第1463回は、「金田一少年の事件簿 吸血鬼伝説殺人事件、ネタバレ」(推理コミック)です。2004年の作品ですが、4年間の空白がありました。年齢設定は、変わっていません。高校2年生のままなのですが、金田一一(はじめ)は、自転車旅行のため、美雪はじめクラスメートから離れていました。そんな彼が、美雪に手紙を寄こしたのです。
ところで、廃線マニアっています。鉄道の廃線を歩くようです。このコミックに登場するのは"廃墟マニア"です。日本では、ゴーストタウンがほとんどありませんので、難しいかと思います(ただ、限界集落なるものはありますが)。マニアが居住者がいないとは言え、無断で敷地内に入りますと、不法侵入になります。ギリギリの趣味といえるかと思います。
そういう廃墟マニアの耳目を集めているのが、舞蘭村(ぶらんむら)です。かって、別荘地として繁栄していたのですが、この3年ですっかりゴーストタウンとなりました。決して小さい村ではありません。病院もあれば、ホテルもありました。現在では、ホテルを改造したペンションがあります。当然、廃墟をコンセプトとしたペンションです。名前はルーイン( ruin )です。
そこで、金田一のクラスメートがアルバイトしているというのです。美雪は、剣持のおっちゃんを誘ってやってきます。遅れて、金田一も自転車で到着します。ペンションは、オーナーと2人のアルバイターで運営しています。客は、金田一たちを含めて、8人です。スタッフ・客とも、部屋は2階です。早速、廃墟探検に出かけます。
この作品では、すべての描写が伏線となっています。ほとんど無駄な絵がありません。最後に語る金田一の推理で、ひとつひとつの絵が、セリフが、ひとつの答えに収斂していきます(ただ、無理な部分もありますが)。本格推理小説の王道を歩んでいます。そして、このコミックでキーとなる血液型に、"ボンベイ型"なる血液型が登場します。ウィキペディアから引用します。
「 本来、赤血球にはH抗原が付いており、それにA抗原・B抗原がぶら下がっている。ところが、ボンベイ型にはH抗原が存在しておらず、赤血球からA抗原・B抗原が検出されないので、通常の検査上ではO型と判定されてしまう。なお、ボンベイ型は抗H抗体を自然抗体として持つ。
O型の亜種ではあるが、O型の血液を輸血することはできず、その逆もできない。ボンベイ型に輸血できるのはボンベイ型の血液のみである。O型と区別してOh型と書くこともある。インドのボンベイ(現在のムンバイ)で発見されたことから、この名前がついた。
遺伝子工学の発達により、ボンベイ型はO型の亜種ではなく、独立した型だという意見もある。 」
学校で習った血液型の遺伝に関して、認識を改める必要があるかもしれません。 この舞蘭村には、トランシルヴァニアからの移民がいたため、吸血鬼伝説もあります。6年前、実際のどに傷のついた少女の遺体が発見され、心臓を串刺しにされたという事件もあったのです。
その夜、美雪は風呂場で襲われます。そして、気絶しますが、気が付いた時には、ブティックのオーナー(女性)の部屋に移され、傍らではオーナーが殺されています。のどに二つ傷跡と、血液が体内から抜かれています。客の中に医師がいたのです。医師は、簡単な検死をします。医師は、ブティックのオーナーを以前から知っていたようです。
美雪が襲われていた頃、地下のワインセラーでも問題が発生していました。ワインの位置が変わっていたのです。金田一は、蜘蛛の巣の状況から解決します。しかも、風呂場の湯は、血で真っ赤に染まっています。吸血鬼伝説が、いよいよ、頭をもたげてきたのでしょうか。
しかし、ブティックのオーナーが殺されていた2階にいたのは、作家・流山だけです。2階には、ラウンジから踊場となっている階段が唯一のルートですので、みんなから見えます。果たして、・・・・。指摘したのは、アルバイターの湊(みなと)青子です。ミステリー・マニアです。今回、金田一のライバルとなります。電話は繋がりません。孤絶した山荘となったのです。金田一の自転車が消え、自動車もパンクさせられています。
では、風呂場で倒れた美雪は、どういう方法で2階の部屋まで上げたのでしょうか。荷物用の小さなエレベーターがありますが、美雪の体重は47キロです。日中、体重が話題になったのです。エレベーターの積載加重は、45キロです。どんなに重くっても46.1キロが限界です。実験します。やはり無理です。
そして、第2の殺人が発生します。今回殺されたのは、医師です。しかし、遺体が発見される前に、小さな事件が二つ発生します。自転車がパンクさせられた形で、発見されます。さらに、消えたはずの美雪のかけていた椅子に、べったり血がついていたのです(血と同じ色の椅子)。着がえるために、部屋に帰った際、美雪の部屋で血が床に散乱しているのが発見されたのです。部屋は、昔風の合鍵の作れない特殊なキーです。キーは、美雪がずっと持っていたのです。どうやって・・・・。完全な密室です。
アルバイトの青子は、犯人は美雪だと指弾します。美雪であれば、全て可能だったのです。美雪も、のどの二つの傷痕から、吸血鬼となり、無意識に二人を殺したのではないかと、疑心暗鬼になっています。ここまで書いたことが全て伏線です。フーダニットというよりも、ハウダニットに重点を置いた展開になっています。
以下、最後まで書きます。
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ここで、生き残っている登場人物を整理します(登場順)。
① 流山森太郎(30歳)・・・・遺跡マニア、作家、やせぎすでメガネをかけた陽気な男。
② 猫間(ねこま)純子(26歳)・・・・フリライター、短髪の猫顔の女性。
③ 比良川(ひらかわ)透(45歳)・・・・ペンションのオーナー、総白髪、めがね。
④ 貴船葉平(17歳)・・・・アルバイター、金田一のクラスメート。
⑤ 湊(みなと)青子(22歳)・・・・ペンション・スタッフ。遺跡マニア、ミステリ・マニア。
⑥ 緋色景介(33歳)・・・・医師、次のターゲット? 美形。
かなり前の写真が発見されます。ホテル時代の一家の写真のようです。ひとりは辻由利亜、前のオーナーの娘です。もう一人は、医師の緋色です。愛し合っていたのでしょうか。さらに、美雪の髪が5センチほど、切られているのに気付きます。
そして、「真犯人はこの中にいる」と、上記の6人を集めます。青子は、美雪犯人説を再度主張します。金田一は、まず第2の殺人の密室トリックを解明します。美雪は血で汚れた衣類を着がえるため、部屋に帰ります。血が散乱したのを見た美雪は、ラウンジにいるみんなに知らせにいきます。犯人はその隙に、遺体を運んだというのです。椅子に血を付けていたのは、遺体移動のためのタイミングを計るためです。床に散乱していた血は、ドアの下のわずかな隙間から、事前に入れておいたと・・・・。これなら、密室ではありません。
ここで、金田一は犯人は青子だと指摘します。ミステリ・マニアとして推理を披露したのは、みんなをミスディレクションさせるためだと語ります。そして、第1の殺人の話に移ります。美雪が目撃した殺人は、実際は地下で行なわれた擬装だというのです(実際の殺人は2階です)。ここでは、美雪の移動だけが語られます。体重47キロの美雪から血を抜き、2階に上げてから戻したと。その際、わずかに積載加重をクリアできなかったので、髪を切ったと・・・・。それが、青子の衣類に付着していることが、最終的な証拠となります。
ただ、申告が正しければ、青子は50キロですので、エレベータの移動は無理です。青子自身の移動については、記述されていません。動機に焦点が移ります。6年前のドラキュラ騒動で亡くなった被害者のための復讐です。その被害者は、青子の姉だったのです。姉の血液型は、ボンベイ型でした。医師の勤めていた病院に急患が運ばれましたが、その患者もボンベイ型でした。医師と看護士(ブティックのオーナー)は、共謀して姉から患者に大量に輸血します・・・・。目的は高額な報酬です。
青子の報復相手は、もう一人います。医師の緋色です、青子は彼を刺します・・・・。写真に写っていたように、青子の姉と緋色は愛し合っていたのです。青子は、姉の死に緋色も関与していたと考えていたのですが、彼は関わっていません。
場面が変わります。金田一が青子を見舞っています。青子のボンベイ型の血液を、刺された緋色に輸血したのです。さらに、大量の輸血をした青子に、かつて急患で救われた少女が今度は輸血します・・・・。後味のいい形で、物語は終わります。
実に無駄のない描写なのですが、週刊誌連載の宿命なのでしょうか、詰め切っていません。しかし、この程度なら許せる範囲です。私は、この作品を評価しています。輸血とボンベイ型、これだけでも読むに価します。
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