182.非道王女は迎える。
ハナズオ連合王国。
もともとは争いも絶えない密接した二つの小国だった。
それが百年程前に他国から同時に侵略の危機に遭ったことをきっかけに、互いの国が同盟協定を結び、一つの連合王国となった。
今もハナズオ連合王国と名を冠してはいるが、両国とも元の国名も文化もそっくりそのまま保持されている。古い噂では、民同士はさておき両国の王族貴族同士は未だに遺恨が残っており、百年経っても表向きだけの同盟関係が継続中だと言われている。
サーシス王国とチャイネンシス王国。
一国の規模はどちらもアネモネ王国にすら満たない小国だが、両国を合わせた全領土は、フリージアの三分の一に及ぶ規模を誇っている。
世界有数大国のフリージアの三分の一だから、かなりの規模だ。その為、互いの国同士の交易で必要資源を殆ど賄っている。城下町の側が海に面している為アネモネ王国と交易を行っているサーシス王国と異なり、チャイネンシス王国に至っては地続きな上に国自体の信仰の関係でサーシス王国以外との交流を全く取っていないのが現状だ。サーシス王国もまた、チャイネンシス王国とアネモネ王国としか交流を持っていない。
そして、それは我が国フリージア王国に対しても同じこと。
「プライド様、只今サーシス王国の馬車が到着したとのことです。」
近衛兵のジャックが、部屋の外の衛兵からの報告を私に伝えてくれる。
だからこそ、今回の訪問はとても貴重だ。
ハナズオ連合王国の片割れであるサーシス王国との会合。これを機会に我が国が更に同盟関係をサーシス王国、そしてチャイネンシス王国と広げられるかもしれない。
「行きましょう、お姉様。」
部屋を出たところで、わざわざ部屋前で待ってくれていたティアラが迎えてくれる。
今回の会合は、我が王族としても礼を尽くす為に私やティアラも同席する。特に私は今回、何故か第二王子からの御指名まで頂いているのだから。
ステイルは恐らく既に摂政付きとして、母上補佐のヴェスト叔父様と一緒に居るのだろう。
謁見の間まで近衛兵、近衛騎士のアーサーとカラム隊長、専属侍女のマリーとロッテ。そしてティアラと共に歩む。
ハナズオ連合王国の片翼、サーシス王国。
一年前に国王が世代交代し、第一王子が即位した。優秀で先見の目に優れ、交易を通して世界の流れを知るべきだと、貿易大手国のアネモネ王国との交易を進めたのも彼らしい。その国王の実の弟、第二王子が我が国に来訪してくれた。
謁見の間に入り、既に所定の位置についていた母上、父上、ヴェスト叔父様、ステイル、ジルベール宰相と共に、王子を迎えるべくティアラと並ぶ。
ここでサーシス並びにハナズオ連合王国と結ぶことができたら大きい。
ハナズオ連合王国は金脈と鉱物の宝庫だ。その為、サーシスかチャイネンシスかどちらかとだけでも交易をしたいと願う国は多い。閉ざされる百年前まで取り扱われていたサーシス王国の黄金や、チャイネンシス王国の宝石は、今の希少価値を抜いてもその質の良さから未だに世界中で求める王族や貴族が後を絶たない。
更に、遠方の地であるハナズオ連合王国から同盟を繋げられたら、その周辺諸国へのアピールにもなるだろう。多くの国と繋がり、信用を得られるというのはそれだけでも自国の立場や価値を上げることにも繋がる。それが鎖国中の国ならば尚更だ。つまりは、他国に警戒心が強い国に信頼を得たということになるのだから。
扉が開かれる。
付き人を連れ、堂々と真っ赤な絨毯の中心を歩いてきたのは金色の青年だった。
肩近くまである金色の髪をなびかせた彼は、耳や首、手首など身体中の至る所に装飾品を身につけていた。歩くたびに足音は絨毯に吸い込まれるのに装飾品がジャラジャラと音を立てる。どの調度品も自国で作られた黄金製なのだろう、遠目からでも金色に光り輝いているのがよくわかった。両耳には金色のピアス、首にも金色の首飾り、手首には金色のブレスレット。両手にも金色の指輪や、自分の瞳の色と同じ赤い宝石と金の装飾の指輪をはめていた。中指など一本に二つ金の指輪を嵌めている指もある。自分の髪の色に合わせたのか、それとも自国の特産品故か、全身が金色に光っているようだった。
燃えるように赤い瞳だけが金色の中で強く際立ち、余計印象的に見えた。高い鼻と長い睫毛でこれ以上なく男性的に整った顔立ちだ。癖っ毛のように少し乱暴に跳ねた髪も相まって動物で例えればライオンだろうか。
「…ハナズオ連合王国、サーシス王国第二王子。セドリック・シルバ・ローウェルと申します。」
優雅に腕を使って礼をする。ゆっくりと大きなその動作だけで彼の装飾品がさらにジャラリと音を立てた。服の中にも更にゲーム設定で覚えのあるペンダントが仕舞われ、頭を軽く下げた拍子にチラリと見えた。全身装飾武装がものすごい。
「この度は謁見の機会を頂き、心より感謝致します。女王陛下。」
優美な笑みが母上に向けられる。キラリと光沢のあるような笑みが眩しい。どこか自信にも満ちたその笑みは王族ならではの不敵な笑みでもあった。
…とうとう、現れた。
キミヒカ第一作目の攻略対象者。
ゲーム開始時から更にプライドに追い詰められる被害者。
この世界の主人公、ティアラの未来の婚約者が。