サイエンス

2024.10.22 10:30

推定90歳超、世界最高齢の飼育魚となったハイギョ「メトセラ」

ハイギョ(Getty Images)

1938年といえば、遠い昔だ。そのころヨーロッパ大陸は戦争の瀬戸際にあり、スペインは内戦の渦中にあった。米国は、10年近く続いた大恐慌の影響にまだ苦しんでいた。この年はヤンキースがシカゴ・カブスを4勝で破ってワールドシリーズで優勝し、パン1斤は10セント(現在のレートで15円前後)で買えた。

そのころ、オーストラリアからはるばる米国サンフランシスコへ向かう蒸気船が、1匹の生きた魚を運んでいた。後に「メトセラ」(聖書に出てくる長命者の名)と名づけられたハイギョ(肺魚)の若い個体だ。

このメスのハイギョは、同年から、サンフランシスコのスタインハート水族館で1世紀近くの時を過ごすことになる(2023年のDNA分析では推定93歳[±9歳]とされた)。

一緒にやってきたほかの230匹の魚がすべて死んだ後も、メトセラは生き続けてきた。この驚くほど長生きのオーストラリアハイギョは、シカゴのシェッド水族館で飼育されていた、別の長生きのオーストラリアハイギョ「グランダッド(おじいちゃん)」が、2017年に109歳で死んだことで、水族館で飼育されている魚としては最高齢となった。

メトセラやグランダッドのようなハイギョは、なぜこれほど長生きできるのだろうか。その理由は、彼らが普通の魚ではないからだ。

ハイギョは、肉鰭類(にくきるい)の系統に属する。肉鰭類は、現在地球に生息するほかの魚とは異なる古代魚の仲間だ。4億年余り前に出現したこの古代魚の系統で現存するのは、シーラカンスの2種とハイギョの6種のみとなる。

肉鰭類は、初期の四肢動物(両生類や爬虫類など)の祖先と考えられている。これらの四肢動物は、約4億年前に、海から陸上へ進出することに成功した最初の脊椎動物だ。この説が信じられている理由の1つは、ハイギョが水中でも陸上でも呼吸できる能力をもつことにある。彼らは空気から酸素を取り込み、血流に送る肺をもつ一方で、水中で呼吸するためのエラも備えている。

肺とエラの両方を備えるこうしたユニークな適応能力は、ハイギョに生存上の優位性をもたらし、数億年もの間、ほとんど変わらない姿で生き延びることを可能にした。さらに、進化的にいえば、原始的な陸上動物が、空気呼吸の能力を発展させ、完全に陸上生活を送るための道を開いた。古代の絶滅種であるイクチオステガとアカントステガは、いずれもハイギョのような肉鰭類から進化した四肢動物であり、陸上生活を送るようになった最初期の動物に属すると考えられている。

イクチオステガ Getty Images

イクチオステガ(Getty Images)

ハイギョが長生きできる(呼吸能力以外の)特徴について、いくつか紹介しよう。

・夏眠する
ハイギョは、干ばつや極端な環境条件下において、夏眠と呼ばれる不活動状態に入ることができる。泥の中に潜り、自身の周りに粘液の繭を分泌すると、代謝率が大幅に低下し、数カ月、あるいは数年もの間、水なしで生き延びることができる。

・代謝が遅い
ハイギョは、ほかの多くの魚と比べて代謝が遅い。代謝率が低いことは食物の必要量が少なく、エネルギーをより効果的に温存できることを意味する。これが長命につながっている。

・成長と繁殖が遅い
ハイギョは一般的に成長が遅く、繁殖速度も比較的低い。成長が遅いということは、健康と寿命の維持に、より多くの時間と資源を費やせることを意味する。なお、メトセラは体長約120cm、体重約18kgだ。
次ページ > 90歳を超えるメトセラより長生きできる生物

翻訳=高橋朋子/ガリレオ

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2024.10.20 16:00

約3億年前に生きた自動車サイズの「コダイオオヤスデ」、全体像が明らかに

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コダイオオヤスデ(Arthropleura:アースロプレウラ)は、古代の地球を這い回っていた、史上最大級の節足動物だ。

石炭紀(約3億5920万~2億9900万年前)に生息し、英国、フランス、ドイツ、米国で化石が発見されているが、これまでは、関節のある外骨格の一部と、3点の不完全な標本のみが知られていた。2021年に、長さ約75センチメートルの大きな断片が発見されたが、元の個体の体長は2.7メートル、体重は50キログラムほどだったと推定されている。

そして最新の研究で、その全体像が初めて正確に復元された。

研究チームは、物体の内部をX線で可視化するマイクロCT技術を用い、フランスのモンソー=レ=ミーヌで発掘された化石の3次元画像を作成した。石炭層で発見されたこの化石は、約3億750万~2億9900万年前の石炭紀後期のもので、保存状態が非常に良い。死後すぐに、粒子の細かい湖底の堆積物に覆われたためだ。

研究チームが調べた標本は、わずか数センチメートルの大きさだ。おそらく幼体で、部分的に堆積物に閉じ込められていた。堆積物を取り除くことは、標本を傷つけたり、化石と堆積物の接点に保存されている解剖学的特徴を失ったりするリスクを伴う。X線を使えば、化石に触れることなく研究できる。

フランス、ビルールバンヌにあるクロード・ベルナール・リヨン第1大学の古生物学者で、研究論文の筆頭著者であるミカエル・レリティエAP通信のインタビューで、「ヤスデの体と、ムカデの頭を持っていることがわかった」と説明している。

コダイオオヤスデは、現代のヤスデ(ほとんどの体節に、関節のある脚が2対ずつ付いており、体と頭はミミズに似ている)と、ムカデ(すべての体節に1対ずつの脚が付いており、体は平ら)の解剖学的特徴を併せ持っている。体はヤスデの特徴を持っているが、復元された頭は、節のある短い触角と大顎があり、現代のムカデに近い。

研究チームはこの観察結果に基づき、コダイオオヤスデは、ヤスデとムカデの最後の共通祖先と密接に関連していると主張している。

同じ時代に生息していた他の無脊椎動物の巨大化(羽を広げると70センチメートルを超えるトンボなど)は、大気中の酸素濃度がピークにあったためだと考えられていたが、コダイオオヤスデの化石は、このピークに達する前のものであり、酸素濃度だけでは説明できないことを示唆している。

石炭紀は温暖湿潤な気候で、ほとんどの大陸が深い森に覆われていたため、小さな動物の大型化が可能だったのかもしれない。

コダイオオヤスデは、約2億9800万年前のペルム紀に絶滅した。原因は不明だが、気候変動(ペルム紀は、非常に暑く乾燥していた)や、初期の爬虫類などとの競争が理由として考えられている。

forbes.com 原文

翻訳=米井香織/ガリレオ

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2024.10.11 17:00

世界最高齢123歳のワニ、1万匹の子をもうけて今なお元気

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ナイルワニ(Crycodylus niloticus)は、アフリカ屈指の恐るべき肉食動物の1種であり、巨体と怪力、隠密行動でよく知られている。サハラ以南アフリカ全域の淡水生息地に分布する頂点捕食者であり、平均全長4~5m、体重は最大で750kgと、グランドピアノ1.5台分に相当する。

ナイルワニは、さまざまな獲物を捕食する。魚や鳥、レイヨウやスイギュウなどの大きな哺乳類まで、強力な顎と丈夫な歯で捕える、手強い悪役だ。攻撃的な気性をもち、刺激されなくてもヒトを襲う傾向にあることから恐れられている。

ナイルワニは、野生でも70年ほど生きるが、飼育下ではさらに長生きする。飼育下での驚異的な長寿事例の1つがヘンリーだ。知られているかぎり世界最高齢のワニで、南アフリカのスコットバーグにあるクロックワールド保全センターで暮らしている。

ヘンリー──1万匹の子を残した123歳のワニ

1900年に誕生したヘンリーは、2024年12月16日に124歳になる。彼の生涯からは、ナイルワニの驚異の生態と強靭さが窺える。

ヘンリーは1985年、ボツワナのオカバンゴ・デルタで、家畜と、ヒトの子どもを襲ったために捕獲された。攻撃的な気性から、地元住民の間で悪名高い個体だったが、クロックワールドで飼育されているいまでは、正反対の穏やかな振る舞いを見せている。

保全センターに移送されて以来、ヘンリーはたくさんのパートナーとの間に1万匹以上の子を儲けた。高齢ながら彼の生殖能力は衰えておらず、ここからワニの驚くべき生物学的特徴が見て取れる。多くの動物では、年齢とともに生殖能力が低下していくが、ワニは生涯のほぼ全般にわたって生殖が可能なのだ。ヘンリーの旺盛な精力は、ナイルワニという種のたくましさだけでなく、彼自身の遺伝的資質の高さも示している。

彼が1世紀以上も生きつづけてこられたのは、すぐれた代謝効率のおかげだ。ワニは、外部の熱源に頼って体温を調整する、「外温性(ectothermic)」の動物だ。この特徴のおかげでエネルギーを節約でき、長期間にわたって食事をとらなくても生存できる。

野生のナイルワニは、数カ月にわたって断食することがあり、その間は溜め込んだ脂肪だけで生きつづける。飼育下でたっぷり餌をもらいつつも、ヘンリーは、こうしたエネルギーの節約に長けた適応形質の恩恵を受けており、このことが長寿命に貢献したのは間違いないだろう。
次ページ > ヘンリーの長寿の秘訣は、白亜紀後期にそのルーツをもつ

翻訳=的場知之/ガリレオ

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