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190.義弟は整理する。


「…ヴェスト摂政、書類をまとめ終わりました。僕もそちらをお手伝いします。」


仕事用の机で書類と先程届いた書状を交互に見比べるヴェスト叔父様に声を掛ける。ヴェスト叔父様は真剣な表情で複数の書類を何枚も何度もめくり直していた。


「ああ、頼むステイル。至急にこれをローザへ報告しなければ。」

そう言いながらヴェスト叔父様が書類の束のうち半分を俺に任せて下さる。

この国の摂政であるヴェスト叔父様は我が国だけではなく、外交にも深く携わっている方だ。単に異国の王族と密に書状を交わし合うだけではない。世界中の国に使者を出し、彼らからの報告や国の代表からの書状から世界各国の動きや結び付きを把握し、微細な変化に気付き、そこから世界の今後の動きを掴まなければならない。

そして、今まさにヴェスト叔父様は使者から届いた報告と書状を手に、今の情勢把握に全身全霊の知力を注いでいる。

ヴェスト叔父様の書類の束を一つ手に取りながら「何から調べますか」と確認を取る。


「コペランディ王国について調べられるだけの情報を集めて紙に纏めてくれ。私は先程の書状にあったアラタ王国とラフレシアナ王国の方を調べる。」

コペランディ王国…昨日、ヴェスト叔父様の所に報告が入った、ハナズオ連合王国に訪問を許された国だ。アネモネ王国との交易以外、外交を遮断しているハナズオ連合王国が今からつい十三日前にそれを許し、国内に招き入れた。…ちょうどレオン王子が伝言を託された前日だ、これを偶然とは思えない。

更に、午後を過ぎた今届いた別の使者からの報告にあったアラタ王国とラフレシアナ王国。この二国とコペランディ王国には大きな共通点がある。

報告を確認したヴェスト叔父様は急ぎ膨大な資料を集め、紐解き始めた。母上にも先にそれを報告し、今頃王居には厳重警備が張り巡らせ始めている頃だろう。

俺もヴェスト叔父様の後に書状の内容は確認させて貰ったが、確かに急を要する内容だった。

更にヴェスト叔父様がいま調べただけでも、その状態が深刻な事態へと進行していることが容易に想像できた。

俺が今こうしてコペランディ王国について調べただけでも、嫌な予想しかつかない。


ハナズオ連合王国、サーシス王国の第二王子セドリック・シルバ・ローウェル。

突然レオン王子を通じて連絡を寄越し、更には単独での唐突な訪問と同盟交渉。そして初日からのプライドへの無礼の数々。


奴の本当の目的は何だ?


本当に単なる同盟だけが目的なのか?

同盟における盟約の結び付きが狙いか。それとも同盟に託けて我が国の心臓部であるこの城に潜り込むことが狙いか。それとも一人国から逃げてきたのか。それとも…


「今こうしている間にも姉君やティアラに何事もないと良いのですが…!」


自分用の作業机で、書類を手にペンを走らせながらヴェスト叔父様へと投げかける。「まだ決まった訳ではない。それに、そろそろ騎士隊が警備に着く頃だろう」と返して下さり、俺もそれに応える。…だが、まだ安心はできない。昨日の今日で未だ懲りてなければ、あの愚かな王子は今日もまた


プライドやティアラの近くにいるのかもしれないのだから。


昨夜、奴はプライドを泣かせた。

プライドが泣いた理由自体は至極平和なものだ。だが、その前にはプライドの唇を奪おうとし、俺がジルベールとともにあれほど徹底的に釘を刺したというのに、その日の夜にプライドの料理を勝手に食した。横暴とも馬鹿とも言える行動の数々。終いには罪人や裏切り者にすら平然と手を差し伸べるプライドからすら「大嫌い」と告げられる程のどうしようもなさだ。余程の大物か、余程の愚者か。

更に、泣くプライドと共に調理場を去る間際のティアラは〝アーサーへの料理が食べられたことでプライドが泣いた〟と言う状況を説明してくれた時に、何かまだ隠し事があるようだった。台無しにされたのはアーサーへの料理だけではなかったのか。…それともまたあの男がプライドの身体に触れでもしたのか。いや、それなら流石のティアラでもあの場で俺に言うだろう。とにかく


例えどんな理由であろうとプライドを泣かせたあの男に腑が煮えくりかえる。


あれほど言ったのに、これだ。いっそ二度とプライドには関わる気が起きないように身も心も叩き折ってやりたくもなったが相手は同盟志願の第二王子。更には俺が手を下す前にこの事態だ。


もし、この使者からの情報から導き出された結果…

あの王子が我が国の喉元を狙っていたら。

もしくは同盟を結ぶことで我が国を陥れ、火を投じようとしているのなら。







この俺自ら、奴の首を銀の皿へと晒してやる。


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