「大臣就任断り激怒させた」ライバル 石破茂が語る安倍晋三
安倍晋三元総理が銃撃されて死亡するという衝撃的な事件。
歴代最長の安定した政権を築き、外交・内政の両面で成果を上げたとする評価がある一方、国民への説明責任を果たしていなかったと指摘する声もある。
果たして安倍とはいかなる政治家だったのか。
関係者へのインタビューを通じて探った。
前回の菅・前総理大臣に続き、今回は、自民党総裁選挙で2度にわたって安倍と争った“最大のライバル”石破茂・元幹事長に話を聞いた。
「21世紀の総理」は安倍と予感
2人の出会いは、安倍が衆議院議員に初当選した約30年前にさかのぼる。
当選3回だった石破は、党の国防部会などで安倍が発言する様子を見て、その見識や弁舌に非凡さを感じたという。
石破は、出会った当初から安倍を将来の総理候補と評価していたと明かす。
「そのころ、『21世紀総理』みたいな企画がはやっていてね。『21世紀の総理は誰だと思いますか』といったアンケートが国会議員に配られたことがありました。私、その時に『安倍晋三』って書いた覚えがある。今となっては意外に思われるかもしれないけどね」
一方、安倍から石破に接近してくる機会があった。
安倍がライフワークとして取り組んだ北朝鮮による拉致問題。
2002年、問題の解決を目指す超党派の議員連盟が新たに立ち上がり、石破は会長に就任したが、それを要請したのは、当時、小泉内閣の官房副長官だった安倍だった。
確執と呉越同舟、そして対決
若い頃には互いを認め合っていた2人だが、距離ができ始めたのは、第1次安倍政権下、2007年の参議院選挙で自民党が大敗し、安倍が続投の方針を表明した時だという。
石破は、党の総務会で「選挙に負けたにも関わらず、続投するのは理屈が通らない」と公然と安倍の辞任を求めた。
「『続投するならそれなりの説明が必要でしょう』と。安倍さんにとっては、最も言われたくないことだったと思うな。だからその時から、感情的には『こいつは許せない』っていうのが、ずっとあったと思うんだよね」
その後、野党時代の2012年の総裁選挙で、安倍と石破はそろって名乗りをあげた。
2度目の総裁となった安倍は、石破を党の要の幹事長に起用したが、この人事について石破は、安倍の本意ではなかったと推察する。
「心ならずも不愉快だが、私を幹事長にしたんでしょう。それで政権奪還をした。本当はそこで変えたかったはずです、私を。ただ、選挙で勝った幹事長を変えられないから、2年やることになったんだけどね」
決定的な対立となったのは、2014年の内閣改造だ。
しかし、憲法と集団的自衛権の関係をめぐり、方向性が違うと考えていた。
「総理執務室で安倍さんと私と1対1だった。『大臣を受けろ』『受けない』という押し問答があってね。『閣内不一致になるから担当大臣は受けられません』って言ったら、安倍さんの激怒が頂点に達するわけね。『そんなんだったら、あなたが総理になったらやればいい』と。捨てゼリフだったね」
石破は結局、地方創生担当大臣に就任するが、2016年に閣外に去り、「ポスト安倍」を目指す活動を進める。
そして、2018年の総裁選挙で、安倍と一騎打ちで争った末、敗れた。
安倍政権の功罪とは
8年8か月にわたった安倍政権。
石破にとっては、幹事長や閣僚として支えた時期と、ライバルとして争った時期に分かれるが、その功罪をどう見ているのか。
まずは、功績について聞いた。
「日本がどんどんと衰退していくという国民の不安を解消したという点が功績でしょうね。また平和安全法制に見られるように、安全保障において一定の前進をみたということ。そして、批判する向きもあるけれど、消費税を2回上げてるわけですよね。それは財政規律に一定の配慮をしたということじゃないんですかね」
一方、安倍政権の負の部分は何か。
石破は、その1つに「桜を見る会」をあげた。
とりわけ、会の前夜に開催された懇親会をめぐる問題で、安倍の国会答弁が事実と違っていることを石破は問題視する。
また、森友学園をめぐる財務省の決裁文書の改ざん問題や、加計学園の問題なども含め、安倍政権は“国民への説明責任”という点では至らない部分があったと指摘する。
「私は国家機密を除けば、情報は正確に開示すべきもので、改ざん隠蔽、虚偽答弁などというものは民主主義を否定するものだと思っているんですね。安倍さんは多分、『政治は結果であり、必要あれば情報を隠すこともある。国会で心ならずも真実と違うことを言わねばならんこともある』と思っていたのではないか。でも、森友、加計問題にしても、桜を見る会にしても、間違っていたと思ったら、軌道修正するということは、安倍政権のためにも必要なことだったと思います」
そして石破は、政治観において自身と安倍との最も違う点を、次のように語った。
「安倍さんは、『正しいことは正しい。間違っていることを次の時代に負わせるべきではない』という考えで、何よりも結果が大事だと信じていたはずなんですね。私は、結果も大事だけど、民主主義はプロセスであって、保守の本質は寛容だと。時代が変わろうと同一性は保つべきだと。その違いじゃないかな」
安倍亡き後の自民党政治は
最大のライバルがいなくなった今、石破はどうするのか。
今後、総裁を目指す考えがあるか聞いた。
結果を重視する安倍と、プロセスを重視する石破。
「安倍一強」とも言われた時代に、党内で政権に苦言を呈してきた数少ない政治家が石破だった。
それだけに「冷や飯」を食わされ続けてきた石破だが、ライバルについて語るその表情は、終始さびしさがにじんでいるように見えた。
一方で、安倍なき自民党にあって、石破が指摘した“説明責任を果たす政治”が実現するかどうかは、石破自身を含め、党に課せられた宿題でもある。
不断の検証が求められる。
- 政治部記者
- 佐久間 慶介
- 2012年入局。福島局を経て政治部。立憲民主党などを担当し、去年秋から与党クラブで自民党の選挙対策を取材。