は小さく俯き、読めなかったけれど確かに彼はそこにいた。


「セドリック第二王子殿下が、母上に折り入ってお話ししたいことがあるそうです。」

彼をその場に置き、私達はそのまま母上の元へ歩み、私達もまた所定の位置につく。


初めてセドリックを迎えた時と、同じように。


私達がその場に掃け、ぽつんと一人になったセドリックは小さく俯いたまま最初は動かなかった。まだ、外聞を捨てきれないのかと内心心臓をバクバクさせながら彼を見つめる。

母上や父上も彼から詳細を聞きたいと思ってくれているのか、そのまま黙って暫くはセドリックの言葉を待ってくれた。


「…同盟交渉について、お伝えしていなかったことがありました。先ず、その非礼をお詫び申し上げます。」


ポツリ、ポツリと覇気のない彼の声が謁見の間に響く。そのままゆっくりと、彼はその場に跪く。申し訳ありません、と呟く彼は既に何かと戦っているかのようだった。


「…お聞かせ願えますか、セドリック第二王子殿下。サーシス王国並びにハナズオ連合王国が今、どのような状況なのか。」


母上が静かに口を開く。小さく開いたその唇からは想像ができないほどのはっきりとした声色で。「はい…」と覚悟を決めるように彼は返し、遠目からも分かるほどに彼は強く己が拳を握り締め、






平伏した。






サーシス王国の第二王子が、あろうことかフリージア王国の王族達の前で。

その姿に誰もが驚き、息を飲み、母上でさえも目を見開いた。

他国の王族へ平伏す王子など、普通はあり得ない。

きっとセドリック自身、それは分かっている。それでも彼は、その体勢をそのままに母上に向けて声を張り上げた。



「っ…どうか、…御救い下さい…っ…‼︎」



今までに無い、真摯に訴えるような声だった。

カーペットについた両手は既に震え、拳を握らないように必死に堪えている。

床に俯き、つけた顔から彼の表情はわからない。ただ、その声色からどれほどの苦渋にあの端整な顔を歪めているかは容易に想像できた。


「我が国サーシスと同じくハナズオ連合王国の一翼である、チャイネンシス王国が今、侵略の危機に瀕しております…‼︎」


彼の声が、震え始めた。

手入れを怠ったことのないであろう長い金色の髪を床につけ、それでも彼は顔を上げようとしない。


「二週間前、コペランディ王国にっ…チャイネンシス王国は服従か蹂躙かを迫られました…‼︎」

服従ならば植民地に。逆らうならば蹂躙し、属州に。そう続ける彼はとうとう耐えきれないように拳を握り出し、カーペットにはくっきりと指の跡が残った。


「猶予は一カ月…もう、時間がありません…‼︎我が国、サーシスも共に抗うつもりではありますが…我が国は、ハナズオ連合王国は非力です…!軍事力も、規模も彼の国の足元にも及びません…!」

もう半月しかない。更にラジヤ帝国の手中にある近隣国のアラタ王国、ラフレシアナ王国もまたハナズオ連合王国に攻め入る為に侵略準備を進めていると。

三国合わせられれば軍事力も、人口も、そして唯一コペランディ王国に上回っていた国土すら全てがハナズオ連合王国を優に上回っている。

ハナズオ連合王国は合わせればそれなりの大きさだが、近隣国三国が合わされば明らかにその規模すらも上回る。更に集中的に狙われるのはチャイネンシス王国。そして、三国の背後には更に多くの植民地や属州を持つラジヤ帝国が控えている。


勝てるどころか、まともに抗えるわけもない。


「…ッ…もう、貴方方しかいないのです…!奴隷制無き国でありながら、ラジヤに匹敵する力と、軍事力を持つ、フリージア王国しかっ…!」


奴隷制の国では、ラジヤへ敵対することはできない。ラジヤは奴隷生産国の中では一番の大国でもある。ラジヤの侵略を邪魔すれば、彼らの奴隷という〝商い〟にも支障を来す。


「御救いくださいっ…どうか…‼︎」


最初に現れた時とは明らかに異なる彼の姿は弱々しく、俯き、首を縮こまらせ、言葉を詰まらせながらも必死に噛み締めるように紡ぎ、訴え続けるその懇願は、謁見の間に悲痛に響き渡った。

最後に顔を上げた彼の表情は酷く険しく、胸を締め付けられているかのように息苦しそうに歪んでいた。


「どうかっ…!」


その言葉を最後に、彼は母上を見上げ、言葉を待った。

私やステイル、ティアラ、この場にいる誰もが母上の答えを待つ。この国の絶対的権力者である母上の、その言葉を。

少しの息を飲む音すら周囲に聞こえるような沈黙の中、母上が静かに口を開いた。



…ゲームの設定が、また変わっていく。


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