相次ぐ新型強盗、不安だけれども データで考える日本の治安とリスク
神里達博の「月刊安心新聞+」
今、日本の「安心」を最も脅かしているのは、首都圏で相次ぐ一連の強盗事件だろう。この種の犯罪の出現を、私たちに最初に強く印象づけたのは、昨年1月に東京都狛江市で発生した強盗致死事件だと思われる。フィリピンの入国管理施設に収容されていた「ルフィ」などと名乗る者たちが、海外からスマホで犯行を指図していたのだ。このような犯罪はどんな背景から生じたのだろうか。
まずこれらは、2000年ごろから被害が広がっている、いわゆる「オレオレ詐欺」などを含む「特殊詐欺」の派生型と考えられている。
現代の企業は、SNSを活用することで自社製品の販売や、社員の採用活動に役立てているのは周知の通りである。また作業の一部を外部に委託するアウトソーシングや、組織の分業化により、生産性向上を目指すのも一般的だ。実は特殊詐欺でも同じ手法が使われているのだ。
かつての犯罪組織は内部の統制が強く、固い上下関係で結ばれた「ピラミッド型」の構造を持つことが多かった。だが特殊詐欺グループは一般に「ネットワーク型」で、人間関係も希薄であるとされる。グループには、電話をかけてだます「かけ子」、現金を引き出す「出し子」など、多くの役割分担がある。またメンバーはネットを通じてリクルートされるため互いに面識はなく、首謀者らは秘匿性の高い通信ツールで遠くから指示をする。ちなみに近年の国際テロ組織も、しばしば似た形態をとる。
このような形で犯罪を行ってきた首謀者の一部は、実行犯が捕まっても自分たちまでは捜査の手が及ばないと考えるようになったらしい。その結果、手間のかかる特殊詐欺よりも、直接的な「強盗」に移行する者が出てきたとも言われている。
現代社会の変容を映す鏡のごとく、犯罪においても「イノベーション」が起きているのだ。
さて、一連の事件の報道を知り、防犯対策を強化する人も増えているようだ。しかし、対策を講じても、なかなか不安感が解消されない人もいるかもしれない。そういう場合は、少し異なる角度から考えてみることも有益ではないか。そこでここでは、日本の治安状況についてデータをもとに考察してみたい。
警察庁の統計によると、日本で22年に交通事故を除く刑法犯によって亡くなった方は、全国で598人であった。そのうち殺人罪による被害者は254人、傷害致死罪が56人、強盗殺人罪が5人であった。
これに対し、国連機関のデー…
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