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177.騎士は見据える。


「…〜っ。…やっべ。」


思い出すだけで未だ火照りが止まない。

緩みそうな口元を片手で押さえつけ、俯いたまま早歩きで次の演習に向かう。


正直、何度も泣きたくなった。


父上とクラークに八番隊副隊長を任命されて、更にはエリック副隊長や騎士の先輩達に祝われて、…俺の昇進をしったプライド様、ティアラ、更には摂政業務で忙しい筈のステイルまでわざわざ祝いに来てくれた。ステイルはさておき、プライド様とティアラは午後には近衛任務で会えるのに。

しかも、アラン隊長とカラム隊長にも褒められた。俺の昇進は騎士隊長全員賛成とか、五本の指に入るとか…プライド様の前で褒められたから本気で嬉しくて恥ずかしくて火が出るかと思った。


…プライド様。


プライド様に抱き締められた感触がまだ、身体中に残っている。

この一年で、プライド様は更に女性らしくなった。何というか雰囲気も色っぽくなったし、顔付きも大人っぽくて、更には身体つきも…。


「〜〜〜〜〜っっ…。」


さっき抱き締められた時に押し付けられた感触を思い出して、また頭が沸騰する。気がつけば頭を抱えたままその場に蹲っていた。

抱き締められただけでもヤベェのに、本人がまだ身体の変化に気づいてねぇみたいに普通に触れてきたから本気で心臓が破裂して死ぬんじゃねぇかと思った。

もう、プライド様は十一歳じゃない。十七歳の立派な女性だ。

見かけまで一気に女性らしくなったせいで、最近じゃプライド様の評判を知らなくても、一目その姿を見ただけでプライド様に憧れを抱く新兵もいる。なのに、…なのに‼︎


「…ンであの人、普通に抱き付くとかっ…‼︎」


すげぇ良い香りがした!すげぇ柔らかかった!すげぇ近かった!すっっげぇ可愛かった‼︎‼︎

間近に見たプライド様の笑顔だけで、頭がいっぱいになる。やべぇ、このままじゃこの後の演習にも支障が


「アーサー・ベレスフォード。」


頭上から声がした途端、一気に頭が覚醒して反射的に前方に飛び跳ねた。

次の瞬間、俺がいた地面に十本近くナイフが突き立てられていた。同時にその場へ着地する騎士へ、俺は急ぎ剣を構える。


「…ほぉ。」

俺の反応に少し感心するように顔を上げると、今度は腰に差していた剣を抜き、構える…と思ったらナイフと同じように軽々と無造作に俺へぶん投げてきた。剣を使ってギリギリのところで軌道をずらし、そのまま今度は丸腰になった相手へ向かい駆け出す。

俺の動きを読んでいたように、待ち構えるどころか逆に俺の懐へ向かってきたから、次の踏み出しで一気に上へと跳ねる。振りかぶったら絶対ガラ空きになったところに拳を打ち込まれるから敢えて剣を構えたまま待ち構えた。すると懐に手を入れたと思った瞬間、数本のナイフが俺に投げられた。空中で動きが取れず、剣を振って全部一気に弾き飛ばす。金属の音が響くと同時に今度こそ剣を振りかぶり、落下のタイミングで剣を相手の頭上へ叩き落す。相手が一歩引いて避けたところで、その勢いのまま喉元に刃先を突きつけた。


「…お疲れ様です。ハリソン隊長。」

「言い忘れていた。副隊長の業務内容については前副隊長のイジドア・ビートンから今日中に引き継ぎを済ませておけ。」


構えを解き、互いに剣を腰に仕舞う。わかりました、と答えるとハリソン隊長は「今日は時間が掛かった、次はもっと早く終わらせろ」と一言だけ指摘し、何事もなかったように演習場へ去って行った。

…ハリソン隊長は、毎回八番隊の隊員に会う度に殺しにかかってくる。別に八番隊伝統の特別演習でも、八番隊隊長の役目でも、ましてやハリソン隊長が俺達を本気で嫌ってる訳でもない。


本人曰く「実力の確認」らしい。


初めて八番隊に入隊した時は俺も驚いたし、何回かは本気で死ぬかと思った。本気で殺しに掛かっている訳じゃなく、手心を加えてくれていることを知ったのは初めて八番隊でハリソン隊長と一緒に戦闘任務についた時だった。


…すげぇ、怖かった。


ハリソン隊長のアレを見れば、俺達にちゃんと手を抜いてくれていたことは物凄くよくわかった。

希望する隊間違えたかなとも思ったけど、どうしてもやりたいことがあったし、その為には八番隊しかなかった。…ハリソン隊長も戦闘終わった後は普通だし。


「…あの人とも、次からもっと話すこと増えるんだよな、俺。」

思わず、思ったことが口に出る。

今まで、八番隊の騎士とはあまり話したことがない。…というか皆必要最低限しか話さねぇ。入隊当初は歓迎されてないだけかとも思ったけど、単に完全個人主義の人ばかりなだけだった。

他の隊と違って隊員同士の連携の必要もねぇから、人付き合いが苦手な実力派ばかりが多く志願するとアラン隊長が昔に言っていた。


「………。…〜っっ!クソッ‼︎」


駄目だ、段々不安になってやがるッ‼︎

バシッと思い切り自分の頬を叩いて気合を入れ直す。


…もう、任されたんだ。

ハリソン隊長に、騎士の先輩達に、クラークに、父上に‼︎


プライド様も、ステイルも、ティアラも、皆が喜んでくれた。

一年前からステイルと手合わせすることが減ったけど、その分アラン隊長やカラム隊長、エリック副隊長やジルベール宰相、父上とも手合わせはしている。

そして、これからハリソン隊長と話すことが増えるっつーことは手合わせの機会も増えるってことだ。

八番隊に望まれることは〝強さ〟ただ一つ。

なら、俺は。



「……望むところじゃねぇか…‼︎」



もっと、もっと強くなる。

誰にも負けねぇくらい、強く。


『ッおめでとうアーサー‼︎』


大事な人を、守り切る為に。

ステイルが摂政になる為に先へ進んでるのに、俺ばっかがのらくらしちゃいられねぇ。




二度と、何も失わないその為に。


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