朝日出版社の株式譲渡・取締役全員解任・資産売却と労働組合の要求
朝日出版社および系列会社のブックマン社は、今、理不尽な買収劇に巻き込まれています。
私たちは朝日出版社労働組合です。2024年7月11日に結成し、現在では全従業員の過半数で構成されており、日本出版労働組合連合会に加盟しています。
現在、私たち、そして私たちの会社は、重大な危機に直面しています。
2023年4月、小社の創業者である会長・原雅久が亡くなりました。創業者が株を100%保有しており、そのままご遺族(2名)が相続されました。
2024年5月、当時の代表取締役である小川洋一郎社長のもとに意向表明書(買い手候補が、会社を買収したいと手を挙げ、金額などの条件を提示した書類)が届き、株主が会社の株式を、ある会社(X社と呼びます)に売却する意向を示したことが通知されました。
(※私たち組合は、会社との労働協約において、「組合員の労働条件に重大な影響を及ぼす事項について、事前に時間的余裕をもって当組合に通知し、協議の上、同意を得て実施すること」、株式譲渡についても「時間的余裕をもって組合に通知、同意を得て実施すること」を定めた条項を締結しております。ここに記すことは、労働協約に基づく会社との協議により把握したことです)
●「買い手はX社しかない」は本当なのか
買い手候補である合同会社X社は、短期間に多くのМ&A(企業の買収や事業譲渡のこと)を繰り返し、現在では60社以上を傘下におさめています。その多くは食品や物流業などで、出版業とは全く異なる分野です。そして、会社経営陣から開示されたX社側の発言からは、朝日出版社が大切にしてきた出版理念とは相容れない部分があることが懸念されました。また、X社の提示額(当時)は、朝日出版社の資産(土地含む)と照らし合わせると、極端に低い価格であると感じられました。
出版社として今後も事業を続けるために、他にもっと適切な買い手が存在するのではないかと考えた社長の小川は、株主や、株主のファイナンシャルアドバイザー(株主の利益のため、朝日出版社に適した買い手を見つける役割)であるY社に対し、自分たちにも他の買い手を当たらせてくれないかと申し出ました。しかし、「すでに出版社には全て当たっている」、「手を挙げたのはX社のみだった」という回答しかありませんでした。
●買い手候補との協議
買い手のX社と朝日出版社とで、今後の進め方を話し合う機会が数回ありました。その場に同席した者によると、話し合いの際、X社より、朝日出版社のこれまでの事業、および刊行物についてのコメントは、一切ありませんでした。そして、朝日出版社の自社ビルである千代田区九段下の土地の測量図を求められたとのことでした。
また、X社より、朝日出版社の取締役会を廃止して、取締役会非設置会社にするとの言明がありました。
このことから、私たち組合は、「X社は朝日出版社の事業に関心がない。従業員に対し、何ら経営方針を明らかにすることなく、コミュニケーションを取ることもないX社は、本当に信頼に足る企業なのだろうか。このまま取締役非設置会社になると新経営者の独走を止める手立てがなくなる。ことによると株式取得後に九段下の土地を売却し、利益を得ることだけが目的なのではないか」と強い危惧を抱きました。(九段下の土地は、会社が売却されようとしている額よりもはるかに高額であると見積もられます)
取締役会は全員一致でX社への株式譲渡に反対し、私たちも反対の意思を会社側に伝えました。
●取締役全員の解任と出社しない「新取締役」
9月11日、株式譲渡契約、および株主と朝日出版社間の不動産売買契約(株主は朝日出版社名義の土地に長年お住まいで、その土地の売買契約)についての協議中、代表取締役の小川をはじめとする取締役6名全員の解任が株主から告げられました。
同時に新しい代表取締役と取締役(2名の株主)が就任。「新代表取締役」は経歴も明かされず、直接連絡を取ることができない状態で、どのような経緯で選出されたのかわかりません。そして3名とも、就任以来、今日に至るまで約1か月にわたり一度も出社せず、従業員は会うこともできません。
なお、会社の実印も法務局で登記変更されて、その実印は出社していない「新代表取締役」が持っているとのことですが、私たちは、このような状況も大変心配しています。
株式譲渡契約が完遂されたかどうかさえも把握できない状況が続いています。
解任された取締役6名は、これまでのように出社し業務を続けており、当社は通常通り営業しています。
●「新代表取締役」の「業務代理」の方が求めてくること
新代表取締役が姿を見せない一方、新代表の「業務代理」という方が会社を2回ほど訪れました。彼らもまた、素性をこちらに知らせることなく、新代表の「友人」であるとして、前社長の小川に、会社名義の銀行口座の通帳等を渡すように要求しています。加えて、「九段下の本社不動産の抵当権を外すこと」を要求されました。
「業務代理」という方は、会社の業務については全く言及せず、運営業務を一切行っておりません。
以上が、前経営陣との協議で私たちが把握したことになります。
従業員一同は、このような事態に巻き込まれ、非常に困惑しています。
朝日出版社労働組合は、新代表取締役や新取締役に団体交渉を再三申し入れておりますが、新代表の代理人である弁護士より、「入院中」「体調不良」というご連絡をいただくのみで、それ以外の返答はなく、団体交渉も受け入れられていません。
現状を踏まえ、私たちは、自分たちの仕事と職場を守りたいと考えました。
●労働組合の要求
私たち朝日出版社労働組合は、会社側(新代表取締役1名と取締役2名)に対し、以下のことを要求します。
(1)会社資産の売却反対
会社の株式、資産(土地含む)の売却は、組合員の労働条件・労働環境に大きな変化を与えうるものです。事前説明と組合の同意なく、会社の資産を売却することに反対します。
(2)前取締役全員の解任の経緯と、株式譲渡契約の経過の説明
経営陣の変更は、組合員の労働環境に大きな影響を与えます。9月11日の前取締役全員の解任、そしてそれに関連すると思われる株式譲渡契約の経過について、早急に説明してください。
(3)私たちの雇用と職場環境を守ること
朝日出版社の新取締役は、今後も九段下で働いている私たちの雇用と職場を守り、労働条件と職場環境を維持改善することを確約してください。また、特段の理由と本人の同意がない限り、出向や業種の異なる部署への異動などを行わないことを確約してください。
(4)朝日出版社の出版文化・理念を守ること
朝日出版社は大学の語学教科書を中心に、先生方等を著者に迎え、多くの方に信頼される教科書と書籍を刊行してまいりました。今後もこれまでに築いた信頼を裏切ることのないよう各編集者が自立して仕事し、刊行物の水準を保ってまいる所存です。朝日出版社から刊行する全ての刊行物について、現場の編集・営業職員にご一任いただき、また、そのための労働環境を確保いただきたく存じます。新取締役は、従業員が築いてきた、これまでの出版文化と理念を今後も守ることを確約してください。
なお、10月16日、朝日出版社労働組合は上記の要求実現と解決のために、ストライキ権を確立しました。
ここまでお読みいただいたことに深く感謝申し上げます。
私たち組合は、一刻も早くこの異常な事態を終わらせ、安心して働ける環境を取り戻すとともに、今後も朝日出版社として、よりよい出版物を確実にお届けしていけるよう、出版労連をはじめ、まわりの方々のお力添えをいただきながら、できることは全てしていきたいと思っています。
朝日出版社は通常通り営業しております。
関係者のみなさま、そして読者のみなさまには、ご心配をおかけいたしますが、どうか見守っていただけますと幸いです。
2024年10月21日
日本出版労働組合連合会
朝日出版社労働組合
組合員一同
asahipress.union@gmail.com
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