2024年9月号で本誌が報じた、「みんなで大家さん」成田プロジェクトに関する鑑定評価書の存在。その後の分析で明らかになったのは、専門家も理解に苦しむ土地価格の算定だ。評価額は最大で相場の100倍を超え、不動産鑑定業の信頼に関わるとの声も出ている。監督当局との裁判が続く中、運営元は大阪で“いわく付き” 物件の販売に乗り出した。
本誌記者の手元に、業界関係者のひそかな注目を集める不動産鑑定評価書の写しがある。「みんなで大家さん」を展開する、共生バンク(本社:千代田区)の依頼で作成されたもの。同社が大阪府および東京都による行政処分の差し止めを求めた一連の裁判で、自らの正当性を示すために裁判所に提出した。
共生バンクは、インバウンド客を意識した複合商業施設の建設を計画し、成田国際空港近くにある東京ドーム10個分の広大な山林を造成中。土地の一部は主力商品「シリーズ成田」1号〜18号として証券化済みだ。今回の鑑定書が対象としたのは全45万6000m2 のうち、同社が所有権または借地権を保有する38万m2の土地。その評価額は5012億円にも上る。
本誌は6月以降に大阪府、東京都と共生バンクグループ傘下の2社の間で争われている裁判の資料を閲覧。添付の鑑定書を詳細に書き写し、最前線で活躍する不動産鑑定士たちに意見を求めた。取材に応じたプロたちは一様に驚き、ある者は怒り、ある者はあきれる様子をみせた。
特定された取引事例
シリーズ成田は不動産特定共同事業法(不特法)に基づく投資商品で、2020年11月から販売が始まった。合計18本のファンドによる募集総額は1979億円。今年3月までの販売額は合計約1500億円に達する。当初2024年度をめざしていた施設の開業時期はたびたび延期された。直近9月25日付の発表では、それまで2027年春としてきた一部開業予定を、同年の冬へと変更している。
不特法の許可権者として共生バンクグループを監督する大阪府と東京都は、プロジェクトの実現性に対して繰り返し懸念を表明。開発が失敗した場合、「元本がほとんど償還されないリスクがある」として、事業者側に土地価格の計算根拠開示を求めてきた。以前は「国家戦略特区として、従来とは違う概念で評価されるべき」などと行政側の追求をかわしていた共生バンクだが、6月の抗告審では「当該土地上のプロジェクトそのものが投資対象の商品ではないから、あたかもそれが実現しなければ、対象不動産の価値が皆無になるという(行政側の)主張は全く理由がない」として、鑑定書の提出に踏み切った。