◇財政再建へ早期の増税を
昨年11月に初当選した兵庫県尼崎市(45万2100人)の稲村和美市長(いなむら・かずみ=38)は、「私はどちらかというと増税論者」と明言する。少子高齢化社会が進む中で、国や自治体は従来の社会基盤やインフラ整備重視の政策を転換し、健康、環境、文化などソフト面を充実させる「成熟社会」の構築が必要と強調。そのためには現行税制を見直し、「高齢者の資産課税の強化とか、一定の低所得者への手当てをしながら消費税(増税)をしっかりやることが必要」とし、国の対応が「あまりにも遅い」と厳しく批判する。
市長は、増税をめぐる政府の対応ぶりについて、「国民が増税を受け入れるに足るだけの透明性と信頼を常に持っていないといけないのに、この信頼をずっと失墜させてきた」と指摘。こうした国の政治は「罪が深い」と断罪しながら、「(財政再建の先送りは)問題を悪化させる。早く手をつけるほど解決も早くなる」と訴える。
市政に関しては、「国政があんな状況だからこそ、自治体からまず信頼を取り戻す透明性の高さが大事」と強調。喫緊の課題である市の財政再建に向けて、情報公開を徹底し、市民の納得を得ながら実行に取り組む方針を示す。
特に、高度成長時代に他の自治体に先駆けて充実させた集会施設や児童館などの公共施設の維持・運営が市財政の重荷となっており、その集約や再配置については「施設の維持でものすごいお金がかかっているといった実態をしっかり示すことで、まず全体像を市民の皆さんと共有」しながら取り組む方針。
また、事業仕分けでは、民主党政権のような「近視眼的」なやり方ではなく、「(事業での)税金の使い方について発信することが第一目標。その上で市民の意見で見直す事業があれば見直す。その意味で、あえて仕分けというより『たな卸し』と言っている」と語る。
同市では、生活保護世帯や単身高齢者が多いなどの事情から、社会保障関係費のうち、国民健康保険や介護保険、後期高齢者医療、自立支援医療などにかかる予算が約188億円(2011年度当初予算一般財源分)と他の類似都市と比べ異常に多い。この歳出構造の改善には市民の健康維持・増進が大きな課題だ。このため稲村市長は「とにかく予防が可能なところに狙いうちで対応」するため、小・中学生に対する独自の検査項目を含んだ市独自の生活習慣病予防ガイドラインを来年度から実施する運びだ。
〔横顔〕神戸大3年の時に起きた阪神大震災で、学内のボランティア組織の代表で活動したことが政治家を目指した原点。同大大学院修了後、証券会社に勤務。兵庫県議を2期務め、昨年11月の市長選で女性市長としては全国最年少で初当選。退任した前市長の白井文氏の選挙ではスタッフを務めた。幼稚園児の6歳の長女と会社経営の夫との3人暮らし。
〔市の自慢〕江戸初期の尼崎城築城以来、大阪―神戸間では唯一の城下町。築城の際、周辺にあった寺院を集めて一画を寺町としている。現在、国の重要文化財7件を含む11の寺が残っている。F1レーサーの小林可夢偉選手(BMWザウバーチーム所属)は同市出身。
〔兵庫県尼崎市ホームページ〕