持ち家か賃貸か、堀江貴文が「圧倒的に賃貸」と断言する「納得の理由」

写真拡大 (全4枚)

何を信じ、何を疑うべきか? 無知は搾取される現代社会で、何をすれば得で、損なのか――。ホリエモンこと、堀江貴文氏が解説した『ニッポン社会のほんとの正体 投資とお金と未来』(徳間書店)から一部抜粋して紹介する。

マイホームを買っていいのは?

住むなら賃貸か、持ち家か。ずーっと繰り返されているテーマだ。でも答えは明らかだ。単純な損得で考えれば賃貸だ。もう圧倒的に賃貸である。そして損得抜きなら持ち家もあり。以上が答えである。

日本では昭和時代につくられたマイホーム信仰がいまだに根強い。そしてその信仰に乗っかって家を売りたがる不動産業者がいる。賃貸派は賃貸派としてのロジックがあり、持ち家派は持ち家派としての言い分がある。ようするに永遠にかみ合うことはない。かくして、賃貸vs持ち家論争はえんえんと続いていく。

どうしても持ち家が欲しい。マイホームで幸せな家庭を築くのが夢だ。そういう人は迷わずさっさとローンを組んで買ってしまおう。もちろん高い買い物になる。人生最大の買い物だろう。でもそれで夢がかなうなら安いものだ。できるだけ早く買い、できるだけ長くそこで暮らすのがベストである。人生の時間は限られている。

ただ、不動産業者のセールストークには要注意だ。あたりまえだが彼らは家を売るプロである。不都合なことは口が裂けても言わない。話半分で聞き流し、あくまで自分の人生観、価値観にしたがい、自分に合う物件を選ぶべきだ。

かたや、持ち家の実利的な価値はゼロに等しい。むしろデメリットだらけだ。だから特別な思い入れがないなら買わないほうがいい。絶対買ってはいけない。

一般庶民がマイホームを買う場合、だいたい30~35年ローンを組むことになる。35年ものあいだ毎月毎月、借金を返済し続けるわけだ。雨が降ろうが槍が降ろうが待ったなし。くわえて固定資産税やメンテナンス費用といったランニングコストもかかる。

なかなかのプレッシャーである。なにがなんでもいまの収入を死守しなければならな

い。となると、そのさきの人生の選択肢は一気に狭まる。

たとえば魅力的な転職先があってもためらうだろう。その職場の雰囲気になじめなかったら? 試用期間中にクビになったら?

いちいち不安を膨らませてしまう。転職してキャリアアップを遂げる。それが会社員として年収を大幅に増やす王道コースだ。でも大きなローンがその挑戦をさまたげる。つい現状維持に走ってしまう。いまの職場にしがみつき、やりたくない仕事を押しつけられてもひたすら我慢だ。

仕事にかぎったことではない。持ち家だと暮らし自体の自由度も狭まる。治安が悪くなろうが、隣近所とトラブルが起きようが引っ越せない。これまた我慢だ。いざとなれば売却や賃貸に出せばいい? あまい。交通アクセスの良い一等地ならともかく、庶民が買える程度の物件に大した魅力はない。買い手を見つけるのは大変だ。

それに引き換え、賃貸暮らしはコスパがいい。いつでも好きなときに引っ越せる。固定資産税とも無縁。そしてなによりメンテナンスや修繕にかかる費用は家主が払ってくれる。入居者は自腹を切ることなくつねに快適な生活空間を確保できるわけだ(しかも2020年の民法改正により、賃貸事業者の修繕義務はいっそう厳格化された。

そんな賃貸に比べると、持ち家暮らしの息苦しさは如何ともしがたいものがある。「でも賃貸だと家賃をただ払い続けるだけで終わる。持ち家ならローンを払い終えたあと資産として残る」不動産業者の常套句である。騙されてはいけない。

新築を買った場合、住んだ瞬間からその家の価値は下がっていく。中古物件のあつかいになるからだ。ローンを払い終えた35年後の古びた家ともなればなおさらだ。資産価値はほぼゼロだ。もちろん戸建てなら土地の価値は残る。でも庶民が買えるような土地にたいした価値はない。一等地でないかぎり地価は上がらない。

持ち家に実利的なメリットは皆無だ。ローンを完済しても固定資産税はずっと発生する。建物の老朽化が進めば、フルリノベーション並みの改修工事が必要になる。その際の費用は少なくとも1000万円はくだらないだろう。

「高齢者になったら部屋を貸してもらえなくなる。だからいまのうちに家を買っておいたほうがいい」これも不動産業者の常套句。不安につけこむ狙いだ。詭弁である。

もうじき、高齢者だろうが部屋はいくらでも借りられるようになる。いま日本は人口減少にともなう空き家問題が深刻になっている。くわえて超高齢化社会だ。であれば今後、シニア向けの賃貸物件は必然的に拡充されていく。心配は無用だ。

賃貸か、持ち家か。繰り返すが、買っていいのはマイホーム自体に損得を超えた特別な思いがある人だけだ。マイホームは本質的に不条理な買い物である。損する覚悟のない人は買ってはいけない。

マイホームの唯一で最大のメリット

いまだにマイホームを「資産」だととらえている人がいる。たしかに法律上は資産のあつかいだ。不動産のひとつであり、ゆえに固定資産税が課される。

しかし資産とは本来、その所有者に利益をもたらす財産のことを指す。金銭的価値があり、お金に換えることができ、そしてなによりお金を増やしてくれる。そのようなものを資産と呼ぶのである。

なけなしのお金をはたき、35年ローンを組んで手にしたマイホームは資産だろうか。

月々のローン返済のみならず、保有しているかぎりメンテナンスや修繕の追加出費が発生する。もちろん固定資産税もある。お金を生むどころか、出ていくばかりだ。

また、家を手放す必要に迫られても、すぐに売れるわけではない。買い手がつくまで時間も手間もかかる。郊外住宅なら安く買い叩かれるだろう。もしローンが残っていれば売却時にそれを完済しなければならない。売却益がローン残高を下回るようだと別途、補ほ 填てんするはめになる。

ちなみに売り値の3%が仲介手数料で消える。高額取引になるため、これもバカにならない。もちろん売れたら所得税と住民税も発生する。持ち家は“不動”産の名にふさわしく、流動性も換金効率もきわめて低いのだ。

持っていてもお金を生むことはない。それどころか売却(換金)すら容易でない。くわえて売却によって損を被こうむる公算が高い―。資産になりようがない。マイホームは負債そのものだ。しかも割に合わない負債である。

それでも少なからぬ人がマイホームを求める。そこに幸せな暮らしがあると信じている。持ち家が不利なのは明らかだ。でも買う。あくまで買う。そして密かに胸を張るのである。マイホームの唯一で最大のメリットはひとに自慢できることだろう。

なぜ日本にはかくも強烈なマイホーム信仰がはびこっているのか。すべては国策の影響である。1960年、池田勇人内閣は国民所得倍増計画を打ち出した。むこう10年間で国民の所得を2倍にするという壮大なプランだ。いまの私たちからすれば非現実的に思えるが、戦後不況を脱した当時の日本はイケイケである。所得倍増に向けた政策が次々と実行され、驚異的な経済成長を遂げていく。

そこで絶大な貢献を果たしたのが住宅事業だった。家が売れるということは建材や設備が売れるということだ。とうぜん多くの職人も稼働する。そして土地の売買も活発になる。ようするにお金が日本中を駆けめぐる。経済波及効果は圧倒的だ。

その住宅がどんどん売れるようになったのは、戦後不況を脱した1950年代後半だ。そこからさらに国民の所得が急増したことで住宅需要はいっそう過熱。くわえて拍車をかけたのが住宅ローンの簡易化だった。

それまで住宅ローンの貸出しはおもに政府系金融機関(住宅金融公庫=2007年廃止)が担っていたが、東京オリンピック(1964年)が開催されたあたりから銀行などの民間金融機関が本格的に参入してきたのだ。住宅ローンビジネスが活気づき、ひとびとがローンを組むハードルが一気に下がったのである。そして1966年、住宅建設計画法(2006年廃止)が制定され、国をあげた住宅建設ラッシュがはじまる。

次々と開発されるベッドタウンに庶民の胸はがぜん高鳴った。広大な敷地に拡がる綺麗で近代的な住居。それは豊かさの象徴だ。まさに夢のマイホームだ。だれもが一生懸命働き、そこで暮らすことを目指すのである。マイホーム信仰の誕生だ。

そして1972年、住宅ローン減税制度(住宅取得控除制度)が創設される。「税負担を軽くしますから、もっともっと家を買ってください」というわけだ。当時、それまで絶好調だった景気に陰りが見えはじめていた。だから国民の住宅購入をさらに促進する必要があったのだ。

この住宅ローン減税制度が現在にいたるまで、日本の住宅政策、景気対策の中核となる。いかにローンを借りやすくするか。つまりいかに巧妙に国民に負債を負わせるか。高度経済成長の終焉とともに政府はそこに注力する。そのときどきの経済状況に応じて、減税規模の拡大縮小を繰り返していくのである。

そうしてこの半世紀にわたり国民を誘導してきた。ようするにマイホームは景気の調整弁にすぎない。しかし政府にとっては大事な大事な調整弁だ。かくして「夢のマイホーム」はいまなお息づく。

2022年度の税制改正により、2024年1月以降に省エネ基準を満たさない新

築住宅を購入した場合、住宅ローン減税が適用されなくなった。強烈な方針転換だ。

「省エネ性能の高い家に住みましょう」という政府のメッセージである。省エネ建築物の増加による経済効果を狙っているのだ。夢のマイホーム―。しかしその「夢」は幻想である。

政治家や官僚が知恵を絞って守り続けてきた幻想だ。彼らの思惑にこれからも乗せられるのか、あるいは拒むのか。価値観、住居観は人それぞれだ。いずれにせよ、後悔のない選択をしたい。

【もっと読む】『今の日本で「現金払い」は損をしている…それだけでなく「害悪」になっている理由』

今の日本で「現金払い」は損をしている…それだけでなく「害悪」になっている理由