第二章:前田センセイ救出大作戦!
残念N組、最果てのセンセイ!
第二章:前田センセイ救出大作戦
第1話 出頭命令
(♪フランツ・リスト作曲 ラ・カンパネラ:BGM)
それは突然の出来事だった
いつもと変わらない朝、いつもと変わらない教室、いつもと変わらない日常、
何も変わらないはずの毎日に落とされた一通の手紙
人はなぜ失ってからでしか大切なものに気付くことが出来ないのか
変化を求めながら変化を恐れ
後悔と懺悔を繰り返しながら醜く生きながらえる
死を恐れて永遠の命を求めながら、散り行く花の儚さを賛美する
人間ほど愚かで無意味な生き物がこの世にあるだろうか
駄目だと分かっていながら人は決して己の欲望に抗うことなど出来ない
口ではそんな自分を否定しながら、心の中では可愛い自分を慰める
けれどもその愚かさこそ、常に矛盾を抱えながら生きる人間の、
愛すべき唯一の美徳である
『壮太くんへ
元気でやっていますか?
お母さんは最近老眼がきました
今度、老眼鏡を買いにお父さんと眼鏡屋さんへ行く予定です
壮太くん、お母さんは壮太くんがとても優しい子だって知っています
少し心配なところもあるけれど、小さい頃からお母さんの自慢の息子です
だからお母さんは壮太くんを信じていました
壮太くん、お爺ちゃんの保険金の残高が23万円になっているのはどういう訳でしょうか
壮太くんが病気や怪我をした時のために渡したお金です
お爺ちゃんの遺してくれた大事なお金です
なぜ残高が23万円にまで大幅に減っているのでしょうか
消えた980万円はどこにいったのでしょうか
お父さんはカンカンです
近いうち、一度こっちへ帰って来て下さい
訳を説明してほしいです
それでは
お母さんより』
第二話:前田センセイの消失
苺:
ふぅ、それにしても今日もいいお天気だなぁ
あーぁ、あの良く晴れた空から前田センセイが降ってこないかなぁ
そうだ、せっかく早起きしたし、前田センセイに会いに学校にいこうっと!
(♪テクテク:学校に向かって歩く足音)
苺:
小麦ちゃんおはよう!
って、あれ?今日は私が一番乗りかぁ
うん?黒板に何か紙が貼ってある
何だろう?
「残念N組のみんなへ」
この文字、前田センセイの手書きだ
うふふー、後でコピーもらっちゃおーっと
それで続きは、、
「出頭命令が届きましたので暫く学校を休みます
各自自習をしておいて下さい
担任 前田」
ふむふむって、えぇーー!!
小麦:
わぁ、苺ったら!朝からそんなに大きな声を出してどうしたの?
苺:
あ、小麦ちゃん!どうしたもこうしたも無いよー
大変なことが起きちゃった、、前田センセイが、、居なくなっちゃった、、
小麦:
え!前田センセイが居なくなったぁ!?
苺:
うん、、小麦ちゃん、どうしよう、、
前田センセイに会えない今日なんて私、もう生きている意味がないよ、、
前田センセイ、、どこに行っちゃったんだろう、、
そうだ、私、前田センセイを探しに行く!
小麦:
あ、待って苺!小麦も一緒に行く!
第三話:スピちば
苺:
うぅ、前田センセイどこに行っちゃったんだろう、、
とりあえず学校を出て来たけれど、、
ねぇ小麦ちゃん、前田センセイの居そうな場所ってどこかなぁ?
小麦:
うーん、細い路地とか、暗がりとか、人通りの無い場所にいるんじゃないかなぁ?
ほら、唯衣ちゃんとミーグリするために!
あっちの薄暗い路地の方に行ってみようよ
苺:
うん
(♪テクテク:薄暗い路地に向かって歩く足音)
苺+小麦
前田センセーイ、どこにいますかー?
? ?:
ちょいとそこのお嬢さん方
苺:
わぁ、危ない小麦ちゃん、後ろの暗がりに人がいるよー
小麦:
え!?
? ?:
おっと、驚かせてしまってすみません
私、決して怪しい者ではないのです
小麦:
えぇ、、どう見たって怪しいよ、、
水晶持って数珠付けて、おまけに壺まで抱えてるんだもん、、
? ?:
こらこら、これは特別な力を持つ水晶なんですよ、馬鹿にしてはいけません
それはそうとあなた方、全身を纏う運気に負のオーラが滲み出ておられますね
このスピちばが一つ、あなた方を陽の運気に導くために占って差し上げましょう
それではいきます、、
(♪スーハ―スーハ―:スピ力を行使する前に呼吸を整えている音)
スピちば:
スピスピ スピスピ スピタイムっ!
ふんっ!出ました!
ふむふむ、あなた方の負のオーラの原因はズバリ失くし物ですね
そしてあなた方は今、その失ってしまった物を探しているのでしょう
かけがえのない大事な物を
違いますか?
苺:
す、すごい!当たってる!
スピちばさん、私たち前田センセイを探しているんです
あの、前田センセイが今どこにいるのか、スピちばさん分かりますか?
スピちば:
このスピちば、既にお嬢さん方がお探しておられる前田センセイの居場所は分かっております
前田センセイがおられるのは、ズバリ、宮崎県にある前田センセイのご実家です
どうやら前田センセイは、前田センセイのお爺様のお残しになった保険金のほぼ全額を、
唯衣ちゃんに溶かしたことがご両親にバレた様子ですね
そして今、任意の事情聴衆の為にご実家まで出頭されている
苺:
あ、そういえば前田センセイ直筆の置き手紙に出頭命令って書いてあった、、
あれはそういう意味だったんだ、、
小麦:
え!?前田センセイの直筆!?
スピちば:
ふむふむ
水晶によるとどうやら前田センセイは今、ご実家の二階に幽閉されている様子ですね
これは、、かなり唯衣ちゃんにつぎ込んだと見えます
ご両親はカンカンです
前田センセイ、、無事に生還されるかどうか、、
苺:
そんな、、
スピちばさん、前田センセイを助ける何か良い方法は何かありませんか?
スピちば:
そうですね、かなり危険ですが、、ない事もないです
苺:
本当ですか!?
スピちばさん、その方法を教えて下さい
私、どんなに危険だって、前田センセイを助けることが出来るなら何でもします!
小麦:
小麦も!
スピちば:
あなた方のその熱意、、分かりました
でもその代わり、これから先何があっても後悔はしませんね?
苺+小麦:
はい!
スピちば:
いいでしょう!それでは今からあなた方を天界に飛ばします!
苺:
え!?天界って天国のことですか?
スピちば:
そうです
今から天界へ行き、前田センセイのおじい様から、前田先センセイがつかい込んでしまった保険金の免罪符を貰って来るのです
そうすれば前田センセイのご両親だって前田センセイを釈放する以外にないでしょう
苺+小麦:
なるほど!
スピちば:
けれども天界に行くのにはそれなりに危険を伴います
その覚悟はできていますね?
苺+小麦:
はい!
スピちば:
良いでしょう!それではいざ、天界へ!
スピスピ!GO TO へヴン!
苺+小麦:
わぁぁぁぁ体が飛ばされるぅぅぅー!!
第四話:しゅーちゃんのチョコレート工場
(♪にんげんっていいな:BGM)
苺:
ふぅスピちばさんに飛ばされてとりあえず来たけれど、、
何だかとっても可愛い音楽が聞こえてくるねぇ
小麦ちゃん、ここが天界なのかなぁ?
小麦:
うーん、何となくだけど、、小麦は違う気がするよ、、
あ、苺!あそこに誰かいるみたい!
あの人にここがどこだか聞いてみようよ!
苺:
うん!
あのー、そこの方―!すみませーん!
??:
くまの子みていたかくれんぼぉー♪ お尻を出した子いっとーしょー♪
夕焼け小焼けでまたあしたぁー♪ まぁーたあーしーたぁー♪
ん?誰か僕を呼んだのら?
苺:
はい、あの、お尋ねしたいのですが、、
ここって天界ですか?
??:
ここが天界?全然違うのら
ここはしゅーちゃんのチョコレート工場なのら
苺+小麦:
しゅーちゃんのチョコレート工場?
??:
そうなのら
ここはお菓子の国、甘い部、チョコレート課、しゅーちゃんのチョコレート工場なのら
そして僕がここの工場長、しゅーちゃんなのら
君たち天界に行きたかったのら?
苺:
はい、そうなんです
ねぇねぇ小麦ちゃん、スピちばさんったら間違ってこの国に私たちを飛ばしたちゃったみたいだね
小麦:
うん、そうみたいだね、、どうしよう、、
しゅーちゃん:
何を二人でコソコソ話してるのら?
君たちなんで天界に行きたいのら?
苺:
えっと、、それはその、、
あの、私たち、前田センセイを助けるためにどうしても天界に行かなくちゃならないんです
しゅーちゃん:
君たち前田センセイとやらを助けたいのら?
うん?前田センセイってカラタチの前田さんのことなのら?
苺:
はい、そうです
地球ではカラタチの前田壮太で、最果ての国では前田センセイの、前田壮太のことです
しゅーちゃん:
はわわわ!僕、前田さんには恩があるのら!
苺+小麦:
え、そうなんですか?
しゅーちゃん:
実は僕、前に前田さんにラジオで話して貰ったことがある、
地下アイドルにハマっていることが妻にバレたしゅーちゃんなのら
大好きだった地下アイドルと撮ったチェキを道に落としてしまって、
それを拾ったお隣さんが僕の妻にチェキを見せてしまって、
僕は妻に捨てられてしまったのら
僕は僕を責めたのら、、僕が気持ちの悪い存在だから妻を悲しませてしまったのらって
僕はただ、地下アイドルグループ『地獄の沙汰も金次第』の、もみあげモミ子ちゃんが好きだっただけなのら
でもあの日、前田さんがラジオで僕のことを面白い人がいるって紹介してくれて、僕、嬉しかったのら
前田さんのように、僕も僕の好きを正々堂々と胸に秘めていて良いような気がしたのら
愛する妻には否定されてしまったけれど、僕はあの時、前田さんに救われたのら
モミ子ちゃんを好きだった僕は確かに存在していたのらって
苺:
しゅーちゃん、、
ん?TBSラジオの電波ってここまで届いてるんですか?
しゅーちゃん:
勿論なのら
天界までだって届いているのら
君たち僕の恩人、前田さんを助ける為に天界へ行きたいのら?
苺+小麦:
はい!
しゅーちゃん:
それなら僕も力になるのら
それぇー
(♪もこもこ もこもこ ぽわわわーん:しゅーちゃんの魔法が発動する音)
ほら、このしゅーちゃん特製チョコレートの汽車に乗って天界まで行くのら
苺:
わぁーしゅーちゃんすごい
大きなチョコレートの汽車だぁー
流石は工場長だね、ありがとうしゅーちゃん
しゅーちゃん:
えっへんなのら
さぁ二人ともこのしゅーちゃん列車に乗って天界まで行くのら
あ、でも乗る前に一つだけ注意があるのら
苺+小麦:
注意?
しゅーちゃん:
そうなのら
この列車の原動力は愛なのら
この列車は、もみあげモミ子ちゃんと、失ってしまった僕の妻への愛から作られているのら
だから愛する人を愛する心を少しでも曇らせてしまったら、この列車はただのチョコレートになってしまうのら
だから何があっても愛する人への心を忘れてはいけないのら
約束、守れるのら?
苺:
勿論です
だって、私から前田センセイが大好きって気持ちを取ったら何も残らないもん
しゅーちゃん:
それなら安心なのら
その気持ちをずっと忘れないでいるのらよ
これからこれ、お土産のしゅーちゃんチョコなのら
恩人の前田さんに渡してほしいのら
苺:
はい、分かりました
天界へ行って前田センセイのおじい様から必ず免罪符を貰って、きっとしゅーちゃんチョコを前田センセイに渡します
しゅーちゃん:
ありがとうなのら
それじゃ、気を付けて行って来るのらぁー
苺+小麦
はい!
ありがとう、しゅーちゃん、またねぇー
第五話:天の川
(♪シュッポ シュッポ シュッポっポ:しゅーちゃん列車が天界に向かって銀河を走る音)
苺:
見て見て小麦ちゃん
もうこんなに高くまで昇ってる
小麦:
うん、本当だね!
しゅーちゃんのチョコレート工場がもうあんなに小さく見える
これなら天界までも、きっとあっと言う間に着くね
苺:
うん、そうだね
あ、今度はあっち
小麦ちゃん、見て
遠くに綺麗な星たちが沢山見えるよ
小麦:
本当だー!
あ!わかった!
苺、あれはきっと天の川だよ!
苺:
へぇーあれが天の川かぁ
なんて綺麗なんだろう
前田センセイにも見せてあげたかったね
やっほー、ミルキーウェーイ
小麦:
苺、あんまり列車の窓から身を乗りだすと危ないよー
苺:
おっと、そうだね、危ない危ない
ふぅ、ねぇ、小麦ちゃん
小麦:
なに?
苺:
私ね、本当はずっと前から分かってるんだぁ
私はいつか大好きな最果ての国を去らなくちゃいけないんだって
その時きっと全部さよならなんだって
小麦:
苺、急にどうしたの?
苺:
ねぇ小麦ちゃん、あの天の川とても綺麗だね
私、この景色をきっとずっと忘れない
小麦:
もう、苺ったら!何を感傷的になってるの?
これから前田センセイのおじい様に免罪符を貰わないといけないっていうのに、、
ってわぁ大変!!いつの間に列車が減速し始めてるよ!?
苺:
え!?本当だ!
あ、いけない!!
ごめん、小麦ちゃん
私、しゅーちゃんが言ってたこと忘れちゃってたー
何があっても愛する人への心を曇らせてはいけないってこと
本当は今、ちょっと気持ちが弱くなってたの
小麦:
もー!苺ったらー!
早く前田センセイへの愛を復活させて!
苺:
わ、分かった!
えっと、、小麦ちゃん、何か良い方法はないかなぁ?
小麦:
うーん、そうだなぁ
じゃあ前田センセイの好きなものしりとりしよう!
苺:
うん、わかった!
じゃ初めの言葉は唯衣ちゃん!
前田センセイと言えばやっぱり唯衣ちゃんだよね!
小麦:
駄目駄目!
最後が「ん」になったらしりとりにならないんだってばー!
苺:
あ!そっか!
でも前田センセイの手前、唯衣ちゃんを呼び捨てにする訳にもいかないしなぁ
じゃー唯衣ちゃんのあだ名の「ちゅけもん」!
小麦:
ちょっと苺!それも駄目!
最後が「ん」なんだってばー!
苺:
あぁ本当だ!
どうしよう小麦ちゃん
唯衣ちゃん以外に前田センセイの好きな物なんて思いつかないよー
あぁそうこうしているうちに、もう列車が壊れ始めてるぅー
このままだったら、私たち銀河に放り出されちゃうよー
小麦:
わーん、助けて前田センセーイ!
って、泣いても仕方ない!こうなったらもう覚悟を決めるしかない!
さぁ、苺!手を繋ごう!
前田センセイを好きになった者同士、銀河の塵となる運命を共にしようじゃないの!
苺:
わーん、小麦ちゃーん!
でも、、そうだね、、覚悟を決めよう!
よし!それじゃ小麦ちゃん!私を前田センセイだと思って、さぁ、手を繋ごう!
小麦:
えっ!?なにそれどういう意味?
苺:
あのね、こんなに前田センセイが大好きな私は、もうほとんど前田センセイと言っても過言ではないと思うの
だから小麦ちゃん、私を前田センセイと思ってこれから一緒に最後を迎えよう!
ってわぁそんな事を言ってたらもう私たち無重力の中に放り出されちゃってるよー!
あーれー
最終話:前田センセイの帰還
苺:
ひゃー
ねぇ小麦ちゃん、まさか銀河の彼方から最果ての国までバンジージャンプするとは思わなかったねぇ
あははは
小麦:
もう、苺ったら呑気なんだからー
今こうして無事に生きてることの方が奇跡なんだからね!
でも折角天界まであと少しだったのに、、
前田センセイのおじい様から免罪符をもらい損なったじゃない!
前田センセイを助けるチャンスだったのに、、
苺:
ごめん小麦ちゃん、、
私の前田センセイを思う気持ちが揺らいだから、、
本当にごめんね、、
小麦:
ううん、二人とも無事だったんだから、もう良いよ
苺:
うん、本当にごめんね
そしてありがとう小麦ちゃん
小麦ちゃんが居なかったら絶対死んでたと思う
小麦:
んー?
ねぇ苺、、
向こうからやって来るのって、、前田センセイじゃない?
苺:
え!前田センセイ?嘘!?どこ!?
小麦:
ほら、あそこ!
苺:
えー?
私目が悪いからよく見えないよぉー
小麦:
わーい、前田センセイだぁー!
ということは無事に釈放されたんだねー!
良かったぁー!
わーい、わーい、前田センセイが帰ってきたぁー!
苺:
あぁー待って小麦ちゃーん
一人だけずるいよー
小麦:
へへーん、待たないよーだ
苺:
そんなぁー
あ、小麦ちゃん大変!
バンジージャンプしちゃったおかげで、しゅーちゃんチョコがお尻のポケットの中でバキバキになってるー
しゅーちゃんごめーん
でもしゅーちゃんが前田センセイの大好物の甘いチョコレートを作っているなんて、何だか素敵だね
うふふー
こうして前田センセイは無事に出頭命令から帰還を果たした
そして最果ての住人たちの日常はこれからも続くのである
おしまい
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