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セガVSメメントモリ訴訟にみる古の「WCCF特許」と低レア合成について

1.事案について


数日前ですが、「メメントモリ」というゲームを対象としてセガがバンク・オブ・イノベーション(BOI)という企業を訴えたというニュースがありました。

私は今、ウマ娘のチャンピオンミーティング決勝と新シナリオ待ちなので、プレイしていない覇権でもなんでもないゲームについては、そうなんだ、ふーんという感じでしかないのですが、記事には対象特許が特許番号とともに明確に提示されており、これを確認してみることにしました。

対象特許

日本国特許第5930111号
日本国特許第6402953号
日本国特許第6891987号
日本国特許第7297361号
日本国特許第7411307号

内容をざっと見てみると、これらの特許はいずれも、いわゆる「ガチャかぶり」のときに低レアを「合成」する処理に関係しているように思えました。

そうすると、「メメントモリ」のゲーム云々というより、いわゆるスマホゲームガチャ全体がスコープに入ってしまっているのではないか?という疑念もあったりなかったりで、これはとりあえず詳しく見ていこうかと思いました。

これらの特許の成立時期をまとめてみると以下のようになりました。


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訴訟に用いられたという5件の特許

便宜的にセガ特許1~5としてみました。

「原出願日」は、対象特許が実質的にどのタイミングで出願されたかを示しています。
今回は分割出願で取得された権利が多いので、その発明が最初に考えられたタイミングを示すのに役立ちます。

「登録日」はその発明が特許権として認められ実効的に権利を行使できるタイミングを示しています。

そうしますと古いものは2009.4.28からありますが、2016~2020年なんてのは、低レアキャラ、アイテムの合成なんていうのは「当たり前にやっていませんでしたっけ?」と思うのは通常のゲーマーの感覚だと思います。
少なくとも2013~2014年ごろにはFFRK(ファイナルファンタジーレコードキーパー)とかでそういうことをやっていたと思います。ガラケーの時代からやってたんじゃないですか?

そうすると、セガ特許1とセガ特許2~5は隔世の感がありますよね。

今回はセガ特許1についてのみ内容を検討していきます。

セガ特許1について

これは懐かしのセガのWCCF(WORLD CLUB Champion Football)ですよね。
あれは当時画期的なゲームでした。
私も渋谷のゲーセンで遊んでいました。
でも2002年ごろだったと思います。まだユヴェントスのロベルト・バッジォが現役でした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置に、
プレイヤに対応付けされた二以上のキャラクタによって構成されるチームを作成する処理と、
前記チームを構成する二以上のキャラクタにそれぞれ設定されたパラメータを用いて、対戦ゲームを進行する処理と、
少なくとも二つのキャラクタの希少価値がそれぞれ異なるキャラクタ群の中から、一部のキャラクタを前記プレイヤに獲得させ、当該獲得したキャラクタを当該プレイヤに告知する処理と、
前記プレイヤに対応付けされた一のキャラクタと同一種類のキャラクタが獲得されたことに基づき、当該一のキャラクタに設定されたパラメータを前記対戦ゲームが有利となるように変更する処理と、
を実行させることを特徴とするゲームプログラム。
【請求項2】
前記パラメータを変更する処理を繰り返すことによって、前記一のキャラクタのパラメータを、当該一のキャラクタよりも希少価値の高いキャラクタと同等のパラメータとすることを特徴とする請求項1に記載のゲームプログラム。
【請求項3】
プレイヤに対応付けされた二以上のキャラクタによって構成されるチームを作成する処理部と、
前記チームを構成する二以上のキャラクタにそれぞれ設定されたパラメータを用いて、対戦ゲームを進行する処理部と、
少なくとも二つのキャラクタの希少価値がそれぞれ異なるキャラクタ群の中から、一部のキャラクタを前記プレイヤに獲得させ、当該獲得したキャラクタを当該プレイヤに告知する処理部と、
前記プレイヤに対応付けされた一のキャラクタと同一種類のキャラクタが獲得されたことに基づき、当該一のキャラクタに設定されたパラメータを前記対戦ゲームが有利となるように変更する処理部と、
を備えることを特徴とする情報処理装置。

特許権は言葉によって技術的範囲を定めています。

元はWCCFのために書かれた特許だったかもしれませんが、分割を経て新たに取得されたこの特許は「ゲームプログラム」の権利となっているために、スマホでプレイされるソシャゲにも適用可能になっています。

 ここで、請求項1と3はそれぞれ独立項と呼ばれる上位概念の権利であり、請求項2が請求項1に従属する下位概念の権利です。請求項2は請求項1を引用するために、請求項1よりも権利範囲は狭くなります。

 では、請求項1と請求項3についてみていきます。

「情報処理装置に、」「を実行させることを特徴とするゲームプログラム。」
 → これはコンピューティングデバイスを用いて実行されるゲームという程度の意味です。アーケードか、家庭用据え置き機か、スマホか、関係ありません。

「プレイヤに対応付けされた二以上のキャラクタによって構成されるチームを作成する処理と、」
 → WCCFで言えば11枚のカードを台に並べてこれを検知し、自分のサッカーチームを構成する処理といっていいでしょう。
   メメントモリについてはよくわかっていないので、言及は避けますが、RPGでパーティを組む場合に、
   パーティ = チーム と解釈していいかどうか、というところがまず1つの解釈ポイントかと思います。

「 前記チームを構成する二以上のキャラクタにそれぞれ設定されたパラメータを用いて、対戦ゲームを進行する処理と、」

 →キャラクタである以上何らかのパラメータを持っていると思われるので、これによってゲームが進行されるのは通常の処理かと思います。
  ここでは「対戦ゲーム」というのが1つの解釈ポイントかと思います。
  「対戦ゲーム」が「プレイヤ」と「プレイヤ」の対戦である必要があるのか、NPCのチームとの闘いは「対戦ゲーム」とは呼べないのかどうか。
  2009年当時のゲーマーの感覚からすれば、チームを用いた「対戦ゲーム」とは、「プレイヤ」と「プレイヤ」の対戦を意味し、
  具体的には「ウイニングイレブン」「実況パワフルプロ野球」のようなゲームを指していたと考えられます。
これが、各プレイヤに紐づいたRPGパーティ同士の対戦にあてはまるかどうかです。

「少なくとも二つのキャラクタの希少価値がそれぞれ異なるキャラクタ群の中から、一部のキャラクタを前記プレイヤに獲得させ、当該獲得したキャラクタを当該プレイヤに告知する処理と、」

 →いわゆるガチャと、ガチャの結果を表示することを意味しています。ここでは希少価値が異なるということですから、RとSRのような区別化と思います。WCCFでも総合のステータスが80未満のカードはレア度が低い扱いだったように記憶しています。
 厳密には、この明細書では段落0138に、排出率の高い「コモンカード」と、排出率の低い「レアカード」が列記されていますので、こういったものであれば相当するでしょう。

 
「前記プレイヤに対応付けされた一のキャラクタと同一種類のキャラクタが獲得されたことに基づき、当該一のキャラクタに設定されたパラメータを前記対戦ゲームが有利となるように変更する処理と」

 →「同一種類のキャラクタが獲得された」場合に「当該一のキャラクタに設定されたパラメータを前記対戦ゲームが有利となるように変更する処理」を行うということです。
   具体的にはどういう処理がこの特許に記載されていたのでしょうか?

  この出願の明細書の段落0138には、

【0138】
なお、遊技者情報に紐付けられた所有権情報に新たな選手カード20の所有権情報の追加処理を行う際に、所有権の有無だけではなく、これまでに累計何枚獲得したかというカード獲得数情報を記憶する処理を実行する構成としても良い。そして、カード獲得数情報に応じて、対応する選手カード20の各種パラメータに変更を加えることができるように構成しても良い。例えば、獲得数データの数値が大きいほど、対応する選手カード20のキャラクタの基本パラメータが上昇する構成とすることで、一般に排出率が高く、希少価値の低いノーマルカード(コモンカード)と呼ばれる選手カード20であっても、その排出率の高さから繰り返し同様のノーマルカードを獲得することでレアカードと同等のパラメータ値となるように構成することができる。これにより、既に獲得済みの選手カード20が払い出される時であっても、遊戯者に一定の満足感を提供することが可能である。

 と記載されています。ちなみに「基本パラメータ」とは、段落0146に記載されているように、「「統率力」、「判断力」、「精神力」等のメンタル面、「パス」、「ドリブル」、「ヘディング」、「タックル」等のスキル面、「キック力」、「走力」、「スタミナ」」だそうです。

 以上が全て該当すれば、特許権侵害を構成しうるということになります。いかがでしょうか?

 なお、請求項2では、
「前記パラメータを変更する処理を繰り返すことによって、前記一のキャラクタのパラメータを、当該一のキャラクタよりも希少価値の高いキャラクタと同等のパラメータとする」
ことが記載されており、希少価値の低いキャラクタが希少価値の高いキャラクタと同等のパラメータになることが規定されています。

 「同等」が何を意味するかは議論がわかれそうです。
  コモンCBの選手を何枚合成したところで、レアFWの基本パラメータと「同等」になるとは思えないからです。
  なお、明細書にも「同等」がどのようなものであるかは、理解できる程度の具体的には記載されていません。
  そういう意味では、この請求項2は立証しにくい権利でしょう。

 以上、特許請求の範囲を実際に読むことで、この特許が「低レアの強化(合成)」に関係するものであることが確認できました。

 この考え方が2009.4.28ごろに一般的であったかどうかはさらなる調査が必要なようです。

権利範囲は?

この特許権が仮に有効であるとして、どのようなゲームプログラムにその権利が及ぶものでしょうか?

①プレイヤに対応付けされた2以上のキャラクタで構成されるチームの対戦ゲーム
②対戦ゲームはパラメータを用いて進行する
③プレイヤがキャラクタを獲得した際に、同一キャラクタを獲得した場合は、そのキャラクタのパラメータは、ゲームが有利になるように変更される

以上が条件となります。

もしかしたら、RPGゲームでも
・戦闘キャラ5人パーティのユーザ対人戦
・対戦結果はパラメータで決まる
・ガチャで同一キャラが取得された場合にパラメータを向上させる

ものであれば、該当するおそれがあります。

訂正審判請求の取下げについて

この特許は、その経過を見ると、登録された後に訂正審判を請求し、それを取り下げた経過があるのがわかります。

2018/10/12に訂正審判が請求されています(訂正2018-390160)。

訂正審判は、特許権者が、権利が登録された後にその内容を訂正したいときに請求することがあります。
俗っぽい表現をすると、他社に権利行使をしたいので、ボロが出ないように「禊」を済ませるといった意味や、あわよくばさらに「権利拡張」したいといった場合も考えられます。基本的に、権利を拡張するような訂正は法律が認めていません。

しかし、訂正審判はうまくいかなかったようです。

2018/11/29に訂正拒絶理由通知書が出ています。

それによれば、以下の訂正事項を請求したもののようです。

<訂正事項1>
 本件特許請求の範囲の請求項1の「前記チームを構成する二以上のキャラクタにそれぞれ設定されたパラメータを用いて対戦ゲームを進行する処理と、」を、
 「同一目的のために共同でプレイする他のプレイヤ及び前記プレイヤの操作に従い、前記チームを構成する二以上のキャラクタにそれぞれ設定されたパラメータを用いて複数人参加型の対戦ゲームを進行する処理と、」と訂正する。
 
<訂正事項2>
 本件特許請求の範囲の請求項1の「前記プレイヤに対応付けされた一のキャラクタと同一種類のキャラクタが獲得されたことに基づき、当該一のキャラクタに設定されたパラメータを前記対戦ゲームが有利となるように変更する処理と、」を、
 「前記プレイヤに対応付けされた一のキャラクタと同一種類のキャラクタが獲得されたことに基づき、当該一のキャラクタに設定されたパラメータを前記複数人参加型の対戦ゲームが有利となるように変更する処理と、」と訂正する。

<訂正事項3>
 本件特許請求の範囲の請求項3の「プレイヤに対応付けされた二以上のキャラクタによって構成されるチームを作成する処理部と、」を、
 「プレイヤに対応付けされた二以上のキャラクタを前記キャラクタの役割毎に前記プレイヤが選択することによって構成されるチームを作成する処理部と、」と訂正する。

<訂正事項4>
 本件特許請求の範囲の請求項3の「前記チームを構成する二以上のキャラクタにそれぞれ設定されたパラメータを用いて、対戦ゲームを進行する処理部と、」を、
 「前記チームが前記キャラクタの役割に従った隊列を組むための指示をプレイヤが行うことよって、その選択された各キャラクタのパラメータを前記キャラクタの役割に応じてそれぞれ設定し、前記チームを構成する二以上のキャラクタにそれぞれ設定された前記パラメータを用いて、対戦ゲームを進行する処理部と、」と訂正する。

訂正拒絶理由通知書 (特許出願2015-221583)

この訂正にはどんな目論見があっかは不明ですが、全体的にゲームの処理をより具体的にしようという訂正のように見えます。
例えば、<訂正事項3>の「キャラクタの役割毎に前記プレイヤが選択することによって」という限定を追加する訂正を見れば、チームはそれぞれ、例えばFWやCBのようなポジションがある程度決まっているものであることを特定しようとしているように見えます。
冒険者パーティが、アタッカー、ヒーラー、など枠が決まっているものであれば、これに該当すると考えられるのかもしれません。

権利範囲は広い方がよいので、訂正によってそれを狭くすることを権利者が望むということは、そのようにした方がよい何らかの不都合な情報がある可能性も考えられます(一般論です)。

しかし、訂正拒絶理由通知では、この訂正は、当初の出願内容に記載された範囲の中で行ったものではなく、また、実質上権利範囲を変更するものであるから、認められないというものでした。

特許の世界ではこのような後出しは認められないので、特許庁もそれを認めなかったということになります。

訂正が認められなかったことが、今回の訴訟にどのように影響するのかは不明です。


余談だけどセガ特許1について ウマ娘ではどうなる?

  
 余談ですが、この特許が仮に有効だとして、ウマ娘にも適用可能な可能性があるでしょうか。
 まず、「キャラクタ」が規定されていることから、「サポカガチャ」は対象外になりそうです。
 キャラガチャについては、かぶりがあったときに取得されるピースを使用して「才能開花」することにより、基本ステータスがパワーアップすることは確かです。
 しかし、その後の育成により最終パラメータが決まるので、実際に強化となったかどうかはプレイヤー次第です。ゲームの進行に関係する最終パラメータに育成の要素が絡むことで、この特許権の範囲内であるとまでは言えないかもしれません。
 また、「チーム戦」「対人戦」という場面設定も必要であり、ウマ娘では「競技場」「チャンピオンミーティング」「リーグオブヒーローズ」はそれに該当する可能性もありますが、上記の最終パラメータの問題を考えると、全体的には該当しないかもしれません。

 セガ特許2~4について

…ご、後日?

2.つづく?

 以上、セガ特許1について検討しただけで、かなり疲弊しました。読んでいただいた皆様もありがとうございます。
 セガ特許2~5は、比較的出願日が新しい特許なので、有効性の議論なども入ってくると思います。要望があったり、気が向いたらやるかもしれません。

日本の特許制度が抱える問題が、ゲーム分野で顕著に表れています。たとえば「同じキャラを重ねて強くする」という仕組み。これは本来、技術的な創作ではなく、ゲームのルールという人為的な取り決めに過ぎません。

特許制度は、技術革新を保護し産業の発展を促すために作られました。しかし、ゲーム特許の多くは、プログラムやデータ処理という技術的な装いをまとって、実質的にはビジネスモデルやゲームのルールを独占しようとしています。これは特許制度の本来の目的から大きく外れています。

本来守るべき技術的創作と、単なる人為的取り決めの線引きがあいまいなまま、特許が乱立している現状は、ゲーム産業の健全な発展を妨げかねません。特許制度が技術保護という本来の役割を取り戻すための議論が必要なのではないでしょうか。


弁理士法人 前川知的財産事務所
弁理士 砥綿 洋佑


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