2013.08.01

二宮清純レポート 千葉ロッテ監督 伊東勤 小心者だから、勝負に勝てるのです

週刊現代 プロフィール

「僕はマウンド上の鹿取義隆さんに、はっきり言いました。"2球目にやりましょう"と。"アイツ、あまり試合に出ていないから必ず引っかかりますよ"と」

 2球目を投じる前、上田がスルスルと二塁ベースを離れた。一瞬のスキを伊東は見逃さなかった。かすかにミットを動かす。牽制のサインだ。振りむきざまに鹿取が矢のような牽制球を送る。上田はベース手前でタッチアウトになった。

 このシリーズ、西武は4勝0敗、米国でいうところのスイープで巨人を下し、2年ぶりの日本一に輝いた。

 現役引退後、すぐに西武の監督に就任した。1年目の'04年、レギュラーシーズンは2位ながらプレーオフで3位の日本ハム、1位のダイエーに競り勝ってリーグ優勝。日本シリーズにコマを進めた。

 相手は落合博満率いる中日。指揮官の器量を見たのは2勝3敗と王手をかけられた翌日だった。

 いくら移動日とはいえ、第6戦に備えて敵地で調整を行うのが相場である。まして西武には後がないのだ。

 ところが第6戦に先発予定の松坂大輔らを除き、ナゴヤドームに西武の選手たちの姿はなかった。この日を伊東は「完全休養日」にあてたのである。

「1日ぐらい練習を休んだところで、どうってことない。負けていろいろ言われたとしても、それは僕の責任。もう腹をくくっていましたよ」

 私見だが、リーダーにとって最も重要なのは「判断」ではなく、「決断」である。腹をくくり、決めた以上は迷わない。言い訳をせず、逃げ道を用意しない。

 不意に名著『戦争論』の著者カール・フォン・クラウゼヴィッツの言葉を思い出した。

「指揮官たるものは、海上にそびえる岩のように、自己の内心の知識に対する信頼を堅持しなければならぬ」

 伊東の豪胆さは、いったいどこからくるものなのか。

「いや、こう見えても僕、すごく繊細なんです」

 意外なセリフを伊東は口にし、続けた。

「性格も、どちらかというとネガティブ。試合前になると、すごく考え込むタイプ。そんな自分が嫌で嫌で仕方がない。だから襲いくる不安を打ち消すために、あえて強がっているような面もあると思うんです。

 確かに指揮官にとって一番大切なのは決断ですが、僕の場合、そうせざるを得ないというのが本音かもしれません」

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