「被爆者の訴え共通認識に」 ノーベル賞・日本被団協が会見、不安も
ノーベル平和賞の受賞が決まった日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)は12日、東京都内で記者会見を開いた。受賞決定から一夜明けて改めて喜びをかみしめる一方、核兵器禁止条約(核禁条約)に背を向ける日本政府への批判や、被爆者運動の先行きへの不安も口にした。
会見には日本被団協の役員7人がオンラインもつないで参加した。
代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)は、この日朝にノーベル委員会の授賞理由をじっくり読んだといい、「被爆者の訴えを世界中の人に共有の認識にしていかないといけない、と委員長が判断したんだと思った」と話した。
同じく代表委員を務める田中重光さん(83)も「昨日は最高の日だった。先輩たちを受け継いできた私たちは正しい道を歩んだと思う」と喜びを語った。
一方、被団協結成から68年たってもなお、核軍縮は「期待した通りには発展していない」と田中熙巳さんは指摘。核兵器の保有などを全面的に禁じる核禁条約を日本政府が批准していないことを挙げ、「ノーベル平和賞は(批准に向けた)素晴らしい呼びかけになる」と強調した。
石破茂首相が、米国との「核共有」を検討する必要性に言及してきたことには批判が集中した。田中熙巳さんは「核共有は論外だ」と指弾。石破首相と面会して「徹底的に議論して間違っていると説得したい」との考えを示した。事務局次長の和田征子さん(80)も「戦争被爆国が加害国になるかもしれない。許してはならない」と訴えた。
今後の運動の先行きも話題に上った。被団協の地方組織は11県が休止・解散に追い込まれ、現在も活動しているのは36都道府県となっている。事務局次長の浜住治郎さん(78)は「先細りは事実。役員のなり手がおらず、財政的にも厳しくなっている」と打ち明けた。「『日本被団協の旗を降ろさないで欲しい』という声もある。工夫をして継続していきたい」と語った。
ノーベル賞の被団協委員「核共有ものすごく危惧」 石破首相に電話で
ノーベル平和賞の受賞が決定した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員の田中熙巳(てるみ)さん(92)に12日、石破茂首相から電話で祝意が伝えられた。米国との核共有や非核三原則の見直しの検討に言及したことのある石破首相に対し、田中さんは「(核兵器廃絶の)先頭に立って欲しい」と訴えた。
田中さんは12日正午すぎに、埼玉県の自宅前で石破首相からの電話を受けた。首相は冒頭、「おめでとうございます」と語りかけ、小学生の時に被爆後の広島市の映像を視聴し「見るにたえなかった」と自らの体験を紹介した。
これに対し田中さんは、石破首相が米国との「核共有」などを検討する必要性に言及してきたことに触れ、「核兵器は持ってもいけない、使ってもいけないと言い続けてきた。我々の言っていることとは反対のことになっていくのかと、ものすごく危惧しておりました」と懸念を伝えた。
また、「軍備で安全を保とうと考えると、行きつくところは核兵器だ」と指摘。「戦争をしないで各国同士の信頼や不信を解決していくという方向に行くべきだ。日本もその先頭に立ってほしい」と求めた。
電話のやりとりは約5分間。通話を終えた後、田中さんは「(被爆の悲惨さを伝えたいと)言っていることはまともなんですけども、国の政策としてやろうとしていることと全然結び付かない」と語った。石破首相と直接会って話したいとの意向を示した。
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- 【視点】
「今回のノーベル平和賞で何が変わるのか。核兵器がなくなるわけでもないだろう」というシニカルな視点もあろうかと思います。「象徴的な意味があるというが、その象徴とは何だ」という問いもあり得ます。 しかし、突然変なことを言うようですが、ロシア軍や米軍が持っている戦術核爆弾の最小威力は数キロトンから10キロトンくらいです。先日、ウクライナ軍がロシア軍の弾薬庫を吹っ飛ばした時と出力的にはあんまり変わらない。 それでも核使用はロシア軍にとってさえ躊躇われる行為であり、さすがにアメリカも「そこまでやったら直接介入するからな」と言わざるを得ないわけです。これは「キロトン」のようなテクニカルな話ではなく、「核兵器を使うというのはとんでもないことだ」という人間の認識によって生まれている状況と言えるでしょう。 被団協の活動は、その「認識」の部分に作用している点で、決して象徴に止まらない意義を持っていると思います。実際、受賞理由を見ても、そこには現在の世界に対して核の実態を訴える活動への期待が読み取れると感じました。
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- #ノーベル賞
- 【視点】
◆政府や国民は、被爆者の声に向き合ってきたか 日本被団協のノーベル平和賞受賞の背景には、これまでの被爆者の方たちの活動の積み重ねが認められたことと、いまの世界に警鐘を鳴らすという両面があると私は考えています。 その中で問われるのは、戦争被爆国である日本政府が、核軍縮、核廃絶を訴え続けた被爆者の訴えに真剣に向き合ってこなかった事実です。その象徴のひとつが、記事でも触れられている核兵器禁止条約への批准ではないでしょうか。 向き合ってこなかったのは、政府だけではありません。田中照巳さんが言うように、国民のマジョリティもそうした政府の態度を暗に認めてきたという面があります。「被爆者の方たちの声は貴重」と捉えつつ、他方で「現実の国際政治を考えれば、核の傘に守られるのは仕方ない」との思いです。 いまこそ、知ったつもりになるのではなく、この機会に改めて被爆者の方たちの話に真剣に耳を傾け、「仕方ない」で済ませたままでよいかを考え、議論すべき時ではないでしょうか。そのために残されている時間は、あとわずかです。
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- #ノーベル賞
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