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- 2024年10月18日
境界知能 子どもの進路・就職どうすれば?東京・町田 “療育手帳”の取得に壁が…
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“境界知能”の子どもを持つ女性は、将来の不安を抱えています。
子どもに学習面などの困難がありますが、将来、特別支援高校や障害者雇用枠に応募することができないからです。
女性は、社会的な支援を得られるよう模索していますが、大きな壁に直面しています。
境界知能の子ども 将来への不安
境界知能の特徴や、境界知能の人が直面しているさまざまな困難について前編の記事でお伝えしました。
境界知能とは、IQ=知能指数が「平均的な数値」と「知的障害とされる数値」の間の領域のこと。
統計学上は日本の人口の約14%、7人に1人いるとされています。
東京都町田市で暮らす松成由美子さんの娘・深頼さん(小学6年生)は、知能検査の結果、境界知能だとわかりました。
深頼さんは音楽や体育は通常学級で授業を受けています。
しかし国語や算数は周囲についていくことが難しいため、特別支援学級で勉強しています。
娘・深頼さん
「特別支援学級の方が好きです。特別支援学級では学習がやさしいけど、通常学級ではスピードが速いことが多くて、ちょっと厳しいところがあるからです」
母・由美子さんが心配しているのは、深頼さんの将来について。
高校以降、教育の支援がなくなり、社会人になると一般就労が求められるからです。
松成由美子さん
「私たち親も長く生きていけるわけではないので、やっぱりこの子の将来が心配ですよね。
学校を卒業すると、一般就職をしなければならない。みんなと同じようにやっていけるのかなという心配があります」
療育手帳は取得に壁が…
そのため、由美子さんが望んできたのは、「療育手帳」の取得でした。
知的障害と認定された人に交付される療育手帳。行政が知能検査の結果や、日常生活の状況から判定します。
手帳があれば、特別支援高校や障害者雇用枠に応募できるほか、自立や就労を目指す訓練を受けることができます。
由美子さんは、療育手帳を取得できないかと行政に2度申請しましたが、知的障害に該当しないとして認定されませんでした。
由美子さん
「『本当は手帳をあげたいけれど』というようなことはおしゃっていただいたのですが、現状決まっている基準からすると、IQはあるので手帳は出せませんという結果でした」
しかし、由美子さんは、この結果に納得することができていません。手帳を交付する判定基準が、自治体によって異なっているためです。
療育手帳の交付は都道府県と政令指定都市などが、それぞれの基準をもとに行っています。
このうち、知能指数の基準を70から74に設定している自治体は25.5%。75から79設定しているのがおよそ58.8%。80以上はおよそ13.7%。
深頼さんが住む東京都は、おおむね75に設定しています。
この日、母・由美子さんは境界知能の子どもを持つ親の会に参加しました。
療育手帳の交付基準の違いに戸惑っている保護者たちが少なくありませんでした。
東京都の基準はこれ、神奈川県の基準はこれじゃなくて、国でピシッとこれが基準ですって言う方がいいよね。
違う自治体に住んでいる友達が、本当に療育手帳をみなさん持っていて、逆に「なんで取らなかったの?」という風に言われて、ちょっと驚きましたね。
神奈川県の方が取りやすいって聞いて、転校しない方がよかったのかなって、そのとき思った。
暮らす地域によって支援の線引きが違う現実。由美子さんは、割り切れない思いを抱えています。
由美子さん
「どうして自治体によって基準が違うのかな?国で同じ基準にするのは難しいのかな?と思います。同じIQなのに、東京都に住んでいるから療育手帳を取れないというのはちょっと、不公平じゃないかなという思いはあります」
こうした保護者達の訴えを、自治体はどのように受け止めているのでしょうか。
東京都の担当者は、次のように話していました。
東京都心身障害者福祉センター 担当者
「例えばIQ80にしたとしても、じゃあ81はどうなんだ、82はどうなんだということになりますし、基準を85にあげたとしてもそれは同じです。IQだけで判断しているわけではなく、専門の精神科医と一緒にその方のお話を聞いて、障害の度合いについて判断しています」
その上で、東京都は国に対して、統一の判定基準を定めるよう、10年以上にわたり要請を出しているとしています。
「統一した基準がない、その先の法律でも定められていないというのが知的障害の方の手帳制度なのですが、それにつきましては、全国統一した基準を作っていただきたい。その方に必要な支援が何なのかというところを中心に考えていくことが必要なのかなと思っています」
療育手帳について厚生労働省は、「統一の判定基準の策定に向けて、幅広く調査・研究をしていく」としています。
一方、福祉制度について研究している専門家は次のように話しています。
元上智大学教授 大塚晃さん
「住んでいる自治体によって、不利益が生じている現状を見ると、判定基準の統一化は必要だと考えています。
ただ、基準を決めていく中で、すでに支援を受けられている人や、新たに療育手帳の取得を望む人に不利益が生じないようにしなければなりません」
なぜ?支援からこぼれ落ちる境界知能の人たち
なぜ、境界知能の人たちに対する社会的支援がないのでしょうか。
医師として境界知能の人を診察し、その実情を研究している古荘純一さんによると、知能指数がおおむね70までの人々は、知的障害として、教育や就労、福祉の面で社会的支援を受けられます。
さらに、知的障害ではないものの、社会生活の中で困難を抱えている人に対して、2000年ごろから着目されたのが発達障害です。自閉スペクトラム症やADHD、学習障害などが代表的です。
2005年には発達障害支援法が施行され、社会的な支援が行われるようになっています。
しかし、それでも見落とされてきたのが境界知能の人たちだといいます。
小児精神科医・青山学院大学教授 古荘純一さん
「境界知能で困難を抱えている全ての人に支援が届くべきですが、日本の人口の7人に1人いるとされ、規模が大きく難しいところも多いです。
発達障害もそうでしたが、世の中に認知されることが第一歩です。いま一番大切なのは、社会がまずこの境界知能について理解すること、困っていそうな人がいたら助けられるような社会を目指すこと。まずは7人に1人いるという意識をしっかり持つことが大事だと思います。
制度として対応していくには、まだ時間がかかります。国や自治体、研究機関が、まずは境界知能の人の実態をきちんと調査して、どのような支援ニーズがあるのか知るところから進めていかなければならないと感じています。
最終的には、理解増進法や支援法など法律的な枠組みができると、支援が具体化していくと思います」