家庭や近所、職場や酒場で、凶悪な広域強盗への恐怖が口の端に上る。体感治安は著しく悪化している。
犯行グループは住人をハンマーで殴り、刃物で切りつけ、現金などを強奪する。極悪非道な実行犯像を浮かべるが、必ずしもそうばかりではない。
横浜市の住宅で住人を殺害し現金を奪ったとして強盗殺人容疑で逮捕された22歳の男は交流サイト(SNS)の「ホワイト案件」と記された投稿を通じて指示役とつながり、身分証などで個人情報を伝えた。「犯罪に加担する恐怖を感じたが、個人情報を知られ仕返しや家族への危害を考え断れなかった」と供述しているという。
これが「闇バイト」で使い捨ての犯罪者となる典型的な姿である。警察庁は昨年、「犯罪実行者募集の実態」と題する広報啓発資料をまとめた。生々しい実例集である。
SNSの甘い誘いに乗れば言葉巧みに個人情報を求められ、写真や住所、銀行口座から家族や交際相手の詳細まで引き出される。面接と称して携帯電話の電話帳や交信記録を撮影されたケースもある。
これらは全て離脱や逃亡を認めない脅迫の材料となる。「家に火をつける」「家族を殺す」などの脅しが怖くて犯行に加担すれば、それも新たな脅迫への弱みとなる。約束の報酬を受け取ることもない。抗議しようにも指示役の上部は連絡先が分からない。他人を殴り傷つけ殺害した心の痛みは消えず、犯行集団からの離脱を図れば警察に密告され、「犯罪者」としてネット上に写真が公開される。
これが逮捕まで続く。なぜならそれまで決して離脱を許されないからだ。身から出たサビであり、同情はできないが、人生は破滅である。世の中に、そんなに甘い話はないと知るべきだった。それでもすでに、「闇バイト」の甘言に乗ってしまった場合はどうするか。
警察庁は、こう呼びかけている。「自分自身や家族への脅迫があっても、強盗は凶悪な犯罪です」「すぐに警察に相談してください。警察は相談を受けたあなたやあなたのご家族を確実に保護します。安心して、そして勇気をもって、今すぐ引き返してください」
犯罪から抜け出す方策は、もはやこれしかない。