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183.非道王女は悩む。


キミヒカシリーズ第一作目は、ティアラの十六歳の誕生日から始まる。


つまり、ティアラの十六歳の誕生祭だ。


悪虐非道王女プライドが女王になってから一度も行われなかったティアラの誕生祭。そこでティアラは数年ぶりに、離れの塔から公式の場に姿を出すことが許される。


女王プライドが用意した婚約者とティアラの婚約を発表する為に。


その婚約者こそが、セドリック第二王子だ。

第一王女と違い、第二王女以降は他国に嫁ぐことが多い。中には勿論、国内の貴族や上流階級の人間と結婚する王女もいるが、その場合は嫁ぐことになるから今よりも立場が低くなってしまうし、それよりも同盟関係の為に他国の第一、第二王子に嫁入りすることの方が多かった。

他国と違って女王制であるフリージア王国は、次世代の女王が決まれば、将来的には他の王女はフリージア王国の城には居られない。女王の地位を狙った反乱や暗殺を防ぐ為に。女王の補佐である摂政が女王の弟、もしくは義弟と定められているのもそれが理由なのだから。

母上は一人っ子だけれど、過去には他国に嫁いだ女王の姉妹達の息子の一人が、また我が国の王配として戻ってくることもあったらしい。

そしてプライド女王の目的は、邪魔な妹であるティアラをセドリック第二王子と婚約させてフリージア王国から追い出すことだろう、とゲーム冒頭でティアラからも語られていた。…まぁ、ゲーム全クリアした私はその真相も知っているのだけれど。


我が国では誕生祭と同時に王族は婚約者を女王から初めて知らされる。昔からの風習だと私も子どもの頃に教師から歴史の授業で聞いたけど…


実際はそれがゲームのスタートだからだ。


誕生祭でプライドに見ず知らずの婚約者を決められ、発表されるティアラ。

相手は異国の素敵な王子様。離れの塔から出ることも一時的に許され、婚約者との甘い日々が始まると思いきや…。

と、そのゲームの流れがそのまま、我が国での王族特有の習わしとされている。


勿論、今の私は無理矢理ティアラの婚約者を決めるつもりは毛頭無い。

むしろティアラがここで一年早くセドリック第二王子に恋をするのならば、姉としてがっつり応援するつもりだ。ステイルルートやアーサールートやレオンルートに行かないのは少し惜しいけれど‼︎

でも、何よりティアラは彼との恋愛ルートが一番可能性はある。まず婚約者ということもあるけど、前世を思い出してみればゲームのパッケージにもセドリックとティアラのツーショットが大きく描かれていたし、コミカライズした時や特典のドラマCDやミニ小説もセドリックとティアラの恋愛が主軸で描かれていた。

ゲームの物語の主軸自体、彼は強く関わっている。キミヒカシリーズ第一作目の王道本命キャラ、それが彼だ。

ゲームでも婚約者となったティアラに攻略キャラ分岐ルート前からアプローチしまくっていた。…とある理由からティアラの心を自分へと向ける為に。


「…ええ、この度フリージア王国、並びに女王陛下との謁見を望んだ理由は他でもありません。」


母上とセドリック第二王子が言葉を交わすのを聞きながら、私は静かに彼のゲームの設定を繰り返し思い出す。

そう、彼が我が国に来た理由は明白だ。ゲームの設定でも彼は一年前…つまり今年、フリージア王国に突然現れている。

恐らく今から彼が話す内容に、母上も含みこの場にいる全員が驚くのだろうな、と一人心の準備をする。私も知らないふりをしてちゃんと驚かなくては。

ゴクリと口の中を飲み込んで、改めてセドリック第二王子へ目を向ける。ちょうど言葉を切ったセドリック第二王子の燃える瞳と目が合った気がして少し心臓が脈打った。そして彼は優雅に笑んで再び口を開いた。


「是非とも我が国サーシス王国、並びにハナズオ連合王国との同盟を検討して頂きたく、こちらに参上させて頂きました。」


え。……それだけ?


驚きのあまり、ぽかんと口が空いてしまいそうなのを必死に口に力を入れて堪えた。

え、いやいやいや貴方本題をまだ言ってないでしょ⁈先延ばしにしたら余計言いにくくなるというのに‼︎


「ただ、まことに申し訳ありませんが我が国、サーシスの国王は事情があり、国を離れることができません。なので、どうか我が国まで調印の為に御足労願いたいのです。」


セドリック第二王子の言葉に母上が「事情とは?」と尋ねたけど、「それはまた追々御説明致します」と言って笑ってみせた。

そんなのらりくらり王子に私は若干パニックになるけれど、彼はそれ以上何も話題に触れようとはしない。


「我が国、サーシス王国は金脈の地。そしてチャイネンシス王国は鉱物の地。同盟が叶えば必ずや莫大な見返りをフリージア王国に御約束致しましょう。」

自信満々にそう語る彼に、私一人が色々ツッコみたくなって仕方がない。


「フリージア王国は我がハナズオ連合王国と同じく奴隷制反対国。世の情勢が変わりつつある今こそ、同じ思想を持った他国と共に手を取り合うべきだと、我が兄ランス国王も考えております。」


…うん、筋は通っている。そしてこれ自体は嘘ではない。だが、これは突然来た理由にはならない。大体、ゲームではかなり切迫した様子で本題を問答無用で切り出し切実に訴えていたのに。何故彼はこんな悠長にしているのだろう。

なんだか、ゲーム通りの筈なのにいろいろしっくりこなくてモヤモヤする。

母上はその後もいくつかセドリック第二王子との問答を続けた後、互いの条件の擦り合わせの為、形式通り三日の猶予をとることになった。

今日一日は互いの条件の確認、明日は具体的な擦り合わせ、そして最終日に再度確認。

本来ならばそのまま調印なんだけれど、今回は国王代理の許可を彼が得ていないのでその後に母上が自らセドリック第二王子と共にサーシス王国へ調印に行く予定らしい。その間、我が国から王族馬車で十日かかるハナズオ連合王国のセドリック第二王子は我が衛兵と侍女達に案内されていった。退室を見届けてから母上は十分な沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。


「…どう、思いますか。プライド、ステイル、ティアラ。」


はぁ…と、重い溜息を吐いて母上が振り返らずに私達に尋ねる。なんだか少し疲れた様子だ。きっと衛兵や騎士達の前でなければもっと項垂れていただろう。

一年前にその本音を聞いてから、母上は私達にも少しずつ素を見せてくれるようになった。以前、人払いをしてその場に家族しか居なくなった途端に「疲れたわ〜…」とテーブルに突っ伏した時を初めて見た時は流石に驚いたけれど。


「同盟…自体は悪い話ではないと思います。サーシスに留まらず、ハナズオ連合王国との結び付きも約束してくれるようでしたし。」

まぁ、同盟したい本当の理由が若干問題なのだけれど。そんな言葉を飲み込みながら、私は母上に頷いた。結局、私もハナズオ連合王国とフリージアが同盟して欲しいというのは本音だ。


「姉君の意見に僕も賛成です。ただ、同盟の申し入れだというのに、何故国王どころか摂政や宰相すら連れず、第二王子のみでの訪問だったのかだけが気にかかりますが。」

ステイルの言葉にティアラも頷く。「私も、護衛や侍女しか連れていないのは不思議でした」と続く。それに対して母上達も深く頷いた。

やはり、全員その違和感は感じていたらしい。国王の代理で第二王子…というのはそこまで珍しくもないけれど、普通は公式に他国へ交渉に赴く時は必ず摂政か宰相は連れ歩く。なのに、彼は単身だ。しかも初めて訪れる大国、更には同盟を組みたい相手に対してだ。今まで外交を殆ど絶っていたせいでそういう他国への礼儀や常識がまだ馴染んでないのかと思えてしまう。


「…まさか、単独の無許可で我が国との同盟に訪れた訳でもないでしょうに。」

母上が少し唸るように呟く。いくら兄弟といっても、無断で同盟交渉に行くなどあり得ない話だ。が、



…そうなんだよなぁ…。



顔に出ないように必死に表情筋へ力を入れながら、私はゲームの回想シーンを思い出す。要件やセドリックの様子こそ何故か違ったけれど、ゲームでもセドリックは単身で置き手紙だけ置いてフリージア王国へ交渉にやってきたのだから。

ゲームとは段取りが違ったけれど、きっと明日には彼も母上に本題を話すのだろうと、私は静かに息を吐いた。


…ただ。


ふと、嫌な不安が胸奥を過った。無意識に傍に控えているティアラへ目線を向ける。

…三日、という期間がどうにも引っかかる。

一年後、ゲームでティアラの婚約者としてセドリックが最初に城に滞在した期間も三日だ。

初対面の婚約者であるティアラと挨拶を交わした後、告げる台詞。


『この三日間で、貴方は私の虜となるだろう。』


…不安だ。ティアラの姉として、ものすっごく。

何せ、相手は乙女ゲーム定番王子様キャラのひとつ…





俺様ナルシストのセドリック王子なのだから。


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