ドラクエ「性別」廃止で論争に ゲームでも問われる「らしさ」の呪縛

小川尭洋

 来月14日に発売予定のロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト」(ドラクエ)のリメイク版ソフトで、キャラクターの性別表記がなくなることが公表された。SNS上では、多様性に配慮した変更として評価する声があがる一方、「原作を尊重していない」と反発する声も。ゲームにおける性別表現のあり方に一石を投じた「論争」を追った。

 今作は、1988年のファミリーコンピュータ用ソフト「ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…」のリメイク版。公式サイトの情報によると、主人公と仲間たちの「男」「女」が「ルックスA」「ルックスB」という表記に変更される。また、男女別に「性格」と「装備」が設定されていたが、この変更にともない、すべて共通になる見込みだ。

 こうした仕様変更は、2010年代以降、世界各地で広がった多様性推進の流れを受けたものだ。以前のドラクエシリーズ10作目「Ⅹ」(2012年)やスマホ用ゲーム「ドラクエウォーク」(2019年)のほか、「ポケットモンスター」など多くの人気シリーズで性別表記が廃止されている。

 今回の変更の理由や狙いについて、ドラクエシリーズを手がけたスクウェア・エニックスの広報室に取材を申し込んだが、「検討させていただきましたが、誠に勝手ながら辞退申し上げます」との回答だった。

「生みの親」の発言が波紋

 リメイク版の変更を受け、ファンの間では賛否が飛び交った。

 「最近は性別選択がないゲームも多い。名作ゲームも、多様な性のあり方に合わせて変わった方がいい」

 「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ、ポリコレ)に配慮しすぎて、原作のイメージが壊れる」

 特に注目を集めたのは、ドラクエの「生みの親」であるゲームデザイナー、堀井雄二さんの発言だ。

 9月末の東京ゲームショウ内の対談で、「男女でいったい誰が文句を言うんだろう。分からない」などと今回の変更に疑問を呈した。この対談の動画の一部は非公式に英訳字幕がつけられ、X(旧Twitter)でも拡散。Xのオーナーである実業家のイーロン・マスク氏がこの動画投稿を引用リポストしたことで、トランスジェンダーの人々を差別するコメントが相次いだ。

ゲームの世界観がジェンダーバイアスに影響

 一方で、近年のゲーム制作において、ゲームユーザーの多様性を踏まえた視点は欠かせないものとなっている。

 アメリカの性的マイノリティー支援団体「GLAAD」が2月に発表したアンケート結果によると、アメリカのゲームユーザー(13~55歳)の17%が性的マイノリティーだと自認している。また、性的マイノリティーのユーザーは、自分と同じ性的指向・性自認のキャラクターが登場するゲームを買って遊ぶ可能性が、通常より1.4倍高くなるという。

 性的マイノリティーの情報を発信する一般社団法人「fair」代表理事の松岡宗嗣さんは、ゲーム内での性別の枠組みを捉え直す必要がある理由として、主に二つの問題点を挙げた。

 まずは、生まれた時に割り当てられた性別と性自認が異なるトランスジェンダーの人々や、性自認が男女の二元論に当てはまらないノンバイナリーの人々などに、ゲーム内での典型的な男女の2パターンに自身を投影できない人がいるという問題だ。松岡さんは「現実社会の多様な性のあり方をゲームに反映しないのは、そうした存在を見て見ぬふりをすることと同じだ」と指摘する。

 もうひとつは、ゲーム内の男女の二者択一は、ジェンダーバイアス(性別をめぐる思い込みや偏見)を強化してしまう恐れがあるという点だ。ドラクエⅢの原作などで、キャラの性別ごとに設定が決められていたことについて、松岡さんは「幅広い世代が遊ぶゲームのため、影響が大きい。キャラの選択肢は多様化されてほしい」と話す。

 また、今回の仕様変更への反発については「歴史の長い人気ゲームで、意図を実感できない変更に対してファンが違和感を持つことは一定程度理解できる。ゲーム会社などから変更の背景や姿勢が説明されていないため、変更した事実だけが独り歩きして意図が伝わらず、反発が相次いだ印象だ」と語る。

トランスジェンダーのドラクエファンも歓迎

 ただ、今回の変更をめぐっては、トランスジェンダーの人々だけでなく、多くのゲームユーザーは前向きに受け止めている。

 ドラクエのプレー動画を配信するYouTuber「ろびん」さんは「原作のドラクエⅢは男女選択が初めて導入された作品。原作とは楽しみ方が変わるのは複雑な気持ちだが、ドラクエの面白さ自体は揺るがない」と期待を寄せる。

 トランスジェンダーの女性で大阪大学院講師の三木那由他さん(言語哲学)もドラクエファンの一人だ。奥深い世界観にひかれてプレーしてきたが、「過度に理想化された体形の男性や女性のキャラ」に戸惑いを覚えることも多かったという。

 「私は生活・戸籍上は女性だが、背が高くて声が低いという特徴がある。ゲーム内で『女性』を選んだとしても、強調された『女性らしさ』に触れる度に、『まるで自分が本物の女性ではないと言われているみたい』と息苦しさを感じていた。性別表記がなくなると、心理的負担が減って感情移入しやすくなるので、うれしい」

 三木さんにとって、ゲームは、子どものころから社会で息苦しさを感じた時の「居場所」でもあった。「まるで性的マイノリティーが最近突然現れて、ゲームに影響を与えたかのように言われることがあるけれど、私たちは昔からゲームを楽しんできた。それが少しずつ可視化され始めただけなのに」と話す。

 今作ではキャラは2パターンのみだが、「ドラクエのイメージを尊重しつつ、次作以降、選択肢をどんどん広げてほしい」。今後も、多様な人々の思いをくみ取ったゲームが増えていってほしいと願っている。

        ◇

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この記事を書いた人
小川尭洋
デジタル企画報道部
専門・関心分野
人種差別、海外ルーツの人々、歴史認識、政治と教育
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    仲岡しゅん
    (弁護士)
    2024年10月25日11時0分 投稿
    【視点】

    正直なところ、私はキャラの性別表記とか全く気にしてませんね。 というか、こういうのがいちいち「多様性への配慮」とか性的マイノリティ云々という観点から語られること自体に違和感があります。 キャラクターを見てみましたが、形だけ性別表記をなくしているだけで、モチーフになっているのは明らかに典型的な「男性」と「女性」の二者択一。 それを「A」「B」と名前を付け替えたところで、良くも悪くも「それに何か意味があるの?」としか思えない。 むしろ大事なのは中身ではないでしょうか。 台詞の中で「女のくせに/男のくせに」といったバイアス的な発言がないかとか、女性キャラへのやたらセクハラっぽいイベントがないかとか、そういう中身こそが問われていると思います。

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    藤井涼
    (UchuBiz編集長)
    2024年10月25日18時17分 投稿
    【視点】

    数十年前の人気タイトルのリメイクとなると、思い入れのある方も多くこうした問題に直面することもありますが、最近のゲームは顔や体型、肌色までかなり細かいキャラクリエイトが可能なタイトルも増えているので、今回のようなケースは稀かと思います。私は、ドラクエのナンバリングはほとんど遊んできたシリーズファンですが、ゲーム内容に大きな影響がないのであれば、リメイク版で性別の表記が変わっても気になりません。むしろリメイクならではの新要素を楽しみにしています。

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