歴代の「朝ドラ」主題歌
連続テレビ小説(朝ドラ)の主題歌は毎朝耳にする曲とあって、皆さんの心に残っているものが多いのではないだろうか。1961(昭和36)年スタートの第1作『娘と私』以来、朝ドラのオープニング・テーマといえば、歌詞のない曲(インストゥルメンタル)だった(ただし、歌詞入りの歌がドラマ中の挿入歌として使われたり、1週間の終わりにエンディングで流されたりすることはあった)。しかし、次第に歌詞のある曲、いわゆる“主題歌”が増えていき、2010(平成22)年以降はほぼ歌詞入りに。
では、これまでどのようなアーティストがどのような曲を歌ってきたのだろうか。作品をイメージしてアーティストが決まり、物語をもとに書き下ろしすることが多いなか、2020年の『エール』の主題歌は、数々のヒット曲を生み出していく主人公・古山裕一と同じ福島県出身のGReeeeNが担当した。
GReeeeNは、「僕たちGReeeeNメンバー4人は福島県で出会い、結成をしました。僕たちのゆかりの地、福島出身の偉大な作曲家・古関裕而さんをモデルとした作品に関われること、大変光栄です」とメッセージをよせている。また、番組タイトルが『エール』ということもあり、数々の応援歌を歌ってきたGReeeeNの楽曲「星影のエール」は物語にぴったりの主題歌だった。
これまでも、沖縄出身のヒロインが主人公の第64作『ちゅらさん』(2001年度)の主題歌はKiroro、第87作『純と愛』(2012年度)はHYと、沖縄出身のアーティストが担当。
横浜生まれのヒロインが岩手県で老舗旅館の女将を目指す第76作『どんど晴れ』(2007年度)の主題歌は横浜出身の小田和正、第91作『マッサン』(2014年度)では、主人公が活躍する舞台が北海道ということもあり、北海道出身の中島みゆきが主題歌を歌っている。
このように『朝ドラ』の主題歌は、その物語をイメージして制作、提供されたものが多い。そこでここでは、ドラマと共に思い出される『朝ドラ』主題歌(歌詞入りのオープニング・テーマ)の歴史を振り返ってみよう。
オープニング・テーマ第1号は『ロマンス』
“主題歌”が最初に登場したのは第32作『ロマンス』(1984年4月~9月放送)だ。芹洋子と主演の榎木孝明が「夢こそ人生」を歌った。
『ひらり』以降、著名な歌手が続々
エポックメーキングとなったのは、第48作『ひらり』(1992年10月~1993年4月)の主題歌だった。オープニングに流れたDREAMS COME TRUE(ドリームズ・カム・トゥルー/以下、ドリカム)の「晴れたらいいね」は、東京・両国界わいの風景を背景にした映像に見事にはまった。毎朝、『ひらり』から流れてくるさわやかで、はずむような歌声が、たちまち大勢の人々を魅了。放送開始から1か月足らずのうちに発売されたCDは、いきなりヒットチャート1位に躍り出た。
この歌の歌詞には“ひらり”という言葉が出てくる。作詞・作曲、そしてボーカルを担当したドリカムの吉田美和は当時、「『ひらり』というタイトルが大好きなので、そのイメージを大切に、気持ちが優しくなるような歌にしようと思いました」と話し、「何年か後、『ひらり』を思い出した方に口ずさんでもらえるような心に残る歌」を目指したと語っている。
朝ドラ初の本格的な主題歌は、幅広いファンの心をつかんで大成功。これ以降、人気ミュージシャンによる主題歌が増えていく。
そして、『ひらり』から26年ぶり、第99作『まんぷく』(2018年10月~2019年3月)で再びドリカムが主題歌「あなたとトゥラッタッタ♪」を担当。同一アーティストが2回目の主題歌を制作、歌うことは連続テレビ小説史上初となる(2021年現在)。「インスタントラーメン」を生み出した夫婦、福子と萬平の知られざる物語を描く『まんぷく』。ドリカムの中村正人と吉田美和は、「二度目の主題歌担当ということでとても光栄に思っています。笑ったり泣いたり怒ったり、福子さんの萬平さんに対するスペシャルな“愛”をマーチのリズムに乗せて届けます。この楽曲が『まんぷく』と一心同体となり、ひとりでも多くのみなさまが“トゥラッタッタ♪”と口ずさんでくださることを願っています」とコメントしている。
ミュージシャン夫婦が活躍!
その翌年の『ひまわり』(1996年4月~10月)の主題歌は、山下達郎の「ドリーミング・ガール」。北海道のひまわり畑の映像にのせて躍動感あふれる歌声が流れた。「朝ドラの主題歌は非常にスペシャル。月~土の毎日、衛星放送を含めたら1日3回プラス土曜日の総集編まで半年間、毎日流れるわけですから」と山下達郎。楽曲作りにあたって、その回数に耐えられるような飽きの来ないものを目指したそうだ。
それから12年後、山下達郎夫人の竹内まりやが朝ドラの主題歌を担当することになった。島根県出雲市と京都を舞台に描く双子の物語、朝ドラ第79作『だんだん』(2008年10月~2009年3月)だ。
主題歌「縁(えにし)の糸」を手がけた竹内は出雲市の出身でもある。歌手デビュー30周年、縁結びの神様の出雲大社が60年に一度だけのご本殿の特別拝観を実施した年。そんな記念の年に出身地を舞台にしたドラマの主題歌を担当することになり、「このうえもなく、うれしいご縁をいただけたことに感謝の気持ちでいっぱいです」というメッセージを寄せた。
夫婦で朝ドラの音楽、といえば、第57作『甘辛しゃん』(1997年10月~1998年4月)も忘れてはいけない。主題歌「涙の天使に微笑みを」を歌ったのはサザンオールスターズの原由子。作詞作曲を夫の桑田佳祐が手がけた。制作統括の秋山茂樹チーフ・プロデューサーが「原さんと桑田さんから番組へのすてきなプレゼント」と話したように、育てる心、いたわる気持ちを大切にした曲だ。原も「桑田の詞ですが、女性なら一度や二度はこんな気持ちなったことがある共感しやすい内容です」と語り、夫婦が心を合わせた作品となった。
さらに第96作『ひよっこ』(2017年4月~9月)では桑田佳祐自身が歌う「若い広場」が主題歌に。1960(昭和35)年~1970(昭和45)年代の日本の高度成長期を支えた人々を描いているドラマとあって、都会で生きる人々が故郷を懐かしみ、若い時期の思いを胸にがんばろうとする歌詞となっている。NHKでは1962(昭和37)年から放送された『若い広場』という若者番組があったが、もしかしたらそのタイトルにちなんだ思いもあるのかもしれない。
女性のシンガーソングライターが活躍
第81作『ウェルかめ』(2009年9月~2010年3月)。徳島を舞台に、情報誌の編集に奮闘するヒロインを描く物語の主題歌は、aikoが歌う「あの子の夢」だった。また、やんちゃなヒロインが洋裁店を開き、自らのブランドを立ち上げて成功する姿を描く第85作『カーネーション』(2011年10月~2012年3月)は、椎名林檎の同名曲が主題歌。
「赤毛のアン」の翻訳家の半生をもとにした第90作『花子とアン』(2014年3月~9月)は絢香の「にじいろ」。戦後、女性のための雑誌を作ろうと出版社を起業するヒロインを描く第94作『とと姉ちゃん』(2016年4月~9月)は宇多田ヒカルの「花束を君に」が主題歌になった。
第91作『マッサン』(2014年10月~2015年3月)は、第53作『走らんか!』(1995年10月~1996年3月)以来19年ぶりの男性主人公。スコットランド人の女性と結婚した主人公がウィスキー作りに情熱をささげる物語だ。オープニングはウィスキーの原料となる麦の映像と共に中島みゆきの「麦の唄」(作詞・作曲:中島みゆき)が流れる。また、スコッチ・ウィスキーの発祥の地スコットランドにちなみ、イントロ部分にはバグパイプが使用されているなど、細かいこだわりを感じるものとなった。
さらに女性陶芸家の草分けとなるヒロインを描いた第101作『スカーレット』(2019年9月~2020年3月)の主題歌は、Superflyの「フレア」。タイトルの「フレア」には、炎(flare)と自己表現・才能(flair)のダブルミーニングが含まれている。
作詞・作曲を手がけたSuperfly(越智志帆)は、「『スカーレット』主題歌のお話をいただき、とてもうれしかったです。幅広い世代の方々に聴いていただけること、物語のオープニングとして毎朝聞いていただくことを意識して、ドラマのお話にスッとバトンをつなげられるような曲にしたいと思い制作しました。主人公である陶芸家の川原喜美子が“炎”と向き合い作品を作る姿に共感し、私にとっての“炎”はものをつくること・生きていくための好奇心や好きという気持ちを表しているものだと気付きました。その燃え上がった炎を大事に、絶やさぬように、という気持ちを歌っています。
毎日流れるのでメロディーはシンプルで口ずさめるようなものでありながら、明るさの中にも切なさがあるイメージで作曲しました。一方、アレンジはシタール(インドの民族楽器)やパーカッションなどいろんな国の楽器を取り入れ、主人公像の“枠にとらわれていない”世界観を表現しています。この曲を聴いてみなさんの中にもある“炎”を絶やさぬよう、ポジティブな炎を燃やし続けられるよう前向きな気持ちになっていただけたらうれしいです。私も主人公・川原喜美子の一生を、見守りながら、応援しながら見たいと思っています!」と、コメント。
どの作品も、作詞・作曲を手がける女性のシンガーソングライターが朝ドラのために楽曲を書き下ろし、ヒロインの姿とリンクするような歌声を聞かせてくれている。
俳優としても活躍するアーティスト
第59作『やんちゃくれ』(1998年10月~1999年4月)の主題歌「あそぼう」はウルフルズの勢いあるアップテンポな曲。ボーカルのトータス松本は、第103作『おちょやん』(2020年11月~2021年5月)でヒロイン・千代の父・テルヺを熱演し話題となった。それまでにも大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)や『いだてん』(2019年)に出演するなど、俳優としても存在感を示している。
第71作『わかば』(2004年9月~2005年3月) は大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)で主演を務めた福山雅治の「泣いたりしないで」が主題歌。『わかば』は、阪神・淡路大震災で父を亡くしたヒロインが、神戸で造園家への道を歩む物語。震災で傷ついた街と家族の心が再生を成し遂げるまでを描く内容で、主題歌もテーマが“再生”だ。アコースティックギターと福山の低音ボイスが印象的なバラード曲となっている。
第72作『風のハルカ』(2005年4月~9月) の主題歌「風花」は、シンガーソングライターの森山直太朗が担当。森山は2020年の第102作『エール』に小学校教師・藤堂清晴役で出演。主人公・古山裕一に音楽の楽しさを伝える役柄で、歌声を披露するシーンもあった。
第97作『わろてんか』(2017年10月~2018年3月)の主題歌は、松たか子の歌う「明日(あした)はどこから」。明治後期から終戦直後にかけて、ヒロインが“笑い”をビジネスにした日本初の女性と言われるまでになる物語。主演の葵わかなは、「“笑い”や愛がテーマのこのドラマを優しく温かく包んでくれる、そんな曲です」とコメント。松たか子の柔らかい歌声、前向きになれる歌詞に癒やされる方も多かっただろう。松は「今日が明日につながっていく、ささやかな私なりの応援歌」と語っている。
第98作『半分、青い。』(2018年4月~9月)。小学生のときに左耳を失聴してしまうヒロインが、高度成長期の終わりから現代まで、漫画家の夢に破れながらも、やがて一大発明をなしとげるまでを描く。この物語の主題歌は、星野源の「アイデア」。朝ドラで初めて、ヒロインが胎児のときから物語が始まる本作。この世に誕生したまさにその瞬間から大人になるまで、毎日を全力で駆け抜けるヒロインの1日の始まりを告げる「おはよう」という歌詞からはじまり、ひらめきを持つヒロインを象徴するかのような「アイデア」をタイトルにしている。星野が作り出す独特なリズムとメロディーが心地よい1曲だ。
『わろてんか』の松たか子は、大河ドラマ『花の乱』(1994年)や『秀吉』(1996年)、『坂の上の雲』(2009~2011年)などに出演。『半分、青い。』の星野は、連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』(2010年3月~2011年9月)、大河ドラマ『真田丸』(2016年)などに出演している。また、忘れてはならないのが、第49作『ええにょぼ』(1993年4月~10月)。主題歌「幸せになるために」は中山美穂が歌っており、中山は、前年放送の大河ドラマ『信長 KING OF ZIPANGU』(1992年)に出演している。中山は単独の歌手として初めて、歌詞入りのオープニングテーマを歌う俳優となった。
日本を代表するバンドが続々!
第59作『やんちゃくれ』の主題歌をウルフルズが担当するなど、ロックバンドやボーカルグループが朝ドラの主題歌を歌うことも増えている。
昭和のはじめに神戸の山の手で生まれたヒロインが、戦後の焼け跡の中、娘のため、女性のために、子供服作りにまい進し、日本中を元気にかけぬけていく第95作『べっぴんさん』(2016年10月~2017年3月)の主題歌はMr.Childrenの「ヒカリノアトリエ」。「べっぴん」という言葉には「作り手が思いをこめた特別なもの」という意味がある。
主題歌発表にあたり『べっぴんさん』のプロデューサーは、「最高の音楽を前に言葉は力を持ちません。これぞ“べっぴんさん”です」と語り、Mr.Childrenの桜井和寿は、「『べっぴんさん』との出会いが、僕らにまっすぐな希望の歌を与えてくれました。ひたむきな物語にそっと寄り添えるような曲でありたいと、強く願っています」とコメントしている。
第100作『なつぞら』(2019年4月~9月)は、スピッツが書き下ろした「優しいあの子」。
舞台が北海道の『なつぞら』。スピッツの草野マサムネは、「記念すべき“朝ドラ”100作目、大好きだった『おしん』や『あまちゃん』のようにインストがいいのでは? とも考えましたが、今回は歌ありです。ドラマタイトルが『なつぞら』なのに詞がかなり冬っぽい仕上がりになっています。これには理由がありまして、お話をいただいてから何度か十勝を訪ねました。そこで感じたのは、季節が夏であっても、その夏に至るまでの長い冬を想わずにはいられないということ。『なつぞら』は厳しい冬を経て、みんなで待ちに待った夏の空、という解釈です。広く美しい北海道の空の力で書かせてもらいました!」とコメント。心地よく弾むようなメロディーと、アイヌ語も取り入れた歌詞は、アニメーターを目指すヒロインの姿を後押しした。
2021年度前期 第104作連続テレビ小説『おかえりモネ』は、BUMP OF CHICKENの「なないろ」。「天体観測」でその名を世に轟かせ、その後も数々のヒット曲を生み出し続けているBUMP OF CHICKENが、つらい過去と向き合い、人に役立つことをしたいと前を向きながら気象予報士を目指すヒロイン・モネと、厳しくも美しい自然を描写する作品の世界観を表現。天気に関連するワードもふんだんに盛り込まれた軽やかな楽曲となっている。
主題歌発表はライブで
主題歌発表は、担当するミュージシャンから寄せられたメッセージを紹介したり、時には当人が出席して抱負を語ったりするなど、さまざまな形で行われる。
この発表会見場で弾き語りライブを披露してくれたのが、沖縄を舞台にした第64作『ちゅらさん』(2001年4月~9月)の主題歌「Best Friend」を担当したKiroroだ。ヒロインに選ばれた国仲涼子もKiroroと同じ沖縄出身ということもあり「主人公の恵里に自分たちを重ね合わせて作りました」という歌は、「私たちを取り巻くすべての出来事や人々への感謝の気持ちを込めた」ものになった。
放送途中から登場した主題歌も
放送スタート時は、インストのテーマ曲だったものが、ドラマの終盤になって歌のある主題歌に替わったというケースがある。
主題歌ではないけれど
いわゆる主題歌ではないが、朝ドラから大ヒットした曲にも触れておこう。
朝ドラにはイメージソングや挿入歌といったものも数多くある。そんな中で、なんと紅白歌合戦にまで出演するほどの大ヒット曲になったのが「夫婦(めおと)道」だ。
第55作『ふたりっ子』(1996年10月~1997年4月)で河合美智子が演じた演歌歌手・オーロラ輝子の持ち歌。ドラマのキャラクターでありながら人気が殺到し、ついにはCDまで発売して歌手デビュー、1997年の暮れにはオーロラ輝子として、本物の歌手とともに『第48回NHK紅白歌合戦』への出演を果たした。
第88作『あまちゃん』(2013年4月~9月)では、小泉今日子が天野春子という役名で劇中、影武者として歌っていた「潮騒のメモリー」を発売。実際の日本レコード大賞作曲賞を受賞した。ベイビーレイズの歌う「暦の上ではディセンバー」(劇中は架空のアイドルグループ・アメ横女学園芸能コースが歌っていた)もヒットし、一連の楽曲を『第64回NHK紅白歌合戦』で披露した。
【アカイさんの一言】
人気アーティスト、大物ミュージシャンが名を連ね、常に話題を集めてきた朝ドラの主題歌。
歌詞入りの主題歌ではないが、第77作『ちりとてちん』(2007年10月~2008年3月)のオープニング・テーマを演奏したのは、朝ドラ第82作『ゲゲゲの女房』のヒロインを演じた松下奈緒さん。第89作『ごちそうさん』(2013年10月~2014年3月)の挿入歌「焼氷有りますの唄」「いちごの唄~源太出征の日」「蘇州夜曲」を、西門希子という役名で歌ったのは、第94作『とと姉ちゃん』のヒロイン、高畑充希さんだった。彼女たちはヒロインに選ばれる前にミュージシャンとして朝ドラデビューをしていたというわけだ。
『連続テレビ小説』主題歌(歌詞入りのオープニング・テーマ)リスト
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※NHKアーカイブスブログ(2009年8月7日)より転載、加筆、写真追加
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