絶迫のクリスマスイブ
2060年12月24日 ホワイトハウス特別会議室
大統領 私たちの地球へようこそ。私の名前はジェームズ・ブラック。アメリカ合衆国大統領として、この星を代表し、あなた方を歓迎いたします。
メリア このような機会をいただけて光栄です。私はメリア、惑星ジアルフの代表としてここに来ました。これまでの長い旅の中で、あなた方の文明を非常に興味深く観察してきました。今日という日は、間違いなく両星にとって歴史に残る一日となるでしょう。
大統領 我々もまた、あなた方の存在には非常に興味を持っている。お互いの文化と知識を共有し、共に発展していくことができればと願っているよ。しかし、ひとつ懸念しているのは、あなた方の科学技術が我々を遥かに凌駕しているように見受けられる。私はこの国を代表して、あなた方が我々の生活を脅かすことがないかをまず確認する責任があるのだ。メリア、あなた方はこの星にとって脅威にならないと誓えるかね?
メリア どうぞご安心ください。我々ジアルフの技術は、あなた方のものとは全く異なる体系を持っています。我々は特に銀河間航行技術の開発において大きな進展を遂げましたが、兵器開発などの軍備にはほとんど力を注いでいません。我々の文明は長い歴史の中で、平和的共存の重要性を深く理解してきました。もし我々に侵略の意図があったならば、このような対話の場を持つこともなかったでしょう。
大統領 それを聞いて安心したよ。では、右手をこちらへ。これは握手というもので、この星での友好の証です。改めてようこそ、我らが地球へ。
メリア 快い歓迎、感謝致します。
大統領 今日の会談がお互いの星にとって大きな飛躍のきっかけになることを期待しているよ。ではまずお聞きしたいのだが、この星に訪れた一番の理由は一体何かね?
メリア 最も大きな目的は外交です。この広い宇宙の中でも地球と我々の文明レベルは比較的近く、この星での学びも多い。お互いの技術を共有することで、さらなる発展を望めるはずです。
大統領 ふむ、素晴らしい返答だな、メリア。星を代表するものとして、あなたの言葉を全面的に信用することとしよう。では質問の続きだが、地球の外にはメリアのような"地球外生命体"はたくさん存在しているのだろうか?
メリア 生物の存在自体は珍しいものではありません。ただ、この場合、生物をどのように定義するかにもよります。地球のバイオテクノロジーではDNAやRNAといった遺伝物質を持つものを生物と定義していますが、宇宙にはそれとは異なる構造を持つ生命体も数多く存在します。例えば、シリコンを基盤とした生命体や、エネルギー体として存在する生命体なども確認されています。こうした生命体は、地球の科学では想像もつかないような生態系や生存戦略を持っています。地球での「生物」の定義に当てはまらない存在も、宇宙規模で見れば生命として認識されるというケースが多いようです。
大統領 では我々地球人の常識を逸脱した生命体が過去に地球を訪れていた、ということも考えられるわけか。
メリア いえ、現在のところ、そのような異星の生命体が地球に到達した痕跡はありません。我々はこれまでに多くの星の生態調査を行ってきました。地球の環境は中でも特殊で、多くの生命体にとっては過酷な環境と言えるでしょう。そのため、地球を訪れることができるのは非常に限られた種類の生命体にとどまっています。
大統領 なるほど。ではその中でもメリアがこの星を訪れることができたのはやはり科学技術の力によるものなのだろう。特にその宇宙服はとてもクールでイカしている。いつかそのマスクの下も見てみたいものだな。
メリア ありがとうございます。ブラック大統領のスーツも大変よくお似合いです。仰る通り、この星に訪れることができたのは科学技術の後押しが不可欠でした。この場を借りて、我々の技術についての質問も答えられる範囲でお答えします。
大統領 なるほど、それは大変興味深い。色々聞きたいことはあるだが…我々人類の大きな課題としてエネルギー問題というものがある。特にAIの技術革新におけるエネルギートランジョンの遅れがかなり深刻化しているのだが…銀河間航行を可能にするほどのエネルギー問題は一体どう解決しているんだ?
メリア エネルギー問題…なるほど、それは重要ですね。ジアルフには「クァドラリウム・エネルギーシステム」という技術があります。クァドラリウムとは私たちが発見した物質で、”2つの異なる次元で同時に存在し、次元間を循環する過程で自己修復する”という特別な性質を持っています。一度エネルギーを解放しても再生されるため、半永久的に枯渇することはありません。クァドラリウムの次元間循環に干渉する技術がクァドラリウム・エネルギーシステムです。変換過程も非常に効率的なのでエネルギー損失率はほぼゼロ、気候条件に影響されることもありません。つまり私たちの惑星に今、エネルギー不足という概念は存在しないのです。
大統領 なんて素晴らしい技術なんだ!まさに夢のエネルギーじゃないか。可能であれば後日専門家を呼んで、地球での運用方法についても検討したいところだな。そのクァドラリウムとやらはどこにでも存在する物質なのか?
メリア それ自体は宇宙空間に無数に存在していますが、通常の方法では運用はおろか観測することすらできません。ジアルフが持つ特別な重力環境、そして磁場がクァドラリウムの運用を可能にしました。クァドラリウムが活性化する特定の"緯度・経度・標高"のことを我々は「力場枢」と呼んでいます。我々はこの力場枢でのみクァドラリウムへの次元間干渉が可能ということを発見し、革新的なエネルギー供給システムの開発に至りました。
大統領 …ふぅむ。そうか。なんだ、つまり全て、そちらの星でしか実現不可能な技術、ということかね。実に残念だな…。しかし、これは単なるSF好きとしても面白い話だ。もう少し聞かせてくれ。
メリア 喜んでいただけて幸いです。クァドラリウムエネルギーによって膨大な出力が可能となったジアルフでは、物体を可逆圧縮し、データとして保存・転送することが可能となる"量子アーカイブ技術"の開発も進んでいます。これは物流や人々の移動の飛躍的な向上が期待されている最新技術です。
大統領 量子アーカイブ…?全く理解不能な領域の話だが、つまり瞬間移動ということか。それは既に運用が開始しているのかね?
メリア 物資の送受信などは既に運用化されています。ただ構造が複雑なもの、特に生物の転送に関しては未だ試験段階です。再構築プロセス中に主要な感情の一部が欠落したり、成長に関する遺伝情報がリセットされてしまって肉体が初期状態に戻る現象など多くの課題を抱えています。
大統領 初期状態?というのは?
メリア 簡単に言えば、出生時の状態に戻ってしまうということですね。思考や意識、成長ステージが千差万別に多様化した人体の転送は、小動物に比べて多くの課題をクリアしなければなりません。現在、少しずつではありますが人体での実験成功例も蓄積してきているという段階です。
大統領 既に人体実験も始まっているのか。わが国では倫理的な観点が大きな障壁となるだろうな。
メリア 我々はこれらの技術により明るい未来が約束されたと確信をしていました。しかし…ある問題が深刻化し、こういった技術はもはやオーバースペック、必要のないものになってしまったのです。
大統領 そんな素晴らしい技術が必要ない?一体どんな問題が?
メリア 我々は大規模な紛争によってかなりの数の仲間を失い、それに伴ってエネルギー需要が大幅に減少しました。極端にエネルギーが余っている状態です。つまり我々が抱える問題は主に、深刻な"人口減少”。その解決の糸口を見出すため、我々は星外に目を向けました。
大統領 ほう、なるほど。そこで見つけたのがこの星だったというわけか。
メリア そうです。地球は我々にとってまさに「奇跡の星」でした。特筆すべきは大気の存在、水の存在、そして夥しい個体数を誇る"人類"の存在です。我々は人口減少問題に対する希望をあなた方に見出しました。
大統領 近年では「宇宙には地球のような環境を持つ星が無数にある」という説が有力視されていたが、やはりこの星は特別なのだな、我ながら誇らしいよ。そして宇宙の果てにこの星を見つけられたのはジアルフの技術者の努力の賜物だ。心より尊敬を表したい。
メリア こちらこそありがとうございます。確かにここに至るまでの過程は技術者の努力なしでは到底成し得なかったことでしょう。しかし今日こうして会談をすることができたのは、それ以外の大きな要因がいくつも絡み合い、まさに奇跡のような確率で我々を引き合わせたのです。
大統領 大きな要因…?一体なんだね。
メリア 先ほど話したクァドラリウムですが、実はもう一つ、特異な性質を持っています。
大統領 特異な性質?
メリア クァドラリウムが異なる次元を循環する性質を持っているのが先ほど申し上げた通りです。そしてその過程の中で、ごく稀に異次元空間を通じて他の力場枢とクァドラリウムが共鳴する現象が発生することが確認されています。つまり、クァドラリウムは他のクァドラリウムを検知し、互いに引き寄せ合う性質を持っているのです。
大統領 ほう…。それが、ジアルフが地球を見つけたこと一体、何の関係が?
メリア ある日、我々はクァドラリウムの共鳴を通じて特殊な信号を受け取ったのです。非常に微弱でしたが、のちにそれは"音楽"というものであったことが判明しました。内容の解読はとても困難を極めましたよ。ジアルフには音楽が存在しませんからね。
大統領 すまない、いまいち理解が追いついてないのだが…。
メリア つまりあったんですよ、この星にも「力場枢」がね。
大統領 !?い、いや、しかしそれには先ほど、特殊な重力環境や磁場が必要だと言ったはずだ。力場枢はジアルフにしか存在しないのではないか?
メリア ええ、だから奇跡だと言っているんですよ。長い宇宙の航行の中で、こんなことはかつてなかった。発見当初、我々は驚きを隠せませんでした。なんたって、全く"同じ"だったんですから。
大統領 …同じ?
メリア ええ。ジアルフという惑星は地球単位で惑星質量5.972 × 10^24 kg、直径12,742 km、窒素78.1%、酸素20.9%、アルゴン0.93%、二酸化炭素0.03%、水蒸気その他が約1%…。お分かりですか?
大統領 …!…!?
メリア そう、地球とジアルフはまるで鏡映しのように、大気や核などの内部構造、自公転周期、恒星の存在との位置関係など全ての要素が一致しています。
大統領 !!その話が本当なら大ニュースだ。つまり環境適応は容易で、今後の関係次第では互いの星への渡航や、移住だって可能というわけか?
メリア はい。そしてこれはつまり地球が我がジアルフと同様の磁場と重力場を有していることを示しています。この環境があれば、我が星特有の技術であると考えられていたクァドラリウムを使える可能性も十分にあります。
大統領 …!!ほ、本当かね!?
メリア ええ、理論上は可能だと思います。我々と地球人類は、同じような環境で進化を遂げてきた「宇宙の双子」のような存在なのです。なので我々は互いに助け合わなければなりません。そのためにも、今後の積極的な交流は必須であると考えます。
大統領 素晴らしい…!互いの星を知ることは自星を知ることと同義。ジアルフと地球は姉妹惑星としてなおさら密な国交、もとい星交を結び、文化や技術の共有をしていくべきだな!
メリア ご理解頂けて光栄です。そう、我々はいわば運命共同体。歩んできた歴史こそ違えど、もはや家族同然の存在だと言えるでしょう。そこで、ブラック大統領。実は我々は今日、ここにあるお願いをしに参りました。
大統領 お願い?なにかね。我々にできることであればできるだけ協力しようじゃないか。
メリア はい。先ほど少し話した、大規模な紛争に関するお話です。我々の星では現在、ある日突然外部から飛来した"侵略者"に悩まされています。彼らの食欲は凄まじく、家畜や植物、時には建造物など、ジアルフに存在するあらゆる有機物を食べ尽くしながら数を増やしています。もともと問題視されていた我々の人口減少は食糧難によってその勢いが加速しており、このままいけば"最小存続可能人口"に差し迫る勢いです。我々はあらゆる手を尽くし彼らを殲滅しようと試みましたが今のところ大きな成果は得られていません。
大統領 ほう、それは確かにかなり深刻だな…。我々も大昔から蝗害などに悩まされてきた。しかし話を聞く限り、これは単なる害虫のような問題ではなさそうだな。"侵略者"とは、一体どういった存在なんだ?
メリア 姿形はまさしく昆虫のようですが、彼らは単なる害虫ではありません。彼らの攻撃力や繁殖力は凄まじく、各地の生態系を次々に破壊します。そして最も厄介なのは、彼らの行動はとても知能的かつ組織的であるという点です。私たちは彼らを"スウォーム"と呼んでいますが、それはただ虫の群れというよりは、高度な意識を持った一種の集団知性です。
大統領 想像の何倍も厄介そうだな、スウォーム…。
メリア ある日、スウォームの群れが我々の防衛拠点に押し寄せた際、恐ろしいことに彼らがまず狙ったのは地下の動力装置でした。突然のブラックアウトに拠点内はパニックに陥り、その後3日と持たず拠点は陥落しました。彼らはまず少数の偵察部隊が侵入して内部の構造を理解し、拠点の弱点は動力という情報を共有し、作戦を立てた上で攻めてきます。このようにスウォームは各個体が特定の役割を果たすことで全体が機能し、確実に勢力を広げていくのです。
大統領 なんと恐ろしい。おそらく言語のようなものも存在するだろうな。彼らの弱点などは分かっていないのか?
メリア 弱点はあります。今の話では一見無敵な生物に思えますが、一匹一匹はさほど大きくありません。また、組織的に動くスウォームはそれぞれの群れに必ず"クイーン"がおり、それを討伐することができれば統制が一気に崩壊します。そして高い知能がゆえ即座に罠を理解しますが、さらにその裏をかくことで大量討伐を成功させた例があったりと、彼らの想定を上回ることができれば勝機は見えてきます。
大統領 なるほど。社会的生物ゆえの弱点、というわけか。しかし、それほどまでの知性を持つのであれば和平交渉に持ち込むことはできないのか?
メリア 我々は何度も彼らと対話、コミュニケーションを取ろうと試みましたが、彼らの言語は理解不能で、こちらのメッセージも意味を成しませんでした。どれだけこちらが停戦の意思を示してもなんの効力もなかったのです。いつの世も"侵略者"にあるのは己の利であり、対話の意志などは無意味なものなのだと思い知らされました。彼らが我々の星を食らいつくしたのち、彼らが次にこの星に到達するのも時間の問題です。そのような最悪の未来を避けるべく、ぜひ我々に協力していただきたい。
大統領 分かった。我々とジアルフは共に明るい未来に進まなければならない。ジアルフの課題は我が星の課題と捉え、尽力しようじゃないか。ところで具体的に、我々にはなにができるだろうか。先ほど「ジアルフでは兵器の開発が進んでいない」と仰っていたが、最新式の銃火器などはすぐに手配が可能だが…。
メリア ブラック大統領、「導入天敵」というのをご存じでしょうか。
大統領 導入天敵…?ちょっと存じ上げないな。
メリア 「導入天敵」とは、生態系のバランスを取り戻すために、ある地域に天敵となる生物を導入することです。この地球では、大量繁殖したノウゼンハレンという南米原産の水草に対し、ホソヒラタアブという甲虫を導入して食害させ、ノウゼンハレンの繁殖を抑制した例が有名ですね。
大統領 よく勉強しているな。それが何だって言うのだね。
メリア いま、ジアルフにはスウォームの増殖を制御するための天敵が存在しません。そのため彼らはいまもなお指数関数的に増え続けています。今我々の星に求められるのは、彼らを脅かす"天敵"の存在なのです。
大統領 ほう…つまりそれは一体な…いや、まさか。まさかとは思うが、その”導入天敵”とやらを、我々人類にやって欲しい、と、そう言いたいのか?
メリア 知性を持つ生物に対抗できるのは、それを上回る知性。そして圧倒的な物量です。そしてジアルフには、導入天敵が機能するための最低条件である"定着可能な環境"があります。我々はあなたたち地球人を、我が星に歓迎したいと考えています。
大統領 ちょ、ちょっと待っ、待ちたまえ。…先ほどまでは深く同情していたが…それはちょっと難しい相談だ。私はこの国、そしてこの星の代表であり、地球の民の安全を最も尊重する必要があるのだ。そんな危険な生物の住む星に、おいそれと軍隊を派兵することは倫理的にも大きな問題を孕んでいる。本件はあまりに不確定な要素が多いため、直接的な軍事関与はできないぞ。
メリア 私たちは何も、軍隊を派遣してほしいわけではありません。つまり、人類にとっての新天地として我が星を提供するというお話です。クァドラリウムエネルギーシステムの技術提供も行いましょう。その代わりジアルフに定着し、社会基盤を形成し、スウォームの根絶に貢献して頂きたい。
大統領 …なんだって?
メリア ジアルフに移住し、ジアルフの生態系の一部となるのです。我々があなた方の宇宙進出を大きく躍進させて見せましょう。
大統領 確かに宇宙進出は我々の兼ねてからの夢。文明の発展、人口の爆発に伴ってエネルギー問題も深刻化し、社会インフラは現在かなり後手に回っている状況だ。生活環境に不満を持っている人も確かに年々増加している。この国には大きなイノベーションが必要だ。…しかし…それでも危険な生物の前に大切な民を送り出すという判断は、私にはできない。
メリア なぜです?地球と同じ最高の環境の新天地を獲得し、あなた方の宇宙開発は飛躍的に進展する。地球のエネルギー問題は全て解決。まるで良いことづくめではないですか。科学の進歩とは常に、何かを犠牲にして前進してきたはずです。
大統領 それでも、私はこの件に関して慎重になる必要がある。そもそも地球人は脆弱な生き物で、他の星で生きていけない。この超分業型社会と呼ばれる現代において、人類は他の動物より著しく適応能力が低いんだ。そして我々がそちらに住み着くということは同時に、そもそも逼迫していた食料資源をさらに食い潰すという点はお忘れか?
メリア その点に関してはご安心を。我々と地球人で食糧の取り合いになることはありません。私が初めてこの星で食事をしたとき、地球人の味覚というものに衝撃を受けました。ある喫茶店で食べた"ハニートースト"という料理は今でも忘れられません。
大統領 今若者の間で大流行しているスイーツだな。…そんなに口に合わなかったのか?
メリア あれ、スウォームと全く同じ味がしたんですよ。
大統領 何…!?
メリア こんなものに国民が熱狂してるなんて驚きでした。私はそれ以上食べ進めることはできませんでしたが、周りの若者は嬉々としてそれを口に運んでいました。そして今、ジアルフにはとてつもない数のスウォームがいます。道端には大量の死骸が転がっている。地球の方々にとっては楽園のような状況ではないですか?
大統領 …根本的な価値観が君らとは違うようだな。すまんが、我々に協力できることはなさそうだ。
メリア …そうですか。とっても良いお話だと思ったのですが、残念です。
大統領 生憎だが、ハニートーストは嫌いでね。
メリア あなたは今、クァドラリウムという夢の船を捨て、この星で起きている問題に苦しむ人々から目を背け、命を脅かされている目の前の異星人すらも切り捨てる。そういう決断をなさるわけですね。であれば、こちらも多少強引な手を使わなければなりません。
大統領 …?それは脅迫と捉えてもよろしいかな?もしここで我々との交渉に失敗した場合、あなた方は侵略者によって破滅の道を歩むことになるのだぞ。この場において主導権を握ろうなどとは考えない方が身のためだろう。
メリア 脅迫ではなく警告です。先ほども言った通り、我々とあなた方は既に運命共同体です。そしてスウォームに星間飛行能力がある以上、あなた方は我々と共に戦わなければならない。私たちの提案は、移住という形で地球人類の存続を保証するものです。つまりブラック大統領、あなたの決断には地球人類の命運がかかっています。
大統領 ことの重大性については十分理解しているが、この件はあまりに不確定要素が多く、そちらにも誠意が必要だろう。大量の地球人を移住させるとして、方法はどうするのだ。宇宙船に乗せると言ってもたかが知れているだろう。
メリア もちろん、"圧縮して"運ぶほかないでしょうね。
大統領 …!?待て、それはまだ試作段階だと言っていたではないか。
メリア ええ、でも”人体実験は成功している”とも言いました。運用開始は目前です。ジアルフにある膨大なエネルギー、そして量子コンバーターによる復元設備があれば大規模な移住が十分可能です。
大統領 それはジアルフでの話だろう?地球人の安全性の根拠には一切ならないではないか。それに、その量子コンバーターとやらがこちらに存在しない以上、片道切符の大移動というわけだろう。残念ながらやはり、この件に関してはすぐに結論を出すことはできないな。一度議会、そして専門委員会との協議を行う。話はそれからだ。
メリア 年内に結論は出せますか?
大統領 いや、絶対に不可能だ。協議に先立ってジアルフの惑星環境やスウォームの詳しい生態など徹底的な現地調査なども実施しなければならない。地球の意思決定システムは複雑なのだよ。
メリア 残念ながら我々にそんな時間は残されていません。大統領、あなたが"地球の意思"です。今ここでご決断いただきたい。
大統領 全く…これは困ったものだな…。ちなみに、私がもしこの要求に”No”と応えた場合、どうなるのかね?
メリア …ふふふ。今夜は眠れないでしょうね。
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コメント
1ここからどうなるのか凄く気になるけど、面白かった…!
SFってあまり読んだこと無かったけど、面白かったからこれを機に読んでみようかな