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そして刺す。


「…お話中失礼致します。ステイル様、そろそろお時間ではないでしょうか。」


ジルベールの声に振り返る。いつの間に聞いていたのか。…面倒な奴に見つかった。


「…ジルベール宰相。いつからそちらに?」

舌打ちをしたい気持ちを抑え、笑みのままジルベールを迎える。もう少し徹底的に言葉で串刺しにしてやりたかったが、ジルベールに割って入られては分が悪い。


「先ほどからです、偶然声が聞こえておりましたので。無礼を承知の上で一言申し上げますが、ステイル様。サーシス王国の第二王子殿下に先程のような言葉は流石に些か無礼かと。」

エリック副隊長の話を聞く限りではジルベールもプライドへセドリック第二王子が何をしたのかは知らないのだろう。ここで説明する訳にもいかない。まだ言い足りないが仕方がない、ここは



「王族への暴力、口付け、無体など()()()()()()()。それを改めて他国の王族に説くなど。」



ジルベールの言葉の選別と、その笑みで俺は全て察する。

目の前のセドリック第二王子が微かに息を飲む音が聞こえ、本心から口元が緩んだ。

ジルベールの手を借りるのは不本意だ。が、


…今だけは、悪くない。


「ああ、確かにその通りですね。失礼致しました、セドリック第二王子殿下。あまりの当然の事ばかりしか出てこず…僕もまだまだ勉強不足のようです。」

「まぁ、中にはそういう礼儀知らずの者も居りますが…その多くが厳しく罰せられておりますから、心配など不要でしょう。それにセドリック第二王子殿下は同盟が為、我が国を訪れて下さった責任ある立場なのですから。」

「そうですね。間違ってもそのようなことはないでしょう。本当に申し訳ありませんでした、セドリック第二王子殿下。姉君は訳あって未だ婚約前の身の上故、どうしても過敏になってしまいまして。」

「ステイル様の御心配も当然でしょう。なにせ、プライド様は次期女王となる御方。何より、国中の者に慕われている存在。大事な御方ですから。あの御方に何かあれば、それこそ我が国を敵に回すようなもの。……まぁ、それは言い過ぎですかね…?」

「いえいえジルベール宰相。少なくとも僕やティアラ、父上や母上…城の者にとっても姉君は大事な方です。……そう、()()()()()()。」


まるで、示し合わせたかのようにジルベールと同時にぐるりと首ごと顔が動く。互いに笑みを崩さないまま、ゆっくりと正面にセドリック第二王子を見据える。流石は第二王子といったところか、俺とジルベールに相槌を返しつつ表情こそ崩してはいないが、先程よりも若干血の気が引き、一筋の汗が伝っていた。


「…ああ、そうそう。ステイル様、確か〝これから〟プライド様の元へ向かわれるのではありませんか?」

「!ええ、そうです。先程の謁見の間を最後に僕はずっとヴェスト叔父様に付いていたので。〝これから〟姉君と配達人の手続きを。」

「そうですか。こちらに伺う途中で、プライド様が未だステイル様が来られないとお探しになっておりましたよ。どうぞ、宜しくお伝え下さい。」

「ありがとうございます。それでは僕は急ぎ、これで失礼致します。」


セドリック第二王子に挨拶を交わし、そのまま足早にその場を去る。急ぎヴェスト叔父様のもとへ戻らなければ。

背中からジルベールがなに食わぬ声で、セドリック第二王子に今後の予定と同盟について確認をと言葉を掛けている。

息もつかぬ間も無く今度はジルベールとか。まぁ、いい気味とでも思っておこう。

取り敢えず今晩にも気が向いたらジルベールに礼の一つは言ってやらないこともない。プライドに何があったかについては、先ずはプライドの許可を得てからでなければ話してやる訳にはいかないが。

ジルベールのお陰で言ってやりたい言葉も大体突き刺してやることができた。更には俺がこれから姉君に会うということで、きっとセドリック第二王子は己が所業がこれから俺にバレるのではないかと気が気でないだろう。

これで再びプライドに手を出そうものならばそれは余程以上の馬鹿だ。


「………フン。論外だ。」


思わず思った言葉が口に出る。

あんな男ではプライドには相応しくない。俺とジルベールに少し圧をかけられた程度で動揺する男など。

それにヴェスト叔父様が調べたところでは…


「あ。」


…しまった。プライドに話そうと思っていたことを忘れていた。セドリック第二王子の愚行に思考が全て持っていかれていた。母上と父上にはヴェスト叔父様から話が通っている頃だろう。プライドにも次会った時にはきちんと話さなければ。



十二日前、ハナズオ連合王国に訪問を許されたという噂の、コペランディ王国について。


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