IT導入補助金、1億円超不正受給 検査院が還流を指摘
中小企業のIT(情報技術)導入を支援する国の補助金を巡り、会計検査院は21日、1億円超の不正受給が見つかったと明らかにした。補助金を過大請求し、中小企業にソフトウエア会社などから資金が還流した取引が多数見つかった。チェック体制の甘さを突かれた格好で、再発防止策の徹底が求められる。
「IT導入補助金」は商品の取引や在庫管理のシステム、サイバーセキュリティー対策のソフトウエアなど幅広いITツール導入を対象に、かかった経費の一部を補助する。中小企業の生産性向上などを後押しする狙い。2019年度に独立行政法人「中小企業基盤整備機構(中小機構)」の所管事業として始まった。
補助金の交付・選定業務は事務局が担う。事務局に登録されたソフトウエア会社やシステム開発会社などのITツールベンダー(販売業者)が、中小企業の補助金申請をサポートするのも制度の特徴だ。
検査院は一般社団法人「サービスデザイン推進協議会(サ推協)」が事務局を務めていた22年度までの3年間に補助対象となった約10万社の10万4000事業のうち、376社の445事業(交付額計12億1000万円)を対象に実地検査した。
検査の結果、ITベンダーが中小企業とともに事務局に虚偽申請するなどしてIT導入補助金を過大に請求し、ITベンダーが紹介料などの名目でキックバックする、といった不正受給が見つかった。
不正受給と認定された総額は30社が実施した計41の事業で計1億円を超えた。検査院は今回、サ推協や中小機構に対し、過大に交付していた企業からは速やかに補助金を返還させるよう要求した。
ある企業は事務局にIT導入にかかった事業費を1500万円として申請し、920万円の補助金交付を受けた。しかし顧客の紹介料などの名目でITベンダーからも資金を受け取り、事業費は実質ゼロになった上に180万円の「利益」も得ていた。
こうした資金還流があったケースの多くは、ITベンダーなどから「自己負担なく導入できる」「自己負担額を上回る報酬を受け取れる」といった働きかけがあったという。
事務局は、検査院が不正に関わったと認定した15のITベンダーについて7月に登録を取り消し、ウェブサイトで公表した。
他にもITベンダー側からの資金提供は認められなかったものの、虚偽申請で不正受給していた企業が8社あり、交付額は計約2800万円に上った。
不正受給とは認定しなかったが、67社が実施した88事業でベンダーとの間で不透明な資金の流れもあった。多くはITツールが実際は導入されていなかったり、導入直後に解約されたりしていた。補助金の交付額は約2億5000万円に上った。
検査院は事務局のチェック体制の不備も指摘した。
中小機構やサ推協は警察からの捜査事項照会のほか、コールセンターへの通報などにより「相当数の不正の疑義を把握していた」とされた。不正受給が疑われる中小企業やITベンダーには立ち入り検査が可能だが、検査院の指摘で不正が判明するまで一度も実施していなかった。
検査院は同様の不正が他にもないか調査するとともに、不正関与が判明したITベンダーの登録は取り消すほか、立ち入り調査の実施方法や指針を整備することも求めた。
サ推協は新型コロナウイルス禍で売り上げが減った事業者を支援する「持続化給付金」事業でも事務局を務めた。事業費の大半を電通に再委託したことなどが問題視され、経済産業省が適切性を調査した経緯がある。
国は企業の生産性向上のための支援事業を強化しているが、審査の甘さを突かれた不正受給は他の補助金でも確認された。
従業員のリスキリング(学び直し)を実施した企業に支払われる国の「人材開発支援助成金」でも、企業がリスキリングを訓練機関に外注した際、一部費用が実質的にキックバックされていた。検査院は2019〜23年度に支給決定した対象の一部を調べ、今月に1億円超の不適切な受給を指摘した。
法政大の小黒一正教授(公共経済学)は「規模の大きな事業だけに所管する中小機構や事務局が不正の有無を抽出調査などでチェックする必要があった。不正の疑いを把握しながら厳しい対応に至らなかった点を重く捉え、実効性のある不正防止の仕組みに改めるべきだ」と指摘する。