転売ヤーはなぜ社会悪なのか
はじめに
前置き
まず、私は転売ヤー不要論者である。PS5が転売ヤーによる買い占めで買うことが出来ず恨んだ日々は忘れられない。あの頃もしPS5を買えたなら、PS5を枕にして熟睡出来ただろうし、あの頃もしPS5を買えたなら、PS5を漬物石代わりにして美味しい漬物が食べられたのだ。
なのでこの記事はいくらかバイアスのかかった内容になってしまうかもしれないが、仏の心で転売ヤーを許し、公平な観点から全力で彼らの存在意義を見出してみようと思う。
転売の定義
物販業者の方の中には「せどりと転売は違う」と細かいことにいちいちうるさいご指摘される人もいるらしいが、面倒なので本記事では「転売」を下記の通り定義し話を進めていくことにする。「卸売だって転売だ」とかいう境界知能並みのキッズは置いていくことにする。
自分で購入した物を二次的に販売すること。メーカーや卸業者から購入する場合は一般的に転売とは言わない。つまり、小売から購入して消費者へ販売する行為を指す。
転売問題
ところで転売は何がそんなに問題なのか、物を買って物を売ってるだけではないか、転売ヤーはそう言うだろう。しかし世の中には転売ヤーに対して厳しい意見ばかりだ。まずは我々の身近にある転売問題をいくつか見てみよう。
チケット転売問題
人気アイドルのコンサートチケットやスポーツ観戦のチケットなどを興行主が定めた販売価格より高い値段で売る行為、いわゆるダフ屋であるが、本当に欲しかった人が手に入れられない状況が続いたため、2019年6月14日に「チケット不正転売禁止法」が施行されたことにより制限されているため、現在では明確に違法行為となる。
もし不細工でモテない君の大好きなアイドルのコンサートチケットが高額で転売され、雀の涙のようなバイト代では買えないことになったらどうか想像してみてほしい。
アルコール消毒製品及びマスク転売問題
2020年、新型コロナ感染拡大によりアルコール消毒製品とマスクの需要が急増したのは記憶に新しい。国内では入手困難が続き、ネット上ではマスクが1箱1万円を超える高値で転売されるケースも相次いだ。
この状況を受け、国民の生活の安定を確保する観点から、同年3月15 日以降アルコール消毒製品とマスクの高額転売が法律により禁止とな った。
同年4月、全世帯にガーゼのマスク(通称アベノマスク)が配布されるなど、日本政府の対策によって次第に供給不足は解消された。(同年8月「国民生活安定緊急措置法施行令の一部を改正する政令」が閣議決定され、アルコール消毒製品及びマスクの転売規制は解除された)
町の商店街ではマスクの在庫を隠し持っていたであろう小売店が続々とマスクを店舗に売り出し始めたのを覚えている。完全に確信犯である。なぜラーメン屋や靴屋がマスクを売っているのかと激しくツッコミたくなったものだ。
PS5転売問題
2020年11月、日本国内においてソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)からPlayStation®5(PS5™)が発売された。当初の希望小売価格はPlayStation®5デジタル・エディションが39,800円、PlayStation®5が49,800円であった。
しかし販売開始以降、国内の店舗では品薄が続き、入手困難な状況が続いた。2020年といえばコロナ渦の真っ只中であり、巣篭もり需要が増加したことや、国外での同時発売などいくつかの原因が重なり供給不足となったのである。希少な在庫を転売ヤーが恣意的に買い占めたことによりさらに入手困難となった。ネット上では定価の10倍近い高値で売り出されたこともあった。転売ヤーによって流通はストップし、容易には買えない価格の在庫だけはネット上に溢れるようになった。
メーカー側は転売対策を講じたが、チケットやマスクとは違い法的に規制するルールはないためフリマアプリなどは対策をとらなかった。
※ちなみにメーカーが希望小売価格より高く売ることを販売者に制限した場合、独占禁止法に抵触する可能性がある。
転売反対論
転売ヤーが流通を阻害している
「あいつらさえいなければ手に入るのに」
消費者の主張はこれが多いのではないだろうか。確かにマスクやPS5は転売ヤーが在庫を抱えることによってエンドユーザーである消費者への流通がストップしてしまった。彼らがいなければ一般家庭にもっと早く普及したであろう。特に生活必需品や医療用品などの転売は国民の健康的な生活に影響を及ぼす行為であり悪質と言える。転売ヤーは差益による旨みを得られるが消費者にとっては何一つメリットはない、それところかデメリットでしかない。反対されるのは当然である。
SNSで転売を水道に例えた投稿が話題となっていたが、なるほど、これはもっともな気がする。
めっちゃわかりやすい。
— 桂馬 (@keimagameinside) November 12, 2020
マジで規制してくれ😱 pic.twitter.com/Rlqpy0tRpf
転売された商品は中古である
ゲーム機や家電などメーカー保証がある製品は販売店から購入した時点から保証が開始する。つまり転売ヤーが購入した時点ということになるので、一般消費者が転売ヤーから購入した場合、保証期間が経過しているか既に期限が切れている可能性もある。
また有象無象の転売ヤーがどのように在庫管理しているか不明である。不細工なおっさんがカビ臭い部屋で汚い手で保管していると想像するとゾッとする。オークションやフリマで個人で出品しているような転売ヤーに新品同等の品質保証を期待することは出来ない。信用面から見ても消費者にとって転売ヤーは意義のある存在とは言い難い。
ファン離れの原因
不都合は消費者に限った話ではない。サプライヤーにとっても転売による負の影響は起こりうる。
PS5のようにハードウェアの供給不足によってソフトウェアの売上が低迷する可能性もある、このような状況が続けばファン離れの原因にもなりうる。私のように痺れを切らして任天堂Switchに流れていったユーザーも多いはずだ。長期的に見れば顧客を失い機会損失を招くのではないだろうか。
転売擁護論
転売ヤーが商社として機能している
例えばお隣の国で観光ついでに一個500円のコスメを日本で1,000円で転売するというケース。日本では買えないものが手軽に手に入るという点で付加価値があると言える。自力で買いに行ったら交通費+宿泊費でとても1,000円では足りないのでベネフィットは大きい。このように、転売ヤーが商社のような役割として機能している場合、定価にコストを上乗せして売っても問題ないのではないだろうか。
(とはいえ、小売店から大量購入して買い占めするような場合はモラル的にどうかと思うが。。。。)
定価の範囲内であれば問題ない
例えばドンキ・ホーテの特売コーナーで定価1000円の商品を100円で購入し、メルカリで500円で出品した場合はどうだろうか。
消費者にとっては定価よりも安く買えるのでありがたいことだ。
また、メルカリに既に同じ商品が500円より高値で取引されている場合は競争の原理によって相場が下がる効果がある。市場全体で見ても消費者にとって嬉しい話だ。
ただし、逆に購入希望者が増えて出品数が減ると価格は上昇するのも市場の原理だ。これについては次のセクションで解説する。
経済学的なお話
いちおう私も(難関私立大の)経済学部卒なので経済学的な観点で転売による価格適正化の原理を解説してみよう。
適正な価格はいくらなのか
下のグラフ(図1)は「需要と供給曲線」と言う。経済学部出身なら誰でも見たことがあるはずだ。
青い線は供給曲線といい、価格が上がるほど売り手が増えることを表す。
逆に赤い線は需要曲線といい、価格が下がるほど買いたい人が増えることを表す。
この2つの線が交わった点を「均衡価格」といい、売りたい人と買いたい人の希望価格が一致した状態となる。
グラフの例だと¥1,000なら買ってもいいという人が10人、¥1,000円なら売ってもいいという人が10人となった場合、市場全体で適正な価格で取引が出来ているということになる。
消費者余剰
10人の買い手の中には懐に余裕があり、例えば¥2,000までなら払えるという者もいるだろう。その場合の差額は¥1,000となる。最大限払える価格(需要価格)と実際に支払う価格(市場価格)との差を「消費者余剰」という。
グラフ(図2)で書き表すと左上の赤い三角のエリアが消費者余剰となり、買い手の余剰を表す。
均衡価格の変動
転売ヤーが商品を購入することにより市場の供給量は減る。すると供給曲線は左にシフトし均衡価格が上がる。(図3)
例えば5個買い占めると市場の供給量は残りの5となるので均衡価格もその分上にシフトする。
これは自由競争市場においては自然な現象である。
つまり、経済学的にみれば転売による価格の上昇は必然のことであり、市場での最適な価格というわけだ。
逆にメーカーが5個生産を増やしてトータルが10に戻れば供給曲線は右にシフトして均衡価格も元に戻る。そうなった場合は当然転売ヤーは在庫を抱えることになる。これは転売ビジネスのリスクである。
まとめ
転売のデメリット
本当に欲しかった人の手に届かない
生活必需品の場合は健康的な生活に影響がある
品質保証が期待できない
顧客満足が低下してファン離れの要因になる
メーカーにとっては長期的な機会損失となる可能性がある
転売のメリット
場合によっては手に入りにくい物が手に入れやすくなる
消費者にとっては定価より安く買える場合もある
市場全体の相場が適正化する
なんと転売ヤーのいいところを3つも見つけてしまった。しかも経済学的な正当性まで立証してしまったではないか。
世間から忌み嫌われている転売ヤー諸君、感謝したまえ。
しかし見ての通り、デメリットが大きいのも事実である。法律で規制されている場合は論外であるが、生活必需品のような国民の健康的な生活を脅かす可能性があるものについては当然に規制をすべきである。
また利己的な買い占めや価格の吊り上げはいくら自由競争とはいえモラル的に許し難い。人の購買意思決定というのは感情も含めて成立するわけだ。私のように「転売ヤーからなんて死んでも買うもんか」という鋼鉄の意志によって購買を拒否した者も少なくないはずである。というか私は熱心なゲーマーではないのでそこまでして欲しくないだけである。
とまぁ、転売について色々調べてみたり考えを巡らせてみた結果、転売ヤー死ね死ね団であった私が「常識の範囲内であればまぁいいんじゃないか」くらいの最大公約数的な考えを持つくらいに寛大になったのは1つの成長かもしれない。少なくとも定価の範囲内で中古品をメルカリに出品するくらいなら問題ないだろう。(営利目的の場合は古物商許可が必要)
私自身も私物をメルカリに出品してお小遣い稼ぎをしているので転売の恩恵は受けているのだ。転売を全否定まではしない。
少なくとも子どものおもちゃを大人が横取りするような真似はやめて欲しいものである。
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