検察、疑念持たれぬ処分を 旧安倍派の裏金事件 誰がなぜ、自民は解明必要  共同通信編集委員 松竹 唯

2024年10月23日 13時07分

 「着地するのが難しい事件だ」。東京地検特捜部が自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を捜査していた年明け早々、検察関係者からメッセージが届いた。最も悪質とされた旧安倍派では幹部が立件されず、いまだに責任の所在が曖昧なままだ。党の自浄作用はなく、組織的な裏金づくりが始まった経緯も明らかになっていない。

家宅捜索のため自民党安倍派(清和政策研究会)の事務所に向かう東京地検特捜部の係官ら=2023年12月、東京都千代田区

 

 旧安倍派ではパーティー券の販売ノルマ超過分を議員側に還流し、その分を派閥側、議員側ともに政治資金収支報告書に記載していなかった。特捜部が告発を深掘りしたことで、あしき慣習が国民の知るところとなった。ただ立件の対象は3千万円以上の不記載のケースに絞られた。

 特捜部は2020年、「桜を見る会」前日の夕食会を巡り、安倍晋三元首相の元秘書を約3千万円の不記載で略式起訴しており、こうした前例に基づいたと考えられる。3千万円の線引きで、旧安倍派の有力者「5人組」の関係者らはおとがめなしとなった。

 明るみに出た不記載額はあくまでも時効にかからない5年分のみ。実は森派と称されていた約20年前、メディアは同様の手口の裏金疑惑を報じていた。その後も派閥内で裏金づくりが続いていたとすれば、累積した金は相当な額に上るはずだ。

 自由に使える裏金をつくるためにシステムを維持したのならば、単なる不記載で済まされる話ではない。組織的かつ継続性があり、悪質性は高い。検察は前例にとらわれない刑事処分ができたのではないか。

東京地検などが入る合同庁舎

 

 ある検察OBは、近年の「政治とカネ」の問題で証拠はあるのに処分が甘いケースが目立つと語る。選挙区内で香典を配った菅原一秀元経済産業相=議員辞職=や、参院選広島選挙区の大規模買収事件での被買収側に対する処分だ。いずれも特捜部がいったん起訴猶予としたが、検察審査会の「起訴相当」議決を受けて立件することになった。

 最初から厳格な処分に踏み込めない背景に、政権支持率や選挙結果への配慮が潜んでいないだろうか。検察は公正さに疑念を持たれない判断をしなければならない。

 政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で有罪判決を受けた旧安倍派の会計責任者の公判で、検察側は22年に中止された還流が再開された経緯にほとんど触れず、当時の幹部らに言い逃れができる余地を与えた。

 旧安倍派の不起訴処分について検審が再捜査を求める可能性はある。ただ、特捜部が3千万円のハードルを下げて立件したとしても、裏金づくりがいつ始まり、何のために誰が主導したのか、という疑問は解決しない。古い話の証拠収集は難しく捜査には限界がある。

 政治責任を明確にするには、自民党が自浄作用を発揮して調査するしかない。民間企業でこれほどの不祥事が発覚すれば、第三者委員会を設けて調査するのが当たり前だ。歴代の派閥幹部や事務局関係者ら経緯を知る人物は多いと考えられる。聞き取りはできるはずで、石破茂首相のかじ取りにかかっている。
(新聞用に10月3日配信)

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