横浜市の産婦人科医院で雨漏りが止まらないトラブルを巡り、所有者の院長らが施工者の鹿島を相手取り、建て替え費用を含む約22億円の損害賠償を請求する訴訟を起こした。一審の東京地方裁判所は2024年8月23日、補修費用など約1億4000万円を支払うよう鹿島に命じた。
裁判所は、外壁目地の深さ不足やシール材の硬化不良が雨水浸入の原因と判断した。一方で、「補修で防水性能の確保は可能」とし、建て替えが必要な損害とは認めなかった。原告の1人である浅川恭行院長は、「建て替え費用が認められるまで引かないつもりだ」とし、24年9月2日付で東京地裁に控訴した。鹿島は日経クロステックの取材に対し、「係争中のため回答は差し控える」と書面で回答した。
争いの舞台となった病院は04年に竣工した。鉄骨造の地上5階建てで、延べ面積は約1900m2。1~3階が産婦人科医院で、4~5階が住宅となっている。
判決文によると、問題の発端は13年に発覚した4階天井の雨漏りだ。調査した鹿島は、原因を5階バルコニーの立ち上がり部分に施したシール材の劣化と判断。シール材を打ち替えた。同社は14年5月にも、雨水浸入防止のため建物西側及び南側でサッシ周りやタイル目地でシール材の打ち替えを実施するなど対応していた。
14年8月には、5階バルコニーのアルミ建具に使用したシール材が溶け出すトラブルが発生した。鹿島によると、シール材は01~04年ごろに製造されたポリサルファイド系の材料と判明。同社の施工物件でも経年劣化で表面がべたつく事例があったとするが、溶ける原因の究明には至らなかった。
その後も鹿島は、外壁下地に使用した押し出し成形セメント板の継ぎ目やタイル目地のシール材の打ち替えなど応急処置を繰り返したが、建物各所で雨水の浸入は止まらなかった。
応急処置を続ける中、鹿島は18年に「雨水浸入はシール材の不具合によるもの」と認め、水性の透明外壁防水材を外壁に塗布する措置を提案した。防水性能の他、臭いがなく施工時の騒音も小さいなどメリットを説明したが、原告は受け入れなかった。「足場の組み立てや解体時にはどうしても音が出る。患者のことを考えると難しい」としていた。
こうした長い経緯から、原告は19年2月、雨水浸入を防げない瑕疵(かし)があるとして、不法行為責任や瑕疵担保責任に基づき、損害賠償を請求する訴訟を東京地裁に提起した。
請求額は、建物の建て替え費用として約12億円、営業補償などを含む約10億円の合計22億円だ。営業補償には、病院の建て替え工事中に使用する仮診療所の建設・解体費や、その間に減少する収入などを含めた。