総合診療医の視点 -命を救う5分の知識- フォロー

新型コロナで、認知機能が低下? 想像以上に深刻な後遺症

谷口恭・谷口医院院長
 

 10月から始まった新型コロナワクチン(以下、単に「コロナ」)の定期接種は65歳以上(と60~64歳の重症化リスク保有者)のみのため、59歳以下の人はたとえ重症化リスクがあったとしても、「任意接種」となり高額な負担を強いられることになります(当院の場合1万5400円)。今秋からは医療者でさえも定期接種にならず、希望するのであれば一般の人たちと同じ金額を負担しなければなりません。「コロナワクチン未接種者が病院勤務してもいいのか」などという議論が激しく交わされた3年前の情勢とは大きく異なり、今ではワクチン未接種者をとがめる空気はまるでありません。では、任意接種希望者はほとんどいないのかといえばそういうわけでもなく、「コロナワクチンをうつべきでしょうか」という質問は頻繁に寄せられます。後遺症のリスクを懸念している人たちは少なくないのです。今回はそんな後遺症のなかでも最も避けたいもののひとつ「認知機能低下」を取り上げます。

世界各地から報告

 コロナに罹患(りかん)すると認知症になりやすいという事象について、私自身はコロナが始まった2020年の後半くらいから感じていました。また、私以外にもそういたことを指摘する声は当時から世界中にあり、論文も発表されていました。

 たとえば、イタリアの医療機関の外来に通う111人(平均82歳、男性32%)を対象とした研究では、調査期間中に31人がコロナに感染し、44人は認知機能が低下しました。コロナに感染したグループは、感染しなかったグループに比べ、認知機能が低下した人が3.5倍も多かったという結果が得られました。

 コロナ感染と認知症の関連を調べた質の高い11の研究を総合的に解析した研究(メタアナリシス)もあります。コロナに感染した939,824人と、しなかった6,765,117人を比較し、コロナ感染により新たに認知症を発症するリスクが58%増加したとしています。

 英国で成人10万人以上が参加したオンラインによる認知機能評価の分析によるとやはりコロナ感染で認知障害発症リスクが上昇していました。この研究では、「コロナが重症であると認知症リスクが上昇しやすい」という結果がでています。オンラインによる評価とはいえ、対象者が10万人以上ですからコロナ感染が認知症の発症リスクになるのは間違いなさそうです。

リスクは若者にも

 コロナが高齢者の認知症のリスクになることは今では多くの臨床医が実感しています。医師のなかには「認知症を発症した原因はコロナではなく、過剰な外出制限で運動する機会や他人との交流が奪われたせいだ」という意見もあり、私自身もこの説はまんざら間違いではないと感じています。しかし、そういったことを差し引いても、やはりコロナに感染することが認知症のリスクになるという印象が私にはあります。

 では若年者はどうでしょうか。実は50代はもちろん、20代ですらコロナ感染後に認知機能の低下を訴える事例は少なからずあります。ただし、そのレベルは認知症の診断に用いる検査(例えば「長谷川式認知症スケール」)で明らかな異常が出るほどのものではありません。また、脳のMRIを撮影しても所見があるわけでもなく、血液検査にも異常はでません。「以前のように仕事がは…

この記事は有料記事です。

残り1953文字(全文3302文字)

谷口医院院長

たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。谷口医院ウェブサイト 月額110円メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。