自民党の政治資金パーティーを巡る裏金事件で関与が判明した、いわゆる「裏金議員」たち。石破茂首相は、衆院選の比例代表との重複立候補を認めず、一部は小選挙区で非公認にすると決めました。そもそも、「裏金議員」とは誰で、何をした人たちなのか。問題の核心はどこにあるのか。衆院選に出馬した人物をリスト化し、一連の事件の経緯を分かりやすくまとめました。【時事ドットコム取材班】※最新情報を踏まえて更新しました(2024年10月16日)
(記事中に登場する人物の肩書きや派閥はいずれも当時のものです)
裏金疑惑の発端は
自民党の派閥裏金疑惑が明るみに出たのは、2022年11月の共産党機関紙「しんぶん赤旗」の報道が発端だった。最大派閥「清和政策研究会」(安倍派)を始めとした自民党の5つの派閥で、政治資金パーティー券の大口購入者が政治資金収支報告書に記載されていなかったとする内容だ。
この報道に続く形で、神戸学院大の上脇博之教授が調査を実施。5派閥で計約4000万円の不記載があったとして、会計責任者らに対する政治資金規正法違反容疑の告発状を東京地検に提出した。23年11月になり、東京地検特捜部が派閥の事務担当者らへの任意の事情聴取を進めていることが判明し、裏金疑惑は政権基盤を揺るがす事態へと発展していった。
「パー券ノルマ」と「キックバック」
華やかに催される政治資金パーティーの裏で、一体何が行われていたのか。
そもそも政治資金パーティーとは、政治家や政治団体が政治資金を集めるために行うものだ。政界関係者によれば、パーティー券は1枚2万円前後が相場で、1回の開催で数億円規模のカネが動くこともあるという。自民党の各派閥では、所属議員の当選回数や役職などに応じて、このパーティー券の販売枚数に「ノルマ」を課していた。
問題の核心は、議員がこのノルマを超えてパーティー券を売った場合、派閥側がその超過分の収入を議員側へ「キックバック(還流)」する仕組みがあったことだ。さらに、超過分を派閥に納めず「中抜き」していた議員もおり、こうしたカネが政治資金収支報告書に現れない「裏金化」していたとされる。ちなみに、パーティー収入は原則非課税だ。
安倍派の政治資金パーティー収入を巡っては、所属議員だった宮沢博行防衛副大臣が23年12月、キックバックがあったと認めた上で、「派閥から『収支報告書に記載しなくて良い』と指示があった」と明かしている。自身も計140万円の還流を受けていたが、収支報告書には記載していなかったといい、問題の発覚後に派閥側から「しゃべるな」と口止めがあったとも述べた。
11人立件、安倍派幹部は全員不起訴
捜査の行方はどうなったか。東京地検特捜部は23年12月、パーティー収入を政治資金収支報告書に記載しなかった疑いがあるとして、政治資金規正法違反容疑で、安倍・二階両派の事務所など関係先の家宅捜索に踏み切った。今年1月に入ると、安倍派の池田佳隆衆院議員と会計責任者の秘書を「罪証隠滅の恐れがある」として同容疑で逮捕。この2人を含め、国会議員や秘書、派閥職員ら計11人が相次いで立件された。
これまでに、安倍派の会計責任者と二階派の元会計責任者に有罪判決が出されたほか、安倍派の谷川弥一元衆院議員と元秘書▽堀井学元衆院議員▽岸田派の元会計責任者▽二階俊博元幹事長の秘書の計5人が、罰金と公民権停止の略式命令を受けている。安倍派の幹部や事務総長経験者らも刑事告発されていたが、会計責任者との共謀は認められないとして、全員が不起訴となった。
党内アンケ、浮かんだ85人
捜査の進展とともに、自民党内でも大きな動きが相次いだ。裏金事件による内閣支持率の低迷に歯止めがかからない中、岸田文雄首相は今年1月に岸田派解散を決断。これに続いて、安倍、二階、森山、茂木各派も解散を決めた。
自民党は2月、裏金事件を巡って党所属の国会議員ら384人を対象に行ったアンケートの結果を公表。パーティー収入のキックバックや中抜きについて、政治資金収支報告書に不記載や誤記載があったのは85人だったと明らかにした。総額は、2018年から5年間で5億7949万円に上り、二階派の会長を務める二階俊博元幹事長の3526万円が最多だった。
安倍・二階両派の議員ら85人に、各派閥・グループの責任者を加えた計91人を対象に、聞き取り調査も実施された。自民党が公表した調査報告書によると、安倍派では「20年以上前から」、二階派に関しては「少なくとも10年前から」、それぞれ還流分の不記載が始まっていた可能性があるとした。こうした「裏金」の使途は、懇親費用、車両購入費、書籍代、人件費、手土産代、弁当代、旅費・交通費、翌年以降の派閥パーティー券購入費用―などとされた。
党の処分は「85分の39」
アンケートと聞き取り調査の結果が公表され、党内で次に問題となったのが、処分対象とする「裏金議員」の線引きと処遇だ。自民党は4月、裏金事件に関わった議員らのうち計39人について、次のような処分を決定した。
安倍派の座長を務めた塩谷立・元総務会長と、参院トップだった世耕弘成前参院幹事長は、8段階ある処分で2番目に重い「離党の勧告」。事務総長経験者の下村博文元政調会長と西村康稔前経済産業相は3番目の「党員資格の停止」1年とし、高木毅前国対委員長は同6カ月とした。そのほかの処分内容は、▽1年間の役職停止(9人)▽6カ月の役職停止(8人)▽戒告(17人)とした。
処分対象の線引きを巡り、党執行部には当初、安倍、二階両派で収支報告書に不記載が確認された82人を処分対象とする方針があったようだ。しかし、「還流額の少なかった中堅・若手に配慮してほしい」(安倍派・閣僚経験者)といった要望があり、不記載額が過去5年で500万円以上だった議員を処分対象にすることに。結果、安倍派議員の約半数が処分を免れることになった。
「キックバックなぜ継続」政倫審開催も…
安倍派のキックバックを巡っては、派閥関係者の間で「22年4月に安倍晋三元首相が中止を指示した」という証言が一致している。しかし、同年7月に安倍氏が死去した後もキックバックは継続されており、こうした意思決定がなされた経緯や詳細は現在も判然としていない。
一連の裏金疑惑では、衆参両院に設置される「政治倫理審査会(政倫審)」も開催された。政倫審とは、議員に政治的、道義的責任が認められるかどうかを審査する機関のこと。今年2~3月、岸田文雄首相や安倍、二階両派の議員が弁明に立ったが、「記憶にない」「承知していない」といった発言が相次ぎ、安倍派でのキックバック継続の経緯も明らかにならなかった。
5月の政倫審では、自民党も賛成して、裏金事件に関わったとされる73人の審査が衆参両院でそれぞれ議決された。しかし、議決には強制力がないため、一人も政倫審に出席しないまま国会は閉幕。疑惑解明にはつながらなかった。
衆院選へ、焦点はまた「裏金議員」
岸田文雄首相は8月、裏金事件による深刻な政治不信を踏まえて退陣を表明し、自民党総裁選を経て石破茂新政権が発足した。目下焦点となっているのが、次期衆院選における「裏金議員」の公認や比例復活を巡る問題だ。
裏金議員の処遇について、石破首相の姿勢は変遷してきた。総裁選出馬を表明した8月24日は「(裏金議員が)公認にふさわしいか、議論は選対委員会で徹底的に行われるべきだ」と強調。非公認の可能性にも踏み込んだが、翌25日には、「新体制になってどうするのか決める。(党総裁に)なってもいない者が予断を持って言うべきではない」と軌道修正した。
自民新総裁に選出された9月27日の会見では、「選対本部で適切に判断する。説明責任はきちんと果たしたい」とトーンダウン。首相就任後の会見でも、「選挙区でどれくらいの支持をいただいているのかを把握しながら、公認するか否かを決定する」との説明を続けた。
世論と党内融和の板挟みとなり、いったんは「裏金議員」も原則公認する方向に傾いた石破首相だったが、10月6日に方針を表明。①「党員資格の停止」の処分を受けた者②「党の役職停止」の処分が継続中で、国会の政治倫理審査会に出席していない者③処分を受け、地元の理解が進んでいない者―は非公認とし、政治資金収支報告書に不記載があった議員は、比例代表との重複立候補を認めない考えを示した。
自民党は10月9日までに、萩生田光一氏、西村康稔氏ら「裏金議員」12人の非公認を決定。このうち一部は出馬を取りやめた。政治資金収支報告書に不記載があり、比例代表で単独立候補の可能性があった尾身朝子、杉田水脈の2氏も出馬を辞退した。
自民党の主要派閥で長年、隠然と行われてきた裏金作り。「15日公示、27日投開票」の日程で行われる衆院選では、関連する議員らにどんな民意が示されるのか。最新記事は「自民党派閥パーティー事件・関連ニュース」でお届けします。