TSMC 日本企業への技術支援体制の強化を発表 連携深めるねらい

半導体の受託生産で世界最大手の台湾のTSMCは25日、都内で半導体の関連企業などを集めたイベントを開き、設計に必要な技術を支援する体制を強化する考えを明らかにしました。日本企業との連携を深めることで技術を取り込むねらいがあるものとみられます。

TSMCが25日に都内のホテルで開いたイベントには、半導体の設計に必要なソフトウエアの開発などを手がけるおよそ70の日本の企業や大学などが集まりました。

このなかで、半導体の設計に必要なソフトウエアなどの技術を集めたプラットフォームの概要が説明されました。

この会社に半導体の生産を委託する企業は、プラットフォームを通じて最新の技術を取り入れることができ、支援体制の強化につながるとしています。

TSMCジャパンの小野寺誠社長は「参加する企業が多ければ多いほどより堅固なエコシステムになると確信している」とあいさつしました。

台湾のTSMCは半導体の受託生産の分野で世界最大手ですが、半導体業界ではAIやスマホ向けの先端半導体の生産や開発の競争が激しくなっています。

TSMCは、日本の技術を取り込む一方、日本の企業にとっても今回の取り組みに参加することで受注の増加につなげるねらいがあるとみられます。

TSMC「最新の技術を提供できる」

TSMCデザインテクノロジージャパンの安井卓也ジャパンデザインセンター長は「半導体業界は常に新しい技術革新が必要だ。様々なパートナーと一緒に半導体の設計に必要なソフトウエアなどの技術を支援しているが、今回の取り組みによって最新の技術を提供できる」としています。

そのうえで「グローバルに展開するこの取り組みを通じてビジネスチャンスが広がるので日本の企業にも参加いただきたい」と話していました。

参加した経営者「海外進出にも期待」

プラットフォームに参加した「ジーダット」の松尾和利社長は「いまは軸足は日本に置いているが、いつか海外でも大きなシェアを取ることができるのではないかと期待している」と話していました。

TSMCとは

TSMCは、1987年に設立された台湾の半導体メーカーです。

「ファウンドリー」と呼ばれる半導体の受託生産を行うビジネスモデルで、企業規模を拡大させてきました。

調査会社「オムディア」によりますと、半導体の受託生産の分野で世界の出荷額の半分以上を占める最大手です。

とりわけスマホやAIに欠かせない「先端半導体」をコストを抑えて大量に製造することに強みがあり、アメリカのアップルやエヌビディアなどにも供給しているとされています。

半導体の性能を高めるため、メーカー各社は、回路の幅を1ミリメートルの100万分の1となる「ナノメートル」という単位で細くする「微細化」の技術でしのぎを削っていますが、この会社は、3ナノメートルという微細な回路の先端半導体を量産できるのが強みです。

半導体技術の競争が激しくなる中、研究開発にも力を入れていて、台湾以外にも「デザインセンター」と呼ばれる開発の支援拠点を日本やアメリカなどに8か所設けています。

さらに半導体の設計に必要なソフトウエアなどの技術を集めたプラットフォームも開発し、日本をはじめ進出した現地の企業に参加を呼びかけています。

日本のニーズに合わせた半導体の設計ソフトの技術も取り込み、新たな受注につなげるねらいもあるとみられます。

競争が激化 半導体業界

TSMCをはじめとして、半導体業界では、競争が激しさを増しています。

半導体はIT機器の制御や情報の保存に欠かせず、2000年以降、パソコンやスマートフォンの普及とともに出荷額が拡大。

ここ数年は生成AIに関連した需要の高まりもあり、調査会社「オムディア」によりますと、世界の半導体の出荷額は去年、5400億ドルあまりと10年前のおよそ1.6倍にまで増加しています。

こうした半導体について開発から生産をすべて1社で担うのは設備投資の負担などが大きく、開発と生産を分けて得意分野に集中する「水平分業」が広がっています。

TSMCは、半導体の生産を受託する「ファウンドリー」として世界最大手です。

スマホやAIに欠かせない「先端半導体」をコストを抑えて大量に製造することに強みがあり、エヌビディアやクアルコムなどの大手から製造の委託を受けているとされています。

激しい競争の中で、パソコン向けの半導体で大きな存在感のあったインテルは業績が低迷し、アメリカのメディアはクアルコムがインテルの買収を打診したと報じています。

さらに次世代の半導体の競争も熱を帯びていて、TSMCをはじめとした半導体の製造の分野でも生産を多く受託するためには常に技術の革新が求められています。

人材確保に注力 インターンシップも

熊本県に進出した台湾の半導体大手のTSMCは、日本では初めてとなる工場の本格稼働などを控えて専門知識を持つ人材の確保を進めています。

TSMCは、熊本県菊陽町にある第1工場の本格稼働を2024年のうちに予定しているほか、第2工場の建設工事を2025年3月までに始めることにしています。

工場を運営するTSMCの子会社JASMは専門知識を持つ人材の雇用を目指していて、その数は2つの工場であわせておよそ3400人にのぼります。

このため、会社では2023年から段階的に新卒採用を増やし、人材の確保を進めています。

しかし半導体業界は人材不足という課題に直面していて、九州だけでも毎年1000人ほどが不足するおそれがあるという試算も出ています。

会社ではこうした状況に危機感を持っていて、短期的な人材確保だけでなく中長期的な人材の育成にもつなげようと、ことし初めて対面形式でのインターンシップを開催しました。

ことし9月には5日間にわたって実施し、電子工学を専攻する修士課程の学生など17人が全国から参加しました。

半導体業界や会社の概要について説明するだけでなく、ランチタイムなどの際には社員みずから働く環境や仕事内容を話すなど、より具体的な魅力を伝えようとしています。

熊本から参加した大学院生は、「世界最先端の技術を持つ企業の工場がどのようなものか見たくて参加しました。もっと半導体のことを勉強したいと思いました」と話していました。

JASM人事部門の林田広美部長は「会社や業界が持続的に成長を続けるためには一にも二にも三にも人材だ。人材の需要と供給のギャップはまだまだ大きいので、それを埋めるため待っているだけではなく、学生などとの接点を積極的に増やしていきたい」と話していました。

日本の半導体産業は

日本はかつて1980年代から1990年代はじめにかけて世界の半導体産業を席けん(せっけん)してきましたが、次第に韓国などのメーカーに押され、大きく水をあけられています。

調査会社の「オムディア」によりますと、日本の世界での半導体のシェアは1988年には50%を占めていましたが、2023年はおよそ9%にとどまっています。

こうしたなか先端半導体の国産化を目指し、「ラピダス」がトヨタ自動車やNTT、ソニーグループなどが出資する形で、2022年に設立されました。

国からの支援も受け、北海道千歳市で2025年、試作ラインを稼働し、2027年の量産化を目指しています。

このほかの日本メーカーは、得意の分野に集中することで、活路を見いだそうとしています。

ソニーグループはスマートフォンのカメラなどに使われる画像センサー、旧東芝メモリのキオクシアは記憶用半導体のフラッシュメモリー、ルネサスエレクトロニクスは自動車向けなどのマイコンと呼ばれる半導体で、それぞれ世界大手となっています。

専門家「TSMCを利用していくスタンスが大事」

調査会社「オムディア」の南川明シニアコンサルティングディレクターは、TSMCについて、「半導体の革新のスピードはますます速くなってきている。今はガリバーかもしれないが、いつひっくり返されるかもしれない。彼らはそうした危機感を持っている」と話しています。

日本企業については、「スピード感がなく、グローバルでビジネスをする観点も薄い。かつては日本に家電などの大きなマーケットがあって、十分ビジネスができたが、海外進出に出遅れた」と分析しています。

そのうえで「TSMCを利用していくというスタンスを持つことが大事だ。いいものをどんどん取られておしまいではダメで、逆に利用するぐらいの戦略が必要だ」と指摘しています。

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