5年続けた『シンカイ』を一区切りして、新しい未来に備えたいと思います
2018年5月、時代の空気と自分の現状を考えて始めた実店舗運営『シンカイ』。それまで小売り中心とした商売のことは何も知らず、やりながら学ぶしかないと意気込んで始めました。
「お店2.0だ!」と今となっては赤面すぎるキーワードを用いて、クラウドファンディングにも挑戦したんですが…プロジェクト達成の勢いとは裏腹にてんやわんや状態でスタート。実力も知識もないのに、空中戦のコンセプトを掲げてもそんなもんは”のれんに腕押し”。いや、”霧にネリチャギ”ですね。
「お店1.0ができるようになってから、2.0って言えやぼけーーー!」
5年前のタイムスリップしたら当時の自分をどつきまわしたいです。
そんなこんなで”ハレの日(イベント)”を中心に、全国各地からお祝いや出店で駆けつけてもらったり、そもそものクラファンでも多大なるご支援をいただいたり、やってこ!界隈のおじさんたちと朝までの海賊みたいな宴で毎晩楽しいトラブルが起きたり、シンカイきっかけで全国のイベントやマーケットに出店したりなど、5年間ずっと赤字でしたがとんでもなく楽しい出来事と経験値を積むことができました。ありがとうございました。
最初から5年間はやろうと決めていた
今回の目的は、一区切りの挨拶です。2018年時点で「最低、5年間はやり続けよう」と決めていました。
善光寺の御開帳の流れもあるし、そもそもの構造が赤字前提となっていて、365日実存するリアル店舗としての広告的な捉え方で向き合ってきたんですよね。小売りの厳しさはもちろん、古民家として陳列スペースの確保問題(日焼けがやばい、雨漏りがするとか)、雰囲気はいいけれど夏はクソ暑くて、冬はクソ寒いなどなど……。
途中から、シンカイに関わりたいと思ってくれている20代の人たちとHuuuuが組み合える”関わりしろ”として機能してきたのが大きなポイントです。特にナカノヒトミちゃんと長崎航平くんの存在はとてつもなく大きい。シンカイがあったからこそ生まれた価値じゃないかと思っています。
よくわからんお店なのに、リスクとコストを負ってでもストーリーブック(今日から50%OFF!)を出版する気概も示したんですが、本文の中でナカノちゃんが「シンカイで子育てをしたい!」と宣言。当時は「ナカノちゃんらしくて、めっちゃええやん」と受け止めていたんですが、シンカイ卒業後の2023年時点では二人の子どもを抱えてたくましく生きている。
シンカイで赤子を抱えながら運営する壁はもちろんありましたが、パートナーの優くんも必死に働いていて「家族を背負った人間の成長だなぁ」と。長野市から地元・佐久市へ移住したのも、前向きなライフステージの変化で応援しています。
ほかにも初期段階でお店を支えてくれた古着屋『トライアングル』の面々、ワーキングホリデーの制度で「よくわからないお店だったので選びました!」と大学生が累計20人ぐらいシンカイを通り過ぎていきました。
3年ぶりに会った子が就職して社会に揉まれて、少し擦れた感じの雰囲気を醸し出しながらお酒を飲んでいたりとか。薄い関わりでしかないけれど、誰かの人生に小さな波紋のような影響を与えられたんだとしたら、シンカイの役割はしっかり全うできてるんじゃないかと思います。
経済合理性を手放した可変性の高い「謎な空間」。その運営を編集の会社であるHuuuuがいろんな情報をネット空間に放り投げている。誰かがその空気を感じ取って面白がってくれる。そんな柔らかい欲求と場を支えるために応援してくれたたくさんの大人たちのおかげで、これまで5年間続けることができました。
ドラえもんの世界でいう「土管のある謎の空き地」みたいな役目だったんじゃないかなぁ、と。シンカイがなければ、私自身も出会えなかったであろう人がたくさんいます。シンカイがあったから、偶然性の高い出会いもあったし。
取材を通して全国の素晴らしいプロダクトを仕入れさせてもらって、ひとつの記事で終わらない関係性の延長線をつくることができたし。移住直後に地域との出会いを増やすために、リアルな場はとてつもなく機能します。田舎だったら毎朝畑に出て土いじりしてご近所との挨拶が増えるようなもんですね。
「一区切り」の意味と今後について
利益構造が拙い上に、『MADO』や『夜風』といったHuuuu運営の場が増えてきて、シンカイの役目が会社として曖昧になってきました。やろうと思ったらやれる。それでも、まだ21歳の”未来の結晶”みたいな長崎くんにこのままシンカイを預け続けるのも違う。むしろ、お互いに手放して「次のなにか」を探すタイミングじゃないかと考えました。
・リアル店舗の運営は一区切りで休止
・店舗自体の契約は続けて、シンカイの場は残る
・オンラインショップは継続して商品は販売し続ける
・需要があればイベントスペースとして貸出はできる
・長崎くんは卒業して、シンカイを通して繋がった全国の場に旅立つ
今後、シンカイでやりたいことが生まれる /やりたいことがある若者とで出会うことでなにかが始まる可能性は高いです。築120年の古民家としての老朽化もなかなか進んでしまっているので、まずは安全面や補修工事など、ハードとしてどうするか考えていきたいと思います。
▼現店長・長崎航平からのご挨拶
かねてよりお伝えしていた6月10日の「シンカイ LAST DANCE」。この日をもって店主・長崎はシンカイを卒業、そしてお店としての現在の営業形態は一旦ストップとなります。
会社としては約5年、長崎としては約1年半この場所に関わらせていただきました。
小売店だけど運営するのは編集チーム。小売店だけど朝ごはんを提供することもあるし、店内に壁をつくって写真の展示をしたりする。
近所のプールの行き帰りの休憩所として使ってくれるおじちゃんがいたり、毎週木曜日に工作教室に通う小学生がその前にお店に顔を出してくれたり。
大学生がつくった杵と臼で餅をつくこともあれば、地元の野菜を売るファーマーズマーケットをやることもある。
そんな定義しきれない場所を運営することの難しさは多少なりともありましたが、それの何倍も、シンカイに関わってきてくれた人たちが今のシンカイをつくっている感覚と、そこに対する感謝の気持ちがあります。
好き勝手に使ってもらって、気づいたら素敵な場所になっている。それがシンカイとしての理想形だった気がしています。
だからこそ個人的には、このシンカイというお店を、お店としてもっとしっかり成り立たせることができなかった悔しさと不甲斐なさを強く感じます。
この感情を忘れないよう、次に進めたらな、と。
改めて、区切りの営業日である10日は、シンカイにて出店を中心とした催しと、シンカイの商品の一掃セールを開催予定です。
シンカイに関わってきた方も、そうでない方も、シンカイの最後を見届けていただけたら幸いです。
▼初代店長・ナカノヒトミからのご挨拶
前住人の隆史さんから、シンカイを引き継いだのが、2018年4月のこと。
オーナー柿次郎さんから店長に抜擢してもらい、延べ3年ほど運営に関わらせていただきました。
週の半分をライター、もう半分をシンカイで過ごす日々。
「やります!」
と二つ返事でしたものの当初は隆史さんが10年間積み上げてきた徳の在処をまるっとひきついだようなプレッシャーをじわりじわりと感じていました。
やってこ!マーケットで人も情報も密すぎる時間が流れたかと思えば、孤独な凪の日々(つまり来客0)が続く……。ハレとケの乱高下、それがシンカイ。
一からお店を組み立てていく難しさを体感し、いい商品、いい時間をお客さんと共有する楽しさを知った3年間でした。
目の前のことにいっぱいいっぱいで、私がシンカイでやりたいこととは……?と考えあぐねた時期もありましたが、「私はシンカイで子どもを育てたいのでは…!?」と自分なりのシンカイの関わり方に思い至り、妊娠、出産を経て子どもを店に連れていき、お客さんや地域の人たちにかわいがってもらうようになったころには吹っ切れたような気がします。「シンカイで子育て、ええやん!」と全面同意してくれた柿次郎さんには感謝しかないです。
最後になりましたが、「なんだこの場所は?」と思いながらもおもしろがってシンカイに足を運んでくださった皆さま、デザインや編集、ものづくりなどなど第一線で活躍し、いつもバチバチなやってこ!マインドを引っ提げてイベントを盛り上げてくださるやってこおじさんの皆さま、店と定義するには広すぎるシンカイに興味を持ってくださり、商品を取り扱わせていただいたブランド、事業者の皆さま、運営をサポートしてくれたHuuuuの皆さん、いつも井戸端会議に誘ってくれたご近所の善財さんとかよちゃん
本当にありがとうございます!
そして店長を継いでくれた長崎くん、お疲れさまでした!
シンカイとしての活動は一旦ストップしますが、「やってこ!」のスピリットはきっと、シンカイに関わってくれた人の心に残るはず。
それぞれの「やってこ!」で、これからもやっていきましょう。
▼シンカイオーナー徳谷柿次郎からのご挨拶
CAMPFIREで実施したプロジェクト『ローカルに新たな価値を届ける! サブスク制の「お店2.0」を始めます』にご支援いただいてありがとうございました。
2023年6月に5周年を迎えますが、このタイミングでシンカイの実店舗運営を一区切りしたいと思います。おかげさまで全国各地の人たちが訪れる長野市のローカルスポットとして認知されて、シンカイきっかけで長野市に旅行する人が大勢いました。長野県知事との対談、地域とのつながり、全国のプロダクトと出会える場所……なによりも20代前半の若者たちに”ナナメの関係性”としておもしろい大人たちの価値観や生き様をぶつけることができたのが何よりも重要な成果だと捉えています。
数字では見えてこない関わった人たちだけが触れてきたシンカイの実態は、インターネットはもちろんSNSでも伝えきることができません。一期一会の会話、生きる悩みを抱えた人との対話、新しい一歩を踏み出すだれかの背中を後押ししたりなど、私自身が見てきた”新たな一歩の景色”は数えきれないほどです。
大学生たちはこぞって「SNSで見てもよくわからないから来ました」と言ってくれます。正解ばかりを提示されて、そのために振る舞わなければいけないプレッシャーに晒されているからでしょうか。よくわからないけれど、楽しそうな人たちが集まっている。そんな空気感をシンカイが発することができていたのかもしれません。
現在の店長である長崎航平くん(21)は、インスタのDMで「一度会ってくれませんか?」と連絡がきて、即答で「いいよ!」と対応し、あまりにもいい顔つきだったので会って15分でシンカイ店長の役割を依頼しました。そんなことは通常起こりにくいのかもしれませんが、ローカルで生きる若者たちが中央集権的な都市への違和感を抱いている中で、シンカイみたいな場所を5年間も維持できて、あっさり迎え入れることができたのは改めてみなさんのおかげです。
あくまで「一区切り」。赤字店舗で暇な時間が多い店舗営業は、いらぬ悩み事を考えてしまいます。結果の報酬を与えることが成長に繋がるはずなので、1年半も現場に立ち続けてきた長崎くんには卒業してもらって、新たな未来に一歩踏み出してもらいたい。その一心で今回の実店舗営業休止の判断に至りました。場所は借りたままで、新しく起こるなのか、もしくはシンカイを通してなにかやりたい若者が現れることを待ちたいと思います。
まだシンカイは終わりません。築120年、善光寺界隈の歴史を背負った意地は、手を加え続けることで輝きを放つ「盆栽」のように受け継がれていくべきだと思います。
次なる展開にご期待ください。まずは5年間ありがとうございました。
6月10日!「シンカイ LAST DANCE」開催
というわけで5周年イベントとして最後のお祭り『シンカイ LAST DANCE』を開催します。6月10日の12時〜18時まで。翌日の6月11日はクロージングイベントして営業予定。めちゃめちゃいい商品があるので、お得すぎるクロージングセールを開催するのでお買い物目当ての人はぜひ!
詳しくは長崎くんが書いたシンカイnoteと続報はinstagramでご確認ください。
https://www.instagram.com/shinkai_nagano/
お気づきの方もいるかもしれませんが、株式会社Huuuuとして、個人の徳谷柿次郎として、空前絶後の『これまで仕込んできたこと一気に辞める確変モード』に突入です。辞めるのは大変だけど、やめるしかねぇ。
時代の変化に適応するための大胆な決断が欠かせないですし、何かを手放せば(=捨てれば)、新しいものが掌に転がり込んできます。自分が信じて費やしてきた価値に区切りをつけて、肩の荷を少しでもおろして、新たな思いつきに飛び込めるような軽やかさを保たないといけません。
この報告を皮切りに、これまで関わっていただいた皆さんへの感謝の気持ちはHuuuuチーム全体で少しずつ伝えていきます。このnoteをシェアしていただくことも、その一助になりますので、よかったらご協力ください。始まったことよりも、終わったことが伝わりにくい世の中ですので。
年間120万円の赤字×5年間。生み出した価値は大黒字。
数字には見えてこない人間関係の決算は長い時間をかけて処理していきます。やってこ!の概念は永遠に不滅です。
1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!
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