〈社説〉健康保険証の廃止 医療受ける権利の視点で
健康保険証の新規発行を停止する期限が12月2日に迫っている。政府はマイナンバーカードに保険証機能を持たせたマイナ保険証に一本化する方針だ。
健康保険証は一人一人が必要な医療にアクセスするための“通行証”だ。それを廃止して、本来任意取得であるマイナカードへと一本化するのは、国民の医療を受ける権利を損なう恐れがある。掘り下げた論戦を望む。
自民党は衆院選の公約で、マイナンバーカード機能の健康保険証としての利用拡大など、マイナンバーの利活用の推進を盛り込んでいる。公明党もマイナンバーを活用する方向で、医療DXの推進を掲げている。
これに対し、立憲民主党は現行の健康保険証の存続を公約に掲げる。ただし「国民の不安が払拭されるまで」などの条件付きだ。共産党、れいわ新選組、社民党は一本化に明確に反対している。
石破茂首相は言葉の重みが問われる。自民党総裁選では「納得しない人がいっぱいいれば、併用も選択肢として当然だ」と発言した。しかし石破内閣の発足後、平将明デジタル相は早々に一本化を「堅持する」方針を示した。
廃止に「納得しない人がいっぱいいる」ことは、各種調査から明らかだ。医療従事者も、医療を受ける側も反対の声を上げている。
全国保険医団体連合会が8~9月に実施した調査では、回答した1万2735医療機関の88%が、健康保険証の存続を求めた。
マイナ保険証を巡っては昨年、個人情報の誤登録や医療機関での読み取り機の不具合が問題となり政府は対策の徹底を約束した。
保団連の調査では今年5月以降も、7割の医療機関でトラブルが起きている。他人の情報がひも付けられていた事例もあった。
トラブルを経験した医療機関の約8割が、今の保険証で資格を確認し、「無保険扱い」を回避した。ここに医療現場が廃止に反対する切実な理由がある。
マイナカードの保有者は、8月末時点で人口の75%。マイナ保険証の登録者は、その8割にとどまる。利用率は低迷が続き、8月は12%余だった。
障害者や高齢者の中にはマイナカードを作るのが難しい人もいる。社会的弱者に丁寧に目配りし国民皆保険を名実共に守るのか、それとも廃止を強行するのか。政治のあり方が問われている。
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