「才能のある研究者が、周囲の環境やレピュテーション(評判)が悪いという理由だけで研究をやめてしまうのはすごくもったいない。それはかねがね思っていた」──。
こう語るのは、筑波大学助教の櫛田創氏だ。物理化学を専門とし、ドイツの大学で自然科学の博士号を取得。2024年に配信された恋愛リアリティー番組に出演し、アカデミアの外でも広く名前が知られることとなった。
■本連載のラインアップ予定
・TSMC、博士獲得へ全国行脚 「昼夜問わず仕事できる人材」
・博士の卵も囲い込むアマゾン キリンHDやJR西、争奪戦で挽回に動く
・ポケモン、博士手当100万円 専門性だけでない「ゼロイチ」の力
・富士通、博士課程進学と同時に雇用 研究しながら働く二刀流人材に
・三井住友信託銀行、異色の理系バンカー部隊発足 博士の目利き力に着目
・ゴルフ場は若年層獲得へ「割安プランを」 北大博士学生が提言
・哲学研究者はIT企業でインターン 筑波大、博士と企業の交流サロン
・根深い「ポスドク1万人」の負の遺産 払拭のカギはジョブ型雇用(今回)
・AGC平井社長「失われた30年、背景に博士不足」の危機感
・東大加藤教授「産官学で人材を送り合う仕組みを」
櫛田氏は日本での学界のイメージの悪さが、研究者離れにつながっていると警鐘を鳴らす。日本では研究者という職について「ネガティブな発信をする人も多い」という。アカデミアの世界で研究に打ち込む人たちは得てして「変わった人」と見なされ、縁遠い存在になりがち。「僕や周りの先生たちはこの仕事は面白い、楽しいと思ってやっている。ネガティブなイメージが一人歩きするのは非常に残念だ」と話す。
その背景の一つとして櫛田氏が挙げるのが、社会と学界との距離感だ。ドイツではみな学んだことを生かす仕事に就くのに対し、日本では学生のポテンシャルに基づいて採用した後に再教育する傾向が強いと分析する。「学んだことを即戦力として生かせる場が日本には少ない。企業と大学の会話も足りていない」(櫛田氏)
経済産業省の資料によると、産業界の研究者に占める博士号保持者の割合は、米国(19年)の10.6%に対して日本(22年)は4.2%と半分以下。過去には米国の上場企業の人事部長のうち、1割以上が博士号取得者だという調査結果もあった。身近な博士がいない日本企業では博士人材の生かし方が分からず、「扱いにくい人」という固定観念も定着しやすい。
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