お好み焼きにカキ、もみじまんじゅうだけじゃない!-。広島県は、地元ならではの多彩な食の魅力を発信し、観光誘客や交流人口の拡大につなげるプロジェクト「おいしい!広島」を展開している。10月には、生産者や自治体の担当者らが集結し、オール広島による食の魅力創出に向けて一致団結した。かつて自虐的な観光PR「おしい!」で注目を集めた広島県。「おいしい」のブランドイメージは定着するか。
奥ゆかしさがあだに
「世界を『おいしい広島』であふれさせ、活気のある元気な街にしていこう」。10月2日、同プロジェクトのキックオフとなる決起会。冒頭、関係者117人を前に湯崎英彦知事が呼び掛けた。
広島の場合、ご当地グルメや名産品もお好み焼きなどの3大グルメの陰に隠れがち。あまり知られていないが、実はレモンの生産量が日本一で、マダイやサワラ、カワハギなどの四季折々の地魚「瀬戸内さかな」のほかに、ブランド和牛の比婆牛、神石牛もあり、良質な食材には事欠かない。
こうした「おいしい」の魅力を内外に発信する県民運動にまで盛り上げるべく、広島市で昨年開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)を契機として立ち上がったのが、同プロジェクトだ。
決起会では、生産者や料理人らが推す食材や調理方法が紹介された。県観光連盟は牛の肩バラ肉「コウネ」をアピール。これまで全国にPRできそうな地元ならではの食文化ながら「広島県人は奥ゆかしく、あまり言ってこなかった」(同連盟)。今後は「観光の目玉に」と意気込む。
実際に食材を持ち寄るなどして各地域や団体の取り組みを関係者間で共有、販路拡大につなげる機会も設けられた。
県中央部に位置する東広島市が推したのは、地元の広島大と共同開発したブランド地鶏「東広島こい地鶏」。ネーミングにはうま味が「濃い」、食べに「来い」などの思いが込められている。
自虐には頼れない
県は平成24年、「おしい!広島県」のキャッチフレーズでキャンペーンを始め、観光資源が多くありつつ、魅力が十分に知られていないと自虐的にPR。県出身のタレント、有吉弘行さんや俳優の河原さぶさんが動画やポスターに登場して認知度アップに成功した。
絶妙かつ思い切った広報戦略から10年以上。今や自虐に頼っていられない差し迫った事情がある。
サミットも追い風になったのか、昨年県内を訪れた観光客数は新型コロナウイルス禍前の6千万人台に戻った。だが、総務省の人口移動報告(令和5年)によると、転出者が転入者を上回る「転出超過」が初めて1万人を超え、3年連続で全国最多に。人口流出が進む実態が鮮明になった。
同プロジェクトの展開も人口減少と必ずしも無関係ではない。ふるさとの味である多様な食資産を通じ、県民に改めて広島の良さを認識してもらうとともに、それを発信し、県外の人に広島を再評価してもらうことで、「選ばれる広島」につなげようというわけだ。
もっとも、県は「おしい」のキャンペーン開始時に、「おしいは、おいしいの一歩手前」とも意味付けており、「おいしい」を売りにしている今回のプロモーションと「結果的にリンクする形となった」(担当者)。
同プロジェクトの一環として、各団体が来春まで多彩な食のイベントやグルメフェアを集中的に開くほか、JR西日本などは県産食材を使った新たな駅弁を開発する。カゴメなども地元の食材を生かしたパスタを飲食店やスーパーでメニュー化する計画だ。
多様な食資産もまず知ってもらうところから。県は拡散力を持つX(旧ツイッター)やインスタグラムなど交流サイト(SNS)に、「#おいしい広島」を付けての投稿を呼び掛けている。(矢田幸己)