脚注付論文の生成

序章　問題の所在¹⁾

一般に、第一次世界大戦から、１９３０年代中頃までの約２０年間のアメリカ社会学の歴史は、事実上、シカゴ大学社会学科の歴史として描くことができると言われている。²⁾コーザーによれば、この間、シカゴ大学社会学科は、「社会学的研究の一般的潮流を方向付け、社会学の唯一の専門雑誌〔＝『アメリカ社会学雑誌』(American Journal of Sociology)〕を発行した。³⁾また、社会学科にその足跡を残し、アメリカ社会学協会〔＝アメリカ社会学会〕の会長になったほとんどの社会学者はここで教育を受けた。⁴⁾同学科の教授たちは、もっとも影響力のあるモノグラフや教科書を書いた」(Coser,1978=１９８１年、９１頁)。⁵⁾とはいえ、こうしたシカゴ学派のいわゆる「黄金時代」は、その１９３０年代中頃までであり、とりわけ、Ｔ.パーソンズを中心とする構造機能主義社会学が、アメリカ社会学のメインパラダイムとしての位置を占めるにしたがって、シカゴ学派は、急速に衰退の一途を辿ってゆくこととなり、次第にアメリカ社会学界から忘れられてゆくこととなった（吉原、１９９４年、５３頁、７３頁）。⁶⁾その後、戦後数十年におよぶ空白の後に、再びシカゴ学派に脚光があてられることとなる。⁷⁾そうした動向がフェアリスの言う「シカゴ学派の知的遺産の再発見」なる動きに他ならない(Faris,1967=１９９０年、１６頁、１７頁)。⁸⁾吉原によれば、そうした動向は、「ポスト・パーソンズの社会学の一潮流に棹さしているということに加えて、現代社会学のフロンティアの領域と多様に交叉する可能性を包蔵している」という点で、「シカゴ・ルネサンス」と呼ばれるに相応しいものであるという（吉原、１９９４年、５３頁）。⁹⁾この「シカゴ・ルネサンス」には二つの流れがある。¹⁰⁾そのうちのひとつは、Ｍ.ジャノウィッツを中心とするシカゴ学派「第四世代」であり、それは都市社会学の領域での理論的・経験的研究の復興に寄与したと言われる。¹¹⁾そしてそのもうひとつの流れに位置づけられるのが、ハーバート・ブルーマーに代表されるシンボリック相互作用論(Symbolic Interactionism)に他ならない¹²⁾。「群雄割拠、百家争鳴の有様」（青井、１９９３年、６０２頁）にあると言われる現代社会学において、シンボリック相互作用論は、「こんにち、現代社会学の主要潮流の一つを形成するものとなっている」（船津、１９９３年、４５頁）との位置づけを有するものとされている。¹³⁾とりわけ、「現象学的社会学、エスノメソドロジー、解釈学的社会学、役割理論、レイベリング理論、ジェンダー論などといった、社会学および社会心理学の諸学派・諸流派」に顕在的・潜在的な影響を与え続けてきたとされている（後藤、１９９１年、２７４−２７５頁）。¹⁴⁾わが国においてシンボリック相互作用論の社会学理論を、「もっとも精密に、体系的に論じている」（江原、１９８６年、６４頁）と目されている船津　衛によれば、一口にシンボリック相互作用論とは言っても、そこにはたとえば、人間の主体的あり方を理論的に解明しようとする「シカゴ学派」、自己の経験的・実証的研究に取り組んでいる「アイオワ学派」、ミード理論をワトソン流の行動主義との関連において再検討し、独自の社会的行動主義の展開を目指す「イリノイ学派」、人間の行為や社会のあり方を演技やドラマとして捉え、それを具体的な相互作用場面において解明しようとする「ドラマ学派」などがあるが（船津、１９９５年、４頁）、¹⁵⁾こうした数あるシンボリック相互作用論のなかでも、「現代のシンボリック相互作用論の特徴を余すところなく表現し、包括性、体系性において、他を凌駕し、今日のシンボリック相互作用論のよるべき大樹」（船津、１９７６年、４０頁）と目されているのが、ハーバート・ブルーマー(Blumer, Herbert George,1900-1987)のシンボリック相互作用論に他ならない。¹⁶⁾デンジンが「伝統的なシンボリック相互作用論の考え方」を成すものとして挙げているのもまた、このブルーマーのシンボリック相互作用論に他ならない(Denzin,1989b=１９９２年、viii)。¹⁷⁾

¹⁾ この文章は、シンボリック相互作用論、特にハーバート・ブルーマーの理論について論じることを目的としています。 ²⁾ 第一次世界大戦から1930年代半ばまでのアメリカ社会学は、シカゴ大学社会学科が中心的な役割を果たしていました。 ³⁾ シカゴ大学社会学科は、社会学研究の動向を決定づけ、主要な学術雑誌を発行し、多くの著名な社会学者を輩出しました。 ⁴⁾ シカゴ大学社会学科の影響力は、アメリカ社会学全体に及んでいました。 ⁵⁾ コーザーは、シカゴ大学社会学科の黄金時代を1930年代半ばまでと述べています。 ⁶⁾ 1930年代半ば以降、構造機能主義が台頭し、シカゴ学派は衰退していきました。 ⁷⁾ 戦後、シカゴ学派は再び注目されるようになりました。 ⁸⁾ フェアリスは、この動きを「シカゴ学派の知的遺産の再発見」と呼んでいます。 ⁹⁾ 吉原は、シカゴ学派の再評価は、現代社会学の新たな展開に貢献する可能性があると述べています。 ¹⁰⁾ シカゴ学派の再評価には、二つの流れがあります。 ¹¹⁾ 一つは、都市社会学における理論的・経験的研究の復興です。 ¹²⁾ もう一つは、シンボリック相互作用論です。 ¹³⁾ シンボリック相互作用論は、現代社会学の主要な潮流の一つとなっています。 ¹⁴⁾ シンボリック相互作用論は、他の社会学理論にも大きな影響を与えています。 ¹⁵⁾ シンボリック相互作用論には、シカゴ学派、アイオワ学派、イリノイ学派、ドラマ学派など、様々な流れがあります。 ¹⁶⁾ ハーバート・ブルーマーのシンボリック相互作用論は、現代のシンボリック相互作用論の代表的な理論とされています。 ¹⁷⁾ デンジンもまた、ブルーマーの理論を伝統的なシンボリック相互作用論の考え方として挙げています。

序章　問題の所在

一般に、第一次世界大戦から、１９３０年代中頃までの約２０年間のアメリカ社会学の歴史は、事実上、シカゴ大学社会学科の歴史として描くことができるといわれている¹。コーザーによれば、この間、シカゴ大学社会学科は、「社会学的研究の一般的潮流を方向付け、社会学の唯一の専門雑誌〔＝『アメリカ社会学雑誌』(American Journal of Sociology)〕を発行した²。また、社会学科にその足跡を残し、アメリカ社会学協会〔＝アメリカ社会学会〕の会長になったほとんどの社会学者はここで教育を受けた³。同学科の教授たちは、もっとも影響力のあるモノグラフや教科書を書いた⁴」(Coser,1978=１９８１年、９１頁)⁵。とはいえ、こうしたシカゴ学派のいわゆる「黄金時代」は、その１９３０年代中頃までであり、とりわけ、Ｔ.パーソンズを中心とする構造機能主義社会学が、アメリカ社会学のメインパラダイムとしての位置を占めるにしたがって、シカゴ学派は、急速に衰退の一途を辿ってゆくこととなり、次第にアメリカ社会学界から忘れられてゆくこととなった⁶（吉原、１９９４年、５３頁、７３頁）。その後、戦後数十年におよぶ空白の後に、再びシカゴ学派に脚光があてられることとなる⁷。そうした動向がフェアリスの言う「シカゴ学派の知的遺産の再発見」なる動きに他ならない⁸(Faris,1967=１９９０年、１６頁、１７頁)。吉原によれば、そうした動向は、「ポスト・パーソンズの社会学の一潮流に棹さしているということに加えて、現代社会学のフロンティアの領域と多様に交叉する可能性を包蔵している」という点で、「シカゴ・ルネサンス」と呼ばれるに相応しいものであるという⁹（吉原、１９９４年、５３頁）。この「シカゴ・ルネサンス」には二つの流れがある¹⁰。そのうちのひとつは、Ｍ.ジャノウィッツを中心とするシカゴ学派「第四世代」であり、それは都市社会学の領域での理論的・経験的研究の復興に寄与したと言われる¹¹。そしてそのもうひとつの流れに位置づけられるのが、ハーバート・ブルーマーに代表されるシンボリック相互作用論(Symbolic Interactionism)に他ならない¹²。「群雄割拠、百家争鳴の有様」（青井、１９９３年、６０２頁）にあると言われる現代社会学において、シンボリック相互作用論は、「こんにち、現代社会学の主要潮流の一つを形成するものとなっている」（船津、１９９３年、４５頁）との位置づけを有するものとされている¹³。とりわけ、「現象学的社会学、エスノメソドロジー、解釈学的社会学、役割理論、レイベリング理論、ジェンダー論などといった、社会学および社会心理学の諸学派・諸流派」に顕在的・潜在的な影響を与え続けてきたとされている¹⁴（後藤、１９９１年、２７４−２７５頁）。わが国においてシンボリック相互作用論の社会学理論を、「もっとも精密に、体系的に論じている」（江原、１９８６年、６４頁）と目されている船津　衛によれば、一口にシンボリック相互作用論とは言っても、そこにはたとえば、人間の主体的あり方を理論的に解明しようとする「シカゴ学派」、自己の経験的・実証的研究に取り組んでいる「アイオワ学派」、ミード理論をワトソン流の行動主義との関連において再検討し、独自の社会的行動主義の展開を目指す「イリノイ学派」、人間の行為や社会のあり方を演技やドラマとして捉え、それを具体的な相互作用場面において解明しようとする「ドラマ学派」などがあるが（船津、１９９５年、４頁）¹⁵、こうした数あるシンボリック相互作用論のなかでも、「現代のシンボリック相互作用論の特徴を余すところなく表現し、包括性、体系性において、他を凌駕し、今日のシンボリック相互作用論のよるべき大樹」（船津、１９７６年、４０頁）と目されているのが、ハーバート・ブルーマー(Blumer, Herbert George,1900-1987)のシンボリック相互作用論に他ならない¹⁶。デンジンが「伝統的なシンボリック相互作用論の考え方」を成すものとして挙げているのもまた、このブルーマーのシンボリック相互作用論に他ならない¹⁷(Denzin,1989b=１９９２年、viii)。

¹ この文章は、シンボリック相互作用論、特にハーバート・ブルーマーの理論について論じることを目的としています。 ² シカゴ大学社会学科は、社会学研究の動向を決定づけ、主要な学術雑誌を発行しました。 ³ 多くの著名な社会学者を輩出しました。 ⁴ シカゴ大学社会学科の影響力は、アメリカ社会学全体に及んでいました。 ⁵ コーザーは、シカゴ大学社会学科の黄金時代を1930年代半ばまでと述べています。 ⁶ 1930年代半ば以降、構造機能主義が台頭し、シカゴ学派は衰退していきました。 ⁷ 戦後、シカゴ学派は再び注目されるようになりました。 ⁸ フェアリスは、この動きを「シカゴ学派の知的遺産の再発見」と呼んでいます。 ⁹ 吉原は、シカゴ学派の再評価は、現代社会学の新たな展開に貢献する可能性があると述べています。 ¹⁰ シカゴ学派の再評価には、二つの流れがあります。 ¹¹ 一つは、都市社会学における理論的・経験的研究の復興です。 ¹² もう一つは、シンボリック相互作用論です。 ¹³ シンボリック相互作用論は、現代社会学の主要な潮流の一つとなっています。 ¹⁴ シンボリック相互作用論は、他の社会学理論にも大きな影響を与えています。 ¹⁵ シンボリック相互作用論には、シカゴ学派、アイオワ学派、イリノイ学派、ドラマ学派など、様々な流れがあります。 ¹⁶ ハーバート・ブルーマーのシンボリック相互作用論は、現代のシンボリック相互作用論の代表的な理論とされています。 ¹⁷ デンジンもまた、ブルーマーの理論を伝統的なシンボリック相互作用論の考え方として挙げています。